7 かぞく ①
温泉での二人のやり取りを聞き、サオリの気持ちを知ってしまった僕は、イオリが言う通り悩んでしまう。
勿論、誰を選ぶかではなく、彼女達とどう向き合って行くべきなのか、僕自身がどうしたいのかについてだ。
今までは計画だからとか、イオリが僕を好きになるように作られたからだとか、理由を付けて考える事を放棄していた部分がなかったか?
その事を仕方ないなんて思った事は無いが、心の何処かで罪悪感って形でそんな風に思っている事に、あの日に気がついたというか、気付かされてしまった。
だから、僕はもっと彼女達自身を知るべきなのでは無いかと思う。
「兄上?どうかしましたか?」
「ごめん。ちょっと考え事してただけだよ。」
「なら、いいのですが。あっ、そこ、もっと優しくしてください・・・。」
「あぁ、ごめん。なら、こうしよう。
「あの、あたし、初めてなので、もっと、ゆっくりでお願いします・・・。」
「なら、こうかな?」
「そこはダメです!」
突然僕の部屋の扉が勢いよく開き、真っ赤な顔のイオリが怒鳴り込んでくる。
『2人で何をしているんですか!』
「格ゲーだよ?」「格闘ゲームですね。」
乱入してきて驚いたが、サオリがアニメを見て格ゲーをやってみたいと言ったので二人で対戦をしていたのだ。それがどうしたのだろうか?
『サオリちゃんがいかがわしい声を上げているから、何かと思って開けてみれば、お約束すぎませんか・・・。』
イオリは膝と両手を地面についてうなだれているが、キミのそれもベタすぎませんかね?
「いかがわしい事なんて言ってたかな?」
「どうでしょうね?あたしにはわかりません。」
サオリはイオリの様子を見てクスクスと笑っているのだが、アニメに出ていたレトロゲームと違い、割とハイスピードな格ゲーだから、ゆっくりやって欲しいとか言うのは仕方ないと思うんだけれど。
そんな事を思っていると、ふと、疑問が湧いた。
「ねぇ、イオリ?何でサオリの声が聞こえたの?そんな大きな声だった?」
『いや、あの、それは・・・。』
部屋に入ってきた時より真っ赤な顔をして慌てている。これはどうやら、扉の前で聞き耳を立てていたんだな?
「あねうえぇー?どーかしたんですかぁ?」
『サオリ!あなた、まさか!ワザとなのね!』
イオリが聞き耳を立てていると気がついて、サオリはからかうことにしたようだ。彼女は漸くその事に思い至ったのか、更に赤くなりながら抗議の声を上げていた。
「なんのことですかぁ?」
『んー!もう!サオリ!』
余りの恥ずかしさに、もはや言葉も出てこないようである。そろそろ止めるか。
「サオリ、その辺にしといてあげなよ。イオリはイオリで、盗み聞きはよくないよ。」
「はーい。」『はい・・・。』
こんな風な日常を過ごしながらも冬は深まり、そして僕がここに来て三年が過ぎ、春になりつつある3月のある日。
朝食の席で、僕は近いうちに新しく姉妹が増える事について2人に話をした。
「やったね兄上!姉妹が増えるよ!」
おい、やめろ!いや、本当にその言い方はやめなさい。
どこで知ったんだそのネタ。
12歳程にまで成長して、身長も更に伸びイオリを追い越してしまい、控え目なイオリに対して、自己主張も強めに育ってきた。
明らかにイオリと成長速度が違うのは、個人差なんだろう。胸囲の、もとい、驚異の格差を感じる。
『サオリちゃん落ち着いて。ご主人様?また私や、サオリちゃんみたいに培養区画で育てられて居るんですか?そんな話聞いてませんよ?』
妙な興奮をしているサオリを他所に、イオリが疑問を口にする。
「あれ?伝えて無かった?後2週間ぐらいで一緒に暮らす事になるよ。」
まぁ、僕自身まだ一度も会いに行っていないんだけれど。
『そういう事はもう少し早めに教えてください!』
「ごめん。言ったつもりになってたよ。」
最近考える時間が多く、ボーッとしていたので二人を突然の話で驚かせてしまった。
「まったく、兄上は仕方ないなぁ。」
『ご主人様は、近頃どこか抜けてますよね。』
「最近ボーッとしててこんな風に伝え忘れたり、話をちゃんと聞いて無かったりが増えたのは事実だから、気をつけるよ。」
ここ半年近く、僕がこんな調子のために二人に迷惑をかけてしまっている事は、反省しなければいけない。
『本当に気をつけてくださいね?でも、また姉妹が増えるのは嬉しいですね。ですが、これ以上ライバルが増えて欲しくはありません。』
「そうですね姉上。」
突然の話ではあったが、姉妹が増えるのはやはり嬉しいのだろう。だがイオリの最後の台詞、二人はもう僕の前でもあまり対抗意識を隠す気はないようだ。
「それともう一つ言い忘れてた。今回は1人じゃなくて、二人なんだ。」
「え?二人?」『二人ですか?』
先程反省すると言ったのに、この様である。
「うん、一気に賑やかになるね。」
「あ、姉上どうしましょうか?」
『ホント、どうしようサオリちゃん。』
「何が?」
「兄上が呑気すぎるから、怒ってるんですよ!」
『一気に二人も増えると大変じゃないですか!』
当然の抗議ではあるのだが、恐らく1から言葉を教えたりは無いと思う。
「ちょっと落ちついて?説明するから。今回の子達は、もう歩いたり、話せたり出来るらしい。培養槽の2基同時稼働の試験のために、二人なんだって。それとノアの蓄積した情報で教育計画を作成して実行していて、何故か会いに行けないようにされてる。」
管理者権限が必要だとか言われて、何をしているか、教えてすらもらえなかったんだけれども。
『んー?サオリちゃんや、私の時とは違うと言う事ですか。何が目的なんでしょうね?』
「それがよくわからないんだよね。それもあって、最近悩んでいたんだ。」
僕がここ暫く様子がおかしかった理由がわかり、二人はなるほどといった表情で頷く。それだけでは無いんだけれど。
「では兄上、この家に向こうから来るって事ですか?」
「迎えに行く必要はあるようだよ。」
『その日が来るまで待つしか無いって事ですね。』
「そうなるね。僕自身、よくわからない部分があって、2人を困惑させたく無かったんだ。ごめんね。」
「なら仕方ないですね。」
『それなら、余計に相談して欲しかったです。』
サオリは納得したようだが、イオリは頬を膨らませまだ少し怒っているようだ。
「まぁまぁ姉上。兄上も悪気があったわけではないでしょうし。」
『それはわかりますけどね。全く、ご主人様はもう少し私達を頼ってください。』
「僕は充分2人を頼っているつもりなんだけど。ごめんね。」
『あんまり、1人で抱え込まれてしまうと私達も寂しいですよ?』
そう言われ僕は二人の表情を改めて見ると、イオリもサオリも僕の事が心配だったんだろう。少し困ったような、仕方ないなとでも言わんばかりの表情で僕を見ていた。
僕は二人をもっと頼るべきなんだな。




