2 めいど ①
二話
『ごしゅじんさま、メイドって何?』
これが僕にとっての日常だ。
毎日このかわいらしい怪獣に、質問攻めにされる。
「メイド?お手伝いさんの事だよ。」
僕はそうとだけ答えると、再び昼食の準備に戻る。
今日のお昼は、今朝収穫したトマト等の夏野菜を使ったサラダと、ナスを入れたミートソースのパスタだ。
『おてつだいさんって何?』
内心やれやれと思うが、イオリの質問に対しての答えを考えながら、昼食の用意をする手は止めない。このぐらいの質問はもう慣れたものだ。
「そうだね、今僕がやっているご飯の準備を、僕のかわりにやってくれる人の事かな?」
『んー?ごしゅじんさまのかわりなんていないよ?』
「いや、僕の代わりではなくてね。何て言えばいかな?忙しい人の代わりをするお仕事と言えばいいかな?」
『んー?』
どうやら上手く説明出来ていないらしい。
イオリが両手で持っている僕のタブレットの画面を見ると、メイドの格好をしたキャラクターが両手でハートマークを作っている絵のまま停止していた。
なるほど、と思いながらイオリに昼食の支度が出来た事を伝え、食卓に料理を運ぶ事にする。
「じゃあ、いただきます。」
料理を並べ終え食べ始めようとした時、イオリが呼び止める。
『まってー!ごはんが美味しくなるおまじない!』
そう言うとイオリは、おいしくなーれおいしくなーれとアニメキャラと同じように、両手でハートマークを作りながら呟く。
「早く食べないと、冷めちゃうよ?」
そう言いながら、先程まで見ていたアニメにすぐ影響されてしまうイオリの姿を見て微笑ましく感じた。
自分も小学校低学年ぐらいの時は、戦隊モノのヒーローの真似をよくしたものだと思う。
『はーい。いただきまーす。』
おまじないに満足をしたらしいイオリは、きちんと合掌をし、漸く昼食を食べ始めた。
食事を摂らせるのも最近は大分楽になってきた。最初の頃はよく手掴みで食べようとしていたなと思いながら、自分の分の食事に手をつける。
それはもはや、父性に近いものであるのだが、僕は歳の離れた妹が居たらこんな感じなのかな?と考えつつ、他愛もない会話をしながら食事を終えた。
『ねー、ごしゅじんさま?おてつだいさんってごはんつくる人?』
食事を終え2人でゴロゴロしていると、思い出したかのようにそんな風に聞いてきた。確かに、さっきの説明じゃそう思っちゃうよね。
「ちょっと違うかな。例えば、僕が一日中お外で仕事をしている間に、家の中の掃除をしてくれたり、洗濯をしてくれたり、ご飯を作ってくれたりする事をお仕事にしている人かな?」
そんな風にイオリに説明してみたが自分自身それで正しい説明なのかはわからなかったし、確かめる術はもう無かった。
『へー!そうなんだ!じゃあ、ごしゅじんさまがイオリのメイドさんだね!』
「ぼ、僕がメイドさん?!」
思わずむせそうになるのと同時に、封印していた忌まわしい記憶が呼び起こされそうになったが、とりあえず落ち着こう。
「メイドさん・・・は主に女の人に使う言葉だと思うから、僕の場合だと執事さんかな?それならば確かに間違ってはいないかも。」
掃除洗濯はもちろん、炊事やイオリの身の回りのお世話までしてるからね。
『ひつじさん?ごしゅじんさまひつじさん?』
典型的なボケをありがとう。本人は至って真面目に言ってるんだが。
「ひ、じゃないよ。し!」
『んー?』
よくわからないといった様子で首を傾げている姿は本当にかわいらしい。
ちょっと長めのピンクが入ったような赤い髪で、今の身長は小学校低学年の子供と同じぐらいかな。
言葉の成長は見た目より若干幼い気はしなくも無いが、教材が僕のコレクションと僕との会話だから、仕方ないのかもしれない。
『ねーねーごしゅじんさま?ひつじさん見たい!』
「ひつじ?動物のひつじさん?執事じゃなくて?」
『ひつじさん!毛がもこもこしてて、めぇーってなくひつじさん!』
どうやら興味はひつじに移ったようだ。
「どこかに居ると思うけど・・・、ちょっと聞いてみるか。」
そう言うと僕は、ノアに尋ねる事にした。
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ひととおり見たけど、かぶってそうな小説見当たらなかったしいいかな?って