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箱庭少女育成計画  作者: 眠る人
ふたり

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幕間 ユウシャ ④

『はぁ?』「えぇっ?」

 ナツキとミサキは目の前のオッサンの発言に困惑する。

 まぁ俺もなんだが。


「とてもそうは思えませんが・・・。」

「そりゃそうだろうねぇ。私自身はタダの冴えないオッサンだし。」

「えぇと・・・。」


「あぁ、いいよいいよ気を使わなくても。まぁ説明させてね?」

「はい、お願いします。」

 まず、この世界は異世界で、地球のように発展させたかった観測者達がテコ入れ目的で、日本等の先進国で機械工学等の技術者や研究者を転移させているとの事だった。


 俺が女神様とか呼んだ奴は観測者の1人らしい。

 ドクの時は男だったそうだ。

「アイツらはね、戦争させる事が目的の一つでもあるんだ。」


 どうやら、観測者達は転移者に少しずつ違う事を吹き込んで、戦争を起こさせ技術発展を促している節があるとの事。それは劇薬じゃないか?下手をしたら致死毒だぞ。


「なんでそんな事するんですか?」

「それは私にもわからないが、街づくりゲームのイベントを起こしてるようなものかもね。」

 それが本当なら、相当頭がイカれてやがる。


 転移者が最初に確認されたのは5000年以上前らしいが、この世界と地球の時間軸は連続していないらしく、恐らく俺達と近い年代を生きていた人物との事だ。


 それは遺跡調査で発覚したらしい。文献はないとの事なんだが、神話に近い形で伝承があり、考古学者が調査の際に遺跡を発見、内部は大分損壊していたようだが、地球の現代日本文化の遺物が発見された。フィギュアの残骸らしい。

 遺跡と言っても、SF染みた機械仕掛けの巨大な何かだったそうだが。


 強大な力を持った神が人間に打倒される伝承と、建造物の規模や機械類等から、恐らく知識チートを貰った転移者が居たのは間違いないとの事らしい。


 らしいらしいと推論が多いのは、大々的な学術調査は行っていない事、現在のこの世界の技術水準と比べても、余りにもかけ離れすぎていて解析はおろか、目的すらわからない遺跡の為、情報の隠蔽がされている事が理由だ。


 まぁ、普通ありえんわな。


 転移者は一定間隔で送られてきて、勢力が拮抗するように情報を吹き込み、対立させ戦争状態を維持させる。


 ドク達の勢力は、転移者を帝国側が確保して説明をし取り込む事で、技術的なバランスを崩して一国に力を集約させ戦争へ至らないよう画策している段階なのだという。


「元々私が来た時点でこの国は一番大きな国だったんだが、賛同者を集めてより強大な国にして、戦争が起こらないようにしたいんだ。」

『それって変じゃないのー?』

「何故だい?」

『他より強くなって、他を脅すって事でしょ?やろうとしてる事がガキ大将みたいじゃん?』


「正しくその通りだよ。これが正しいなんて事はあり得ない。」

『でしょ?』


「ただね?考えてみてほしい。世界を滅ぼせる程の力を持つ国を作るって事はだよ?自分の国を滅ぼせる力を持つ相手に簡単に喧嘩は売れないよね?だから、力を持つ事で戦争を起こさせない抑止力になるって事なんだよ。」


『ちょっとよくわからないんですけどー?』

「自分は強いぞって見せつける事で、喧嘩を挑まれないようにするって事さ。わかるかい?」

『そんな事したらただの悪者じゃん?』


「うん、その通り。恐怖による戦争の抑制なんて反感が生まれるに決まっている。でもね、大きな戦争なんて、平和な国に生まれた私には耐えれなかったんだ。例え、自分が後世にまで名が残るような悪人扱いされたとしても、私は戦争を止めたかった。手段もこれしか思いつかなかったんだ。」


 なるほどな。確かに地球でも、大国は抑止力のための戦力を持つ事で戦争を起こさないようコントロールをしている。

 平和な国に生まれた俺達には、その事自体が悪に思えてしまうのだろう。


「事実、私が来てからは戦争状態の国の数は減り、今は大国の三国以外は小さな内紛はあれど、大きな戦争で沢山人が死ぬ事もなくなった。ここまで30年はかかったよ。」


 たった30年でそこまでしたのか。この人はどれだけの苦労をしたのだろうか?俺には到底思い付きも、実行に移す事すら途方もない事に感じた。


「凄いですね・・・。」

 俺にはそうとしか形容出来なくて、少し恥ずかしくもあるけれど、素直にそう思う。


「ははは、よしてくれ。私1人でやった訳じゃない。沢山の賛同者が居たからこそだ。私だって、観測者達の思惑に気付くのに時間がかかった。最初は、戦争を止めたかっただけのただの大学生だったんだ。」


「それでもですよ。俺には真似出来ない。」

 転移して、ユウシャのようになって、ヒロインと結ばれてって考えてしまった自分が恥ずかしくなる。


「それにね。転移してきた人全てが私達に協力してくれた訳じゃない。観測者の言葉を信じ切って私達の話に耳を傾けてくれなかった人や、自分の権利や金銭を手に入れて好き勝手に振る舞いたい人も何人もいた。」


「それは仕方ない事なんだ。全員が同じわけではない。だから戦争だって起こる。私自身、正直これが自分の我儘だとはわかっている。でも、そこのデイブのように、そんな私の考えに賛同してくれる者がいる限りは、私も倒れるわけにはいかないんだ。」


 俺達3人は何も言えなかった。

「ドク、貴方のそれは我儘ではない。我々この地に住む者の事を思い、胸を痛めるからこその義憤だ。だから、我々軍部も協力を惜しまないのだ。上層部の思惑の全てがそうではないだろうが、少なくとも私個人は貴方の考えに賛同している。」


「ありがとうデイブ。私は良い友人達を持った。」

「よしてください、ドク。」

 ドクは泣いていた。


 これか、違和感の正体は。観測者の言う通りの人達なら、こんなにも悲痛な表情で、まだ子供の俺達に訴えてくるだろうか?


 デイブさんにしても、俺達をまるで客人のように丁重に扱ってくれた。最初の保護の時だって、俺達を傷つけたくなかったって言ったのは本心だったんだろう。

 演技しているなんて、思えなかった。


「でも、疑問があるんです。」

「何かな?」

 ドクは涙を拭い、俺達に向き合う。

「何で俺達は今回飛ばされてきたんでしょう?言っちゃなんですが、俺達ただの高校生ですよ?」

『そうねー。』


「はい、私達別に特別な力とか、地球でだって何かを専門的に勉強していませんから、先程の技術者の話と矛盾している気がします。」


「確かに私も大学の時はエネルギー工学を学んでいて、こちらに来る際にこちらの物理法則や、持って居た知識やの強化をされて来たんだ。」

「はい。」


「奴らはどうもオタク気味の奴らに目を付けて転移させているらしい。転移してきた者達と沢山話をしてきたが、例外はなかった。かく言う私もアニメやライトノベルが大好きだ。心当たりはあるかい?」


 あ、ありすぎる。

『コイツ、観測者が女神って名乗ってないのに、勝手に先走って女神様!とか言ってましたー。』

「あっ!ナツキちゃん!しーっ!」

 俺が俯いている事に気付いたナツキが茶化すようにバラした。


 やっべ。超恥ずかしい!

 顔から火が出そう。

「ぶふっ!失礼、どうやら君達も同類のようだ。どうだい?この後、私のコレクションでも見るかい?一部持って来てるんだ。きっと今回も同類が来ると思っていてね・・・。」

「ドク!それは後回しにしてください。」


 ドクは思わず吹き出したが、少し嬉しそうな顔だ。

 デイブさんも口でドクを諫めるも、顔が笑っており、口元がヒクヒクしている。


「な、ナツキだって、世界を救ってくださいって言われた時にやけながら、しょうがないわねーとか言ってたじゃないか!」

『はぁ?言ってないしー!』

「いいや!言ってたね!」


「こらこら君達。やめなさい。話を戻すね?恐らくなんだが、口に出すと自分もそうだから恥ずかしいんだけれど、英雄願望のある者達だとコントロールしやすいからと言うのが理由の一つではないかな?」

『そんな面倒な事しないで、直接手を出せばいんじゃね?』


「それは私も考えた事はあるんだよ。でも奴らはしてこない。それは、手をだせないって事なんじゃないかな?」

「と言うと?」

「考えても見たまえ、自ら手を下して世界を弄れるのなら、わざわざ沢山の転移者を用意する必要もあるまいて。労力の割に不確実性が高い。この私のように。」

『確かにそうね。』


「だから、奴らは神ではなく、ただのゲームマスターに近い存在。いや、流れ自体をコントロールしきれていないから、観測者や観察者と呼ぶべき存在だ。」

「なるほど。」

 だから観測者って呼んでたのか。


「ユウ君達に関しては正直不可解な点がある事は確かだ。何時もは5年周期で1人なんだが、3人で来た事。これに関してはよくわからない。」


 それについては俺に心当たりがある。

「それは帰り道で俺が駅のホームから吹き飛ばされて、この2人が俺を助けようとして、一緒に電車に引かれそうになったからだと思います。その次の瞬間に観測者の前に立っていたので。」

「なるほど。想定外だったのかもね奴らにとっても。」


『あ、アンタなんか、べ、別に助けようとしてないし!』

「ナツキちゃん、凄く必死そうでしたけど・・・。」

 ツンデレか。リアルツンデレには萌えないんだ俺は。


『ミサキ!余計な事言うなし!』

「あはは、ユウ君はは2人から余程好かれているようだね。」

『やめてー!』

 ナツキは顔を真っ赤にしてドクに掴みかかり、ミサキはちょっと下を向いていて表情は少し暗い。

 ミサキ・・・ごめん。


 捕まれて苦しかったのかドクが咳込むと、ナツキはしまったといった表情で手を離し、再び席についた。

「また、話がそれてしまった。二つ目は、キミ達3人が知識を有していない事なんだが、これは憶測になるのだが、ちなみにキミ達はどんな強化をもらった?」

「えぇと確か、肉体強化と科学知識強化と言ってました。」


「ふーむ、やはりと言うべきか。今まで肉体強化なんて貰っている転移者は居ないんだよ。」

『どゆ事?』

「えぇと、少し言いにくいのだが・・・。」

 ドクの表情が曇り、口ごもる。


「サイボーグ化ってわかるかい?」

「まぁ、はい。」

 たまに映画やアニメで見るしね。


「簡単に言うと、人体を機械的に強化したりする事だが。恐らくその被験体として使うため・・・なんじゃないかと・・・思う。」


 突然の話に衝撃を受け、言葉が出なかった。

『はぁ!?意味わかんない!』

 ナツキの怒鳴る声が響き、俺もはっとする。

「そうですよ!なんでそんなSFみたいな話になるんですか!」


「すまない、根拠がない訳じゃないんだ。10年前の転移者に機械化服を研究していた者がいた。パワードスーツってヤツだね。」

「はぁ。」

 サイボーグの話じゃなかった?


「そいつはサイボーグ化、と言っても機械化義肢の事なんだが、その研究もしていたんだ。地球では倫理的にNGだから実験は出来ない。」

「まさか。」

「そのまさか、だよ。そいつは私達の考えに賛同しなかった。というより、好き勝手にすると言ってさっさと出て行った。」


「その後も後追いはしていたんだが、連合軍で機械化兵士の実験をしていて、その実験が上手くいってないらしいんだ。」

 嘘だろ?人体実験してんのか?

「どうも、機械化義肢等の負荷に生身の部分が耐えれないらしく、短時間しかまともに動かせないようだ。」

「だから、肉体強化をされた人間を使うと?」


「いや、連合はキミ達が肉体を強化されている事を知らないと思う。知っていたら、こんなに簡単に我々が保護出来ないはずだ。」

「ただ、知られてしまったら、恐らくは機械化兵士の被験体になったと思う。恐らくその為に、観測者共は肉体強化をしたんだろう。」


 正直、一番ショックな発言だった。

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