5 みずぎ ⑥
昼食を摂り終え、午後からも遊ぶ予定ではあるのだが、正直かなり疲労感があり眠くなったので、僕は昼寝をする事にした。
「2人共ごめん、昼寝をしてきていいかな?僕ちょっと眠いんだ。」
『はい、構いませんよ。』
「兄上!あたしもー!」
『サオリちゃんは、私とここのお片付けをしましょうね?ご主人様はいつも頑張ってくれてるから。』
「むー。わかりました姉上。」
聞き分けの良くなったサオリの頭をよしよしと撫で、イオリにいつもありがとうと伝えて、外に出た。
海の家の中は昼寝をするようなスペースがなかったため、すぐ近くにいい場所がないか探す。
建物の裏手に少し背の高い木があり、そこに木陰が出来ていたため、その場所で大の字に横になる。
風が心地よく、遊んだ後の疲労感も相まって、僕はすぐうとうとし始めた。
どのくらいの時間が経ったかはわからないが、微睡んでいる僕の元へザッザッと歩くような音が聞こえてきた。
『寝ちゃいましたか?』
イオリが僕を起こさないように気を遣いながら、小さな声をかけた。
返事をしているつもりなのだが、ふにゃふにゃ言っているらしくクスクス笑う声が聞こえる。
『ご主人様むにゃむにゃ言っててかわいい。寝顔もちゃんと・・・』
僕の意識が徐々に遠くなっていき、最後まで聞き取れなかったけれど何かを言い終わると、唇に柔らかい感触がして僕の意識は途絶える。
懐かしい夢を見た。ここに来る前の思い出が断片的にスライドショーのように流れて行くものだったが、僕は懐かしいなって感じていた。
そのままゆっくりと意識が戻って行く時、誰かの言い争う声が聞こえた。
誰かのまではわからないけど。
そして僕は目を覚ます。
『・・・なのっ!』
突然イオリの声が響き、僕は飛び起きた。
『ご主人様!?』
「兄上!?」
「2人ともどうしたの?大きな声が聞こえた気がしたんだけど。」
イオリがサオリの手首を掴み、握りしめながら今まで見た事もないような怒った顔をしていたのは一瞬見えた。サオリはこちらに背を向けていたため、どんな表情だったのかはわからない。
僕が起きた事で、今は2人とも驚いた表情でこちらを見ていた。
『すみません、起こしてしまいましたね。』
「いや、それは大丈夫だけど、何かあったの?」
『いえ、何もありません。』
酷く気まずそうな顔でサオリの手首は掴んだままに顔を逸らすイオリ、サオリも同じように黙って顔を逸らす。
喧嘩でもしたのだろうか?普段から、たまに喧嘩をしてるような声が聞こえてくる時もあるのだが、なんか今日のは少し様子が違っていた。
2人とも黙ったままだ。
「とにかく、喧嘩してもいいけど、ちゃんと仲直りするんだよ?」
「『・・・』」
ダメだ、全く空気が変わらない。
原因を聞いてみてから仲裁するか?と思い聞くも、黙ったままだった。
仕方ない、今日は帰るか。日も暮れているし、このままでは何も進まない。
「とりあえず、今日は帰ろうか。いつの間にか日も暮れているし。」
「はい、兄上。」『わかりました。』
海の家にある荷物をそれぞれ回収し、3人で家路に着くも、行きとは違い、会話はなく、重苦しい空気だけが流れていた。




