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箱庭少女育成計画  作者: 眠る人
ふたり

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4 やきもち ④

 イオリに伝えた後僕はお風呂から出て、髪を乾かしてからひとまず自分の部屋に戻る。

 お風呂場の方からは、サオリとイオリが色んなアニメに主題歌を歌っている声が聞きこえ、楽しそうだ。


 その声を聞きながら、部屋を見渡す。一年前はフィギュアが飾ってあったりしたんだけれど、実は今はもうない。

 破壊の嵐のせいではなく、僕自身の手で廃棄したんだ。

 以前の僕には大事なモノであったんだけれど、サオリが来るほんの少し前、丁度イオリに恋人の話をした後に僕は18歳の誕生日を迎え、その日捨てた。


 もう僕には必要がないって感じたから。

 勿論色んな思い出があったものではあるのだけれど、僕にとってフィギュアは過去の象徴だったのかもしれない。

 以前のように昔の恋人の事も思い出さなくなった僕は、今大事にしなくてはいけないものに目を向けるために捨てたんだ。


 隣の部屋からバタンと扉が閉まる音が聞こえ、少し眠ってしまい時間が経っている事に気付いた僕は、慌てて自分の部屋を出て居間へ行く。


 居間に入ってイオリが来るまでアニメでも見ようかと思うが、ソワソワしてしまい画面を操作するも中々見る作品を決められない。

 そうこうしていると、足音が聞こえ、ガチャリと扉を開く音が聞こえた。


『ご主人様?何か御用ですか?』

 控えめに僕に尋ねながらイオリが居間へ入る。

「ごめん。何か用があるとかじゃないんだ。ただ、イオリと話がしたいなって。」

『そう、ですか・・・。』

 何となく気まずい雰囲気が流れ、僕はなにかを話さなきゃと思い立ったままのイオリに着席を促す事にした。


「立ったままもなんだから、こっちへおいで。」

『あ、はい。』

 ソファーの自分の横のスペースをポンポンと叩くと、イオリは僕の横に腰かける。

「サオリは寝た?」

『はい。お風呂から出たらすぐ眠くなってしまったようで、お布団に入ったらすぐに寝ちゃいました。』

 どう話しかけるかを思案するも、つい当たり障りの無い事を聞いてしまう。


「イオリもそうだったけれど、やっぱりすぐ眠くなってしまうんだね。」

 そう言いながら、自分が小さな頃を思い出そうとするも、よく思い出せない。

『まだ遊びたいけど、目蓋が重くなると言うか、意識が遠くなるというか、そんな感じでしたね。』

「そんなものなのかな?イオリは、眠くなるとよくだっこーって言って来てた気がするけど。」

『あれは・・・ご主人様が暖かくて安心するからですよ。』

 わかるなぁ、人の温かさって安心するよね。


「そういえば、サオリはあんまり抱っこって言わないね。」

『確かに言わないですが、寝てる時にしがみついて来たりとか、ご主人様の膝の上に座ってたりだとかでよくくっつきますね。』

「あ、なるほど。」

 言われてみれば確かに。今日も、僕の膝に乗ってアニメ見ていたし。


『ちょっと羨ましいです。』

 イオリはそんな風にポツリと呟くと、少し暗い顔をして俯く。

 ほんの少しの間、沈黙が流れる。


「なら、イオリも膝にのる?」

 居た堪れなくなり、ついそんな事を口走ってしまった。

『いえ、大丈夫ですよ。私重いですし。』

「大丈夫大丈夫。ほら。」

 僕は自分の膝を叩き、膝に座る事を促すがイオリは座ろうとはしない。

 それに成長して160センチくらいの身長とは言え、まだ僕より頭一つ分は小さいんだからそんなに重くはないはず。


「重く無いから大丈夫だよ。」

 動こうとしないイオリを膝に乗せるため、引き寄せようとするも真っ赤な顔をしながら無言で抵抗され、僕も半ば意地になってしまい、つい引き寄せる腕に力が入ってしまった。


 そうすると勢いがつき過ぎてしまって、イオリの頭を僕の胸元に抱き寄せる形になる。

『痛いです。』

 小声で抗議の声があがる。

「ご、ごめん。」

 慌てて腕を離すが、イオリはもたれかかったままだ。

『あったかい。』

 そう言うと僕の身体に腕を回し、抱きつくイオリ。僕は顔がカーッと火照るのを感じた。


 お風呂上がりだからだろうか、イオリの髪から凄くいい香りがする。同じモノを使ってるとは思えないくらい、女の子特有の甘い香りが。

 思わず僕もイオリを抱きしめてしまう。


 ビクッとイオリが小さく震え、僕を抱きしめる腕に力が入る。

 僕はどうしていいのかわからず抱きしめたままの格好で暫く動きがとまった。


 きっと時間にすると数分ではあるが、僕の心臓の音がイオリには聴こえているであろう体勢のまま、抱き合う2人。


 はっとした僕が腕を下ろそうと力を抜くと、イオリは今まで見た事がないくらい赤い顔で、潤んだ目をして、僕の顔を見つめる。


 そんな表情を見て、僕は息を呑んだ。

 照れくささや、恥ずかしさを誤魔化すため、僕はなにかを喋ろうと考える。


 その時だった。

 ふいに柔らかい感触が僕の唇に伝わる。


 先程までよりイオリの顔が近い。


 僕の心臓の音は、抱きしめていた時よりも大きくなる。


 それは痛いくらい彼女の気持ちが伝わる瞬間だった。

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