1 もえ ②
見てもらえるといいなぁ
家に向かって走り去ったイオリを追いかけ、僕も家の中に入った。
少し開けているが、建造物が全く無い中ポツンと佇む一軒家で、二人で暮らすには不用ではないかと思える5LDKの広さがある、見た目も近代的な平家だ。
内装は一般的なマンションと変わらず、フローリングに白い壁紙なのだが、周りに道路も民家もない場所では、あまりに近代的な建物は違和感を感じてしまう。
時間は、まだ昼前で家の中は明るい。
〈おかえりなさい。ご主人様。〉
イオリを追いかけ家の中に入った僕に、どこからか声がかけられるが、声の主の姿は見える事はない。
「ただいま、ノア。」
僕はそう返すと、続けてノアと呼ばれた存在に尋ねた。
「イオリは僕の部屋に行った?」
〈はい。〉
簡潔な答えが返ってくる。僕はその声の主にありがとうとだけ返し、家の一番奥にある自分の部屋へと急ぎ向かった。
破壊の嵐が巻き起こる前に止めなくてはいけない。
「入るよ!」
部屋の中に居るであろうイオリに、確認を取らずドアを開け中に入る。
すると、イオリは何かを手に持ち壁に向けて大きく振りかぶっている所であった。
「やめろぉ!」
僕は悲鳴に近い声をあげながら、イオリの手に握られたフィギュアを取り上げ、イオリを抱きしめて彼女の動きを封じた。
そうでもしないと、別のフィギュアが犠牲になりかねないぐらい暴れてしまうのだ。
『はなして!とめないで!』
「止めなきゃイオリが、僕のフィギュアをまた全部壊しちゃうでしょ!」
危ない間に合ってよかった。
『はーなーしーてー!』
「やだ、離さない!修復するの大変なんだから!」
こうした問答を数分続けていると、次第に腕の中のイオリが抜け出せないと悟ったのか、次第に大人しくなる。
ただ、涙目でかなり睨まれているのは気のせいではない。
『ごしゅじんさまのばかー!』
「本当にごめんね。」
イオリを抱きしめながらひたすら謝る。これは、側から見たら完全に不審者に見えるだろう。
なんせ17歳の高校生が、見た目5歳くらいの女の子抱きしめているのだから。そんな事を考えつつ、イオリを落ち着かせるため抱きしめながら、イオリの怒りが収まるのを待つ事にした。
暫く経つと、次第にぐすぐすという声だけが響くようになったので、出来るだけ優しく頭を撫でる。
頭に手を乗せた時イオリは驚いたようだが、撫で続けるうち次第に段々と落ち着いてきたようだ。
フィギュアは壊れてないかと確認しつつ、その事を声に出すとまた暴発しそうだったので、再度イオリに謝りながら抱きしめた腕を緩めた。
「ごめんね、寂しかったよね。」
『うん。よくわからないし、お話しきいてもくれないし。』
「本当にごめんね。もうしないよ。」
『もうしないって、このあいだもいってたー!』
そうだっけ?と惚けながら、イオリの頭を撫で続ける。
『ごまかしたー!ごしゅじんさまいつもそうだもん!』
「うん、いつも本当にごめんね。」
『もうしない?』
「うん、しない。約束するよ。」
『なら、ゆびきりね!』
昔からよくある約束のおまじないだ。僕も小さい頃両親や友達と約束する際によくやったものだ。
「それにしても、イオリ?前にも言ったよね?物は壊しちゃダメだよって。」
『でもー!』
「でもじゃありません。悪い事した時は何て言うの?」
『ごめんなさい。』
素直にそう謝ったイオリがあまりにもかわいくて、無性に頭を撫でたくなり優しく頭を撫でる。
「なら、これで仲直りね?」
『うん!』