0-1 方舟 ⑤
「なんで・・・。」
これは一体どういう事だ?色々ノアに聞きたいけれど、上手く言葉には出来ない。
僕が固まっていると、こちらを見る事に飽きたのか、女の子は培養槽の中をクラゲが漂うように泳ぎだしてしまった。
そうして漂う女の子を見つめながら、僕はノアに尋ねる。
「何故・・・彼女がここにいるの?ねぇ答えてよ!ノア!」
途中で感情が抑えられなくなり、最後は絶叫に近くなる。
〈彼女を培養し、一定の年齢まで育成するためです。言語等の知識の付与や、貴方の姿の刷り込みも現在行っております。〉
「そうじゃない!そんなの答えになってない!ちゃんと答えろよ!ノア!」
質問の形式になっていないからか、ノアからの返答はない。
「何故、あの子が僕の恋人だった人に似ているんだ!答えろよ!ノア!。」
女の子を指差しながら僕はそう言い放つ。
〈特定の個人に似る可能性はあります。遺伝子の調整の際に発生した偶然かと思われます。〉
「あり得るはずがない!似すぎている!」
そう怒鳴るも返答はなく、僕は少し気持ちを落ちつけて質問を選んだ。
「調整の際の偶然と言ったけれど、調整って何?あの子はどうやって作られたの!?」
〈調整については、疾患や放射線に対しての耐性の付与が目的です。作成の工程に関しては、複数の素体を回収しており遺伝情報を解析、先天的な欠陥等の調査の後に複数の素体の情報から、容姿や身体的な特徴を平均化しております。〉
前に顔の平均化をすると、何処かで見たような顔だとか、一般的な美形になるって聞いた事はあるけど、特定個人に似るってあり得るのか?
というか、そんな事まで調整して作れるってどれだけの技術が使われているんだ?
「ノア、キミを作った人は何者なの?こんな船が作られているなんて話、聞いた事が無いんだけど?」
〈当機を建造した人物についての情報はありません。当機が建造されたのは5200年前になりますので、貴方が当機の情報を認識しているはずがありません。〉
はぁ?情報がない?自分の情報を隠したかったのか?
それより、5000年以上前に作られたって、こんなものが何千年も発見されなかったって事の方が無理がある。人工知能なんだから、嘘を言ってるなんて事は無いんだろうけど、もう少し聞いた方がいいのかもしれない。
「この船は5000年以上もの間何処にあったの?」
〈地中です。具体的には地下20キロの位置になります。〉
「そんなバカな・・・。」
そんなの確かに見つかるはずはないけど。人類の到達点って10キロくらいだったはずだし。
あまりにも途方もない話に目眩がしてくる。
そんな技術なら遺伝子の調整なんてわけもないのかもしれないが、今更深く考えても仕方ないか。
なんか疲れた。
「とりあえず今日は戻るとするよ。ノア、帰り道の案内をお願い。」
〈かしこまりました。〉
僕は新しい情報に疲れてしまい、ノアに質問する事をやめ部屋に帰る事にした。
帰る前に、培養槽の方に振り返り女の子に軽く手を振り、またくるよとだけ呟いた。
女の子はこちらを見ては居たけれど、不思議そうな顔で見つめてくるだけだった。




