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箱庭少女育成計画  作者: 眠る人
いおり

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0-1 方舟 ④

 居住スペースの中は僕が快適に暮らせるように20度程に保たれているが、培養区画は少し肌寒いくらいの気温であった。


 出かける前にノアに渡された、腕時計型の端末に僕は話しかける。

 これはノアと会話するためのもので、僕の体温や血圧、心拍数等を記録する機能や、現在位置を把握する機能もあると説明を受けた。


 どうやら、全ての場所でノアと会話する事は出来ないためでもあるのだとか。


「ねぇ、ノア。ここ寒いんだけど、なんとかならない?」

 〈こちらの区画は、機器の冷却のため温度を下げる必要があり、気温を変える事はできません。〉


 先に教えておいてほしい事だった。居住スペースは半袖でも問題なく生活出来たからそのままの格好で来てしまったのだ。


「あんまり長居はするつもりはないけど、どのみちこれじゃ長く居たくない・・・。」


 僕は寒いのが苦手だ。一年で一番好きな季節は春で、夏が得意というわけでもない。

 彼女は夏が好きだったな。好きな理由が、かわいい女の子が薄着になるからとか、水着回がどうとか言われてやや引いた覚えもあるが。


 そんな戻ってこない日常を思い返しながら、僕は培養区画を進んだ。我ながら女々しいとは思うけれど、思い出に浸るくらいはいいだろう。


 ノアに道を聞きながら、居住スペースから大体30分ぐらいは歩いただろうか。漸く目的の部屋にたどり着いた。


「ここか。」

 そう呟き、部屋の前に立つ。

「開かないけど、この扉はどうやって開ければいいの、ノア?」

 〈右にあるパネルに端末をかざして下さい。〉

「わかった。」

 この腕時計はどうやら認証キーでもあるようだ。


 端末をパネルにかざすと、一瞬遅れて音もなく扉が開く。奥に緑色の光を放つ何かが見えるが、部屋自体が暗いためなんなのかは確認出来ない。


 僕が部屋に足を踏み入れると、パッと明かりがつき部屋の中の景色が露わになる。

 部屋の奥の緑色の光の正体は、3メートル程の高さもある円筒形でどうやらアレが培養槽のようだ。中に何かが浮かんでいるのはわかるが、少し距離があるためここからではよくわからない。


 僕は部屋の中を見回しながら、培養層に近づいていった。

 部屋の壁面には夥しい数の管が張り巡らされ、それらは全て培養槽に繋がっている。他に機械は見当たらなくて、部屋が広いだけにやけに寂しく感じる部屋だ。


 僕は歩みを進め、培養槽の前に立つ。近くで見るとかなり大きく感じ、遠くからではわからなかった中を確認するため、僕は培養槽を見上げた。


 緑色のモノは液体なのか固体なのかはよくわからなかったけれど、その中に浮かんでいる何かを僕は見つめた。

 人だ、3歳ぐらいの全裸の女の子だとわかる。

 髪の長さは肩ぐらいまであり、髪の色は紫色に見え、顔ははっきりは見えない。


 肋骨が少し浮き出ていて痩せている印象を受けるが、はっきり女の子だとわかる。ついてないしね。


 僕はもう少し確認しようと思い、さらに培養槽に近づき、手を当て、顔を近づけてみた。やましい気持ちはないよ?いや、本当に。

 培養槽は暖かかった。


 神秘的な光景に思えた。緑色の光の中に浮かぶ女の子を見て、綺麗な光景だって思ったんだ。

 暫くボーッと眺めていたら、ふと彼女と目が合った。

 その瞬間、僕の心臓が強く脈打つ。ドクン、ドクンと心臓の鼓動が早くなっていく。


 僕はそのまま固まってしまった。すると、彼女が手足を動かして泳ぐようにこちらに近づいてきた。


 その光景に驚くも動けず、彼女は徐々に近づいてくる。

 そうして彼女は僕の前に来たとき、培養槽の内側から僕と同じように、僕の手に重ねるように手を当て、顔を近づけてきたんだ。


 心臓の鼓動が早くなっていく。


 今なら彼女の顔がはっきりとわかる。


 似ている。


 僕の大事だった恋人に。


 小さな頃からずっと一緒に居た僕の恋人に。


 僕は今どんな表情をしていたのだろうか。ずっと彼女を見つめ続ける僕を、不思議そうな表情で見つめ返す彼女。


 どのくらいの間そうして居ただろうか。僕はただひたすらに彼女を見つめていた。

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