追放された元勇者パーティの奴にパーティを追放されたので、なんか無気力になった話
冒険者と言う職業は、要するにフリーターと同じだと思う。
生まれも育ちもごく一般的な村人の三男だった俺は、これまたよくある話で、口減らしと称して村から追放されてしまった。
だから、街に出て冒険者をやるしかなかったのだ。
俺が強いて他の人間と違う点があるとするならば、前世の記憶があると言う点だろう。
この世界とは異なる文明社会で生きてきた記憶。
それが役に立ったことはかつて一度もなかったけれど。
前世ではシステムエンジニアと言う職業についており、終生独身で孤独死をしたらしいと言う記憶なので、余計にどうしようもないのだ。
そんな俺でも、戦う才能はあったらしく、我流の剣術、槍術、弓術などと格闘術を合わせた戦い方でソロでもそれなりの冒険者として食いつなぐことができていた。
前世とはこれいかに。
まあ、冒険者ギルドがあるだとか、そう言う趣味で読んでいた冒険譚のおかげではあるけれども、そのおかげで口減らしで村を追放されて冒険者を強いられている連中と比較しても生存率が高いと言われるのは、怪我の功名という奴だろう。
そんな俺も、3年も冒険者をしていると、パーティメンバーができるわけで、徒党を組んで冒険者ギルドからの依頼を達成すればそれなりに収入が安定するのは事実であった。
そんな折に新たに加入してきた奴が居た。
アルトと言う男性メンバーであった。
真っ赤に燃えるような髪の毛に、真紅の瞳。アルトは誰がどう見てもイケメンであった。
こいつは、魔王討伐のために活動している、いわゆる勇者パーティのメンバーだったらしい。
諸般の事情でそのパーティメンバーを脱退して、一からやり直す事にしたとの事。
俺はそいつの加入に賛成した。
実際、俺のパーティはなぜか女性メンバーで構成されており、男手に困っていたのは事実だったからだ。
それから、アルトはあらゆる面で優秀であったことがわかる。
俺がこなしてきた事の何倍もできるのだ。なんでアルトは勇者パーティを離脱したのだろうか?
さすが勇者のパーティメンバーだなと感心していたが、それと同時にメンバーからの俺の評価がどんどん下がっている事に気がつく。
そして、しばらくしてから俺はアルトにこう告げられたのだった。
「ねぇ、ユーインくん。申し訳ないんだけれどパーティから脱退してくれないかな?」
これは、俺ことユーインがパーティから追放さるまでの話である。
◆
不意に自分の……冒険者ユーインの経歴を思い起こしていた。
俺が冒険者になったのは、寒村を追放されてから少し経ってからであった。
村は長男長女以外は奴隷商人に売られるのが決まりであった。
自分の上の長男だったりが事故なんかで死亡しない限りはその定めに従うことになるのだが、三男の俺にその話が回ってくるはずもなく、腕っ節だけは強かったので奴隷ではなく冒険者として町に捨てられたのが俺の冒険者生活の始まりだった。
魔法のあるこの世界だと、奴隷になるとそれ専用の呪文を体に刻まれるからね。
そうなると、奴隷以外で生きていくことはできなくなる。
だから、町中に捨てられたのは、両親なりの愛情なのだろうと俺は考えることにした。
最初の頃はそれこそ、浮浪者のようにゴミを食べ、なんとか食いつなぐ生活をしていたんだが、2週間で俺は街の外に出て、魔物を討伐したのが冒険者生活の始まりであった。
最初の頃は、魔物を狩ったら見様見真似で解体して、串に刺して焼いて食べる生活を送っていたと思う。
捨て子な挙句に、街の外に抜け出してしまったので、街に戻ることができなかったためだ。
薬草の知識については無かったので、適当にそれっぽいものを摘んで、門番の兵士に見せて判断してもらっていた。
魔物を倒すための武器も、門番のおっさんに物々交換で中古の武器と交換してもらっていたので、片手剣だけでなく槍や斧、ナイフや弓と言った武器を使いこなせるようにいつの間にかなっていた。
前世の知識なんて、料理をするときにどうやったら美味しくなるかと言った自炊経験ぐらいしか役に立たず、海も遠いこの地では塩も兵士のおっさんとの物々交換でなんとかしていた。
服はボロ布を魔物の皮と一緒に改造してやりくりしていた。
そんな日が半年は続いていたと思う。
成長期だったにもかかわらず、寒村では十分な栄養が取れなかったため痩せ細っていたこの体が、肉しか食べていなかったせいかがっしりと筋肉がつき、身長もそれなりに伸びていた。
そんなある日、いつものように兵士のおっさんに物々交換をしに向かったところ、あちらから声をかけられてきた。
「お前さん、冒険者ギルドに登録したらどうだ? それほどの腕があるならば、冒険者としてやっていけるだろうよ」
良いのか? と聞くとうなづいてくれ、おっさんのツケで街に入れることになった。
髪なんかろくに切ってなかったので伸ばしっぱなし(前髪は流石に邪魔なのでナイフで定期的に切ってはいたが)な挙句、魔物臭いままの服に魔物の返り血で赤黒く染まった服のままというのは見た目が悪かったので、兵士のおっさんにマントを貸してもらい、冒険者ギルドに向かうことになった。
「ほらよ、ここが冒険者ギルドだ。ここで冒険者登録をすればそのまま身分証にもなる。そうしたら、俺を通さなくても装備を整えられるさ」
「……ありがとう」
「良いってことよ。お前さん、律儀に文句言わずに頑張ってたからな。俺の依頼も正確にこなしてくれたし、それの報酬だと思ってもらえりゃ良い」
兵士のおっさんはそう言ってニカっと笑った。
その笑みが、なんだか尊いものに思えた。
前世以来誰からも感謝されずに生きてきた俺としては、十分な報酬に感じた。
「……ありがとう」
俺はもう一度、兵士のおっさんに感謝を伝えて礼をする。
「ま、頑張りなよ。お前さんなら良い冒険者になるだろうさ」
兵士のおっさんはそう言うと、踵を返して槍を持っていない左腕を挙げてひらひらと手を振りながら去っていった。
俺は冒険者ギルドに向き直る。
そう言えば、実際に冒険者ギルドに入るのは初めてだった。
あの捨てられてからの2週間はその日その日を生き延びるために精一杯で、ガムシャラだったから仕方が無いのだろう。
生き延びる事以外に目に入らなかったのだ。
俺は意を決して、冒険者ギルドの門を叩いたのだった。
それが、俺が寒村を追放されてから冒険者になるまでの話だった。
◆
……って何を思い出しているのだろうか。
思ったよりも俺自信ダメージを受けているみたいだった。
「……何故だ?」
理由、そう、理由ぐらいは納得のいくものを用意しているんだろうか?
そう言うつもりで聞いたら、アルトは肩を竦めて答えてくれた。
「説明、必要ですか? ユーインくん。君だって気付いているはずだよ?」
「……?」
「あなたがこのパーティーには不要であると言う事ですよ」
「……!」
思えば思い当たる節はある。戦闘面で言えば、俺は器用貧乏すぎるのだ。
近距離から遠距離まで対応できると言う事は、逆に言えば全て中途半端であると言う事だった。
俺以外のメンバーは明確にポジションが分かれており、前衛がアルト、中近距離の剣士のリステ、後衛の魔法使いのクローディア、後方支援の侍僧のマイラ。
なるほど、確かに俺の入る隙間はあまりなさそうである。
実際、アルトが入ってからと言うもの、俺が前に出るまでもなく戦闘は終了してしまうことが多いのは揺るがない事実であった。
それに、俺は対人で会話をするのが非常に苦手であるのだ。
最近では特にパーティメンバーと会話なんてした記憶がほとんどなかった。
「それに、ユーインくんならばむしろ1人でやった方が動きやすいでしょう? 僕たちはこれからもっと上を目指していく必要がある。だからこそ君には独り立ちをしてほしい。それがウィンウィンってやつですよ」
「……」
それならば、なんでお前は勇者パーティを出て行ったんだ? と言う疑問は、俺の口から出る事はなかった。
俺はいつのまにか人から嫌われることを随分と恐れるようになったらしい。
だから、正論を突きつけてくるアルトに俺は何も言い返せなかったのだ。
「……僕たちは、明日にはこの街……オルレアドを出て次の街エルシールに向かいます。君も身の振り方を考えておいてください。では」
アルトはそう言って、席を立つ。
俺は何も言い返せず呆然としたまま、アルトの後ろ姿を酒場の席の一角で見送ることしかできなかった。
俺は嫌われるようなことをしたのか?
俺はパーティを組んでくれた仲間だった人たちの顔を思い浮かべて、その出会いを振り返ることにした。
◆
元仲間たちとの出会いを思い出す。
最初に出会ったのは、侍僧のマイラだった。
マイラは聖堂教会の侍僧で、出会いは若干面倒臭いものだったことを記憶している。
その日は俺が依頼を終えて、報酬の計算を待っている最中のことだった。
俺はかなりコミュ障で、前世の記憶に引きずられてるのもあるが、対人関係がわりと苦手な方だった。
基本的に依頼は全て一人でこなし、依頼の受注は全てギルドを通してのみ行うと言う有様だった。
自分の思いを伝えるのが苦手なのだ。
口にしようとしても、「ありがとう」以外の言葉が出てこないと言うのもある。
それ以外の言葉が喉の奥でつっかえて出てこないのだ。
そんなのだから、俺とパーティを組むような冒険者はおらず、俺はその日を生き延びるために眈々と、一人でもできるような依頼をこなして日々の糧を得ていたのだった。
そんなボッチ冒険者の俺に話しかけてきた侍僧が、マイラだった。
一目で聖堂教会の聖職者だとわかるような姿をした彼女は、ギルドの待合の席でボッチで待っている俺に対して話しかけてきたのだ。
「あなた、そこのあなた。お話、宜しいですか?」
俺に話しかけてると思わずにスルーすると、肩を掴まれ、顔を覗かれる。
「あなたです。一人で依頼をこなす、実力のある冒険者ユーインさん」
「……は、はぁ」
俺はただただ困惑した。
前世と比較しても女性には前世基準で言っても美形が多いが、その侍僧は聖職者の割に美女だったからだ。
彼女……マイラは青色の髪に茶色の瞳をした、スタイルの良い美女であった。
ボッチ冒険者の俺に話しかける理由は無かったように思えた。
「わたし、侍僧をやっております、マイラです。以後お見知り置きを」
「あ、ああ……」
「よかったら、わたしの話を聞いていただけませんでしょうか」
セリフは尋ねるような感じだが、イントネーションは話す気満々と言った感じだった。
マイラはとにかく推しが強い女だった。
「わたしはこの度、修行として冒険者になることになりましたの。あ、テレンス教の教義はご存知ですよね? それで、一人では心細くて仲間を募集しているのですけれど、なるべくなら実力のある方とパーティを組みたいと考えていましたの。それで、ユーインさんは一人でも眈々と依頼を確実にこなしていく実力派の冒険者だと伺って、ぜひわたしとパーティを組んでいただきたいと思って声をかけさせていただきました。宜しいですか? 宜しいですよね? それではよろしくお願いしますね!」
俺はこの間、一言も話していないしうなづいてすらいなかった。
捲し立てられる言葉にただただ唖然としていただけのように思う。
聖堂教会の教義は興味ないし知らないが、聖堂教会が修行と称して信徒を冒険者へと誘うと言う話は聞いたことがある。
それに、回復魔法や補助魔法のような支援系魔法はこの世界では聖職者しか扱えない、いわゆる『神聖魔法』と呼ばれるやつだった。
「わたしは当然ながら『神聖魔法』であるヒールを扱えますし、ユーインさんの支援をバッチリできますよ。安心してください!」
ドンと胸を叩くそぶりをして自信を見せる彼女。
すでに彼女の中では俺が仲間になった事は規定事項のようであった。
この時、俺が冒険者になってから1年と少し経った頃だった。
それからと言うものの、彼女は俺の依頼についてくるようになった。
別に仲間になるのを了承したつもりはなかったが、コミュニケーションを上手くできない俺は、ちゃんと断ることもできず、流されるままになっていた。
実際、負担が幾分か減るので、助かるっちゃ助かる。
近隣のゴブリン討伐などは、それなりに苦労はするものの、マイラの支援魔法のおかげで傷一つ負わずに討伐が完了したのだった。
「いや、あなた本当に強いですね。近距離から遠距離まで一人で全てこなすって大概ですよ?!」
「……そうなのか?」
「ええ、ええ! 戦闘が伴う依頼は初めてでしたがわたしの目に狂いはなかったですね! まさに実力派の冒険者でした!」
俺が色々な武器を使えるのは、生き延びるためだったし、兵士のおっさんに中古の武器を斡旋してもらって色々と使う事になったからなんだがな。
どうやら世間一般では、習得した技能によってポジションが決まるらしかった。
ちなみに後で知ったのだが、技能を習得したとみなされるのは冒険者ギルドで技能証明試験と言うものを受けて認定されるそうだ。
ちなみに俺は、どの技能も認められていないので登記上は冒険者と言う技能を持っていることになっているらしい。
「……そうか」
とは言っても、ゴブリン掃除なんて冒険者なら誰だって出来るような仕事だ。
難易度も低く、初心者冒険者ぐらいしか失敗しないだろうから別に褒められたものでもなかった。
「次はもう少し危険度の高い依頼を引き受けましょう! わたしとユーインさんならできますよ! そうに決まってます! 次はアンデットの群れを殲滅しにいきましょう!」
聖職者ってやっぱりアンデットが嫌いなのかな?
聖堂教会って太陽神の教えのはずだし、アンデットはぶち殺すって感じなのかな?
そんな見当違いのことを考えながら、俺はゴブリンから討伐証明部位を剥ぎ取るのだった。
それが、マイラとの出会いだったと思う。
◆
次に出会ったのは、剣士のリステだった。
彼女と出会ったのは、依頼の最中だったと思う。
細身の体格で、刺突武器のレイピアを扱う剣士だった。
その日受けていた依頼はダンジョン探索。
古代の遺跡を探索して、お宝を見つけるというのは非常に冒険者らしい依頼であったが、俺が受けたのは別の依頼だ。
リステは貴族のお嬢様らしく、ダンジョンの探索に向かって行方不明になったので、探してきて欲しいと言う依頼だった。
生死を問わず、死んでいた場合は遺品を回収してきて欲しいとの事だったので、俺はその依頼を引き受けていた。
ダンジョンと言っても、古代の遺跡なのでこの世界の一般的なダンジョンとは違い構造が変わったりはしないのが特徴だ。
一般的なダンジョンは、魔力溜まりから発生すると考えられており、構造が定期的に変化する。
そして、ダンジョンコアと呼ばれるボスモンスターが生息しており、倒すとダンジョンが崩壊すると言った形になっている。
そのため、ダンジョンは成長するので早めの討伐をしないと難易度がどんどん上がってしまうと言う特徴がある。
ダンジョンを放置していると、ダンジョンから湧き出たモンスターが生態系を崩壊させるのだ。
逆に古代の遺跡は構造が変化しないダンジョンだ。
現行の技術では考えられないような仕掛けやゴーレム……ロボットが徘徊しており、侵入者を排除するのが特徴だ。
こちらもダンジョンボスがいるが、多くの場合はゴーレムだったりする。
どちらのダンジョンも一攫千金のチャンスが眠っているので、挑戦する冒険者は多い。
俺みたいな下位の冒険者は何でも屋という印象が一般的だけれども、上位の冒険者はダンジョンアタッカーが多いのだ。
なので、下位の冒険者を指して冒険者、上位の冒険者を指して冒険者などと言ったりする。
今回はその後者のダンジョンに挑むことになったわけである。
「わたし、古代の遺跡って初めて来ました! あなたも初めてですよね?! ワクワクしますねっ!」
一人盛り上がるマイラを連れて俺は遺跡に侵入していた。
古代の遺跡は超科学文明なのかなと不思議に思う。
前世の知識にある科学文明よりも相当発達しているように見えるからだ。
この世界について全てを知っているわけじゃないからなんとも言えないし、歴史も学ぶ前に捨てられたので、今いる地域の今いる国の神話すら……いや、国名すら知らない現状では、『知る』も何も無いだろう。
経年劣化で破壊された扉を潜りながら、遺跡内を探索する。
道中、機械人形に襲われるが、さほど苦戦することなく撃退していた。
遺跡内は機械的な造形を残しつつ、どこかで紛れ込んだのかわからない植物の蔓が張っており、植物系の魔物であるキラークリーパーが生息したりして討伐に苦戦したりもした。
「ずいぶんと奥まで来れましたね。思っていたよりもスムーズに来れて驚きですよ! 依頼のリステさんはどこにいるんでしょうか? 痕跡は残っているんですけれど、影は見当たりませんね」
「……」
マイラはよく喋るなと思う。
実際、俺があまり会話が得意ではない分助かっている面もあったように思う。
不意に物音が聞こえ、俺は指を指した。
「……向こうから物音がした」
「なるほど! もしかしたらリステさん達かもしれませんね! 確認しにいきましょう!」
「……」
俺はうなづくと、マイラと共に音のした方向に走る。
すると、蜘蛛の怪物……ジャイアントタランチュラだった。
「ジャイアントタランチュラ……!」
「え?! それって結構やば目の魔物じゃ……!」
「ジャイアントスパイダーも何匹かいるな。……どうやらこの遺跡はこいつらの巣だったらしい」
ぱっと見、ジャイアントスパイダーが3匹、ジャイアントタランチュラが1匹と言った感じだった。
ジャイアントスパイダーは文字通りの巨大蜘蛛で、糸で獲物を絡めて溶かして食べるヤバい魔物だ。
単体なら少し経験を積んだ冒険者ならば倒せるだろう。
ジャイアントタランチュラの方は、少し経験を積んだ冒険者では対処できないがな。
特にジャイアントタランチュラは麻痺毒を持っており、これに刺されれば、仲間がいなければ即食料として捕食されてしまうヤバい攻撃を持っている。
「あっ! 糸の玉が5個巣にぶら下がってますよ!」
「……!」
哀れな冒険者は、どうやら捕食寸前らしい。
いや、すでに食い破られた繭もあるため、どう考えても生存は絶望的だろう。
「……倒すぞ」
「えぇ?! 流石に無理ですよ!」
「依頼をこなしてこその冒険者だ」
冒険者にとって、依頼不達成と言うのは非常に信用に関わる問題だ。
今回の場合は仕方ないと周囲から言われるかもしれないが、俺は貴族を相手に依頼をこなせずに大口の依頼を受けることができなくなった冒険者を知っている。
今回は要するに貴族からの依頼だ。
ある程度信用がおける冒険者に任されることが多い依頼なのだ。
「……まあ、後でギルドにはちゃんと報告するけれどね」
「……わかりました。では、魔法で強化します。気をつけてくださいね」
「……」
俺はマイラに支援魔法をかけてもらう。
そして、腰のポシェットに入っている回復用のポーションの数を確認する。
「……4、5。よし、行ける」
俺は弓を構える。
そしてマイラのいる場所から大きく移動して、ジャイアントスパイダーの脳天を狙って走りながら弓を打ち込む。
放たれた矢は放物線を描きながら、ジャイアントスパイダーの目の一つを潰した。
ジャイアントスパイダーは雄叫びをあげながら、俺の方を見る。
この場にいるすべての蜘蛛が俺に敵意を向けたのがわかる。
俺はそのまま次の矢を放つ。
動く敵に対しては、偏差打ちをする必要がある。
2、3発矢を放つと、俺は武器を切り替える。
巨大な敵なので、持つ装備はレンジのある槍だ。
「ふんっ!」
ジャイアントスパイダーの爪をステップで回避して、槍で切り込む。
案の定と言うか、外骨格が硬くダメージは通っているものの切断までは至らなかった。
ともあれ、それを考慮しての攻撃だ。
こう言う節足動物の常として、関節を狙うのが一番効果的だ。
「しゃあっ!」
ジャイアントスパイダーが牙で食い殺そうとしてくる。
それを後ろに飛んで回避して、前に一歩踏み込む。
「チェストぉぉ!」
槍を叩きつけるように切る。
蜘蛛の顔面に槍の刃の部分が食い込む。
もちろん、そのまま逃す手はない。槍から手を離して腰の短剣2本を抜き放ち、蜘蛛の顔面を切り刻む。
目をすべて切り潰し、行動不能状態にする。
そして、脳天にえぐり込まれた槍を掴んで持ち上げると、ジャイアントスパイダーは奇声を上げて絶命する。
脳味噌の部分でも傷つけたのだろうか?
だが、あと3匹もいる。
ジャイアントスパイダーが飛ばしてくる蜘蛛の糸を俺はジャイアントスパイダーの亡骸を陰にやり過ごし、近くのジャイアントスパイダーに攻撃を仕掛ける事にした。
当然ながら、弓で蜘蛛の顔面に矢を放つ。
放った矢は、狙ったところから若干右寄りの場所に命中する。
俺はすぐにその場所から移動する。
当然ながら、単独戦闘でその場に止まると言うのは死を意味する。
案の定、俺のいた場所には別のスパイダーの放った粘糸が飛ばされていた。
俺は移動しながら矢を引き絞り、ジャイアントスパイダーの目を狙う。
「ユーインくん! 後ろ!」
マイラの声が聞こえて、俺は振り返らずに反転する。
すると、鋭い針が勢い良く突き出てきた。
見ると、毒針だった。
「ジャイアントタランチュラ……!」
どうやら、一匹では対処できないと判断したらしく、同時に攻撃するつもりらしかった。
俺は三匹とも視界に入る位置に移動する。
「ふん、手厳しい事になってきたな……」
装備を入れ替えるのはすでに手慣れており、素早くできるようになったので問題ない。
それにしても流石に三匹相手だと、少しでも手順を間違えれば死ぬだろう。
俺は手早く弓を片付けて槍に構え直す。
「いくぞ、おらああああああぁぁぁ!」
俺は一番初めに狙ったのは矢を当てたジャイアントスパイダーだった。
とは言っても、潰せた目は一部なので、ジャイアントスパイダーは足で攻撃してくる。
突き刺してくる足を槍で上手く弾きながら外骨格を削っていく。
別個体のスパイダーやタランチュラも攻撃してくるが、流石に懐まで入ると意識さえむけていれば回避する事は困難ではなかった。
だが、それでも手が足りないのは事実だった。
「チッ、行けると思ったんだが……」
いや、手が足りないものの、攻略自体は可能だろう。
その場合は四肢欠損する可能性が70%はあるが。
マイラは物陰でこちらの様子を伺っているだけで、繭の中を見聞する様子はないし、目的は伝えてあるはずだが、今やってほしいことを伝えてなかったため動きようがないのだろう。
「おらあああああああぁぁぁ!」
俺は、一気に懐に潜り込みジャイアントスパイダーの腹部に槍を突き入れる。
緑色の体液が降り注ぐが気にしてなどいられない。
そのまま斬り下ろすと、腹部は大きく開き、粘液の元が槍に付着してしてしまう。
だけれども、まだ生きているらしく、ジャイアントスパイダーは果敢に攻撃を仕掛けてくる。
「チッ、槍はもう使えないな」
俺は槍を捨て、双剣を鞘から引き抜く。
再度使えるようにするためにはあの粘糸の元を溶かして除去しなければならないだろう。
炎でもあれば燃やせるのだろうが、生憎松明はマイラが持っている。
結局ジャイアントスパイダーは死んでおらず、3匹相手に戦う状況は変わりがなかった。
そんなジリ貧な状況で、一筋の剣尖が閃いた。
「助けは必要かしら?」
その一閃で、ジャイアントスパイダーの足が一刀両断される。
ジャイアントスパイダーの脚を切ったのは、豪華な軽鎧を見に纏い細剣を構えた凛々しい女性であった。
容姿から言えば、彼女がリステだろう。
リステは金髪の髪を後ろでポニーテールにまとめており、ルビーのように青い瞳をしている。
身長はマイラよりも高く、その立ち振る舞いは凛としており騎士のようにも感じた。
「……ああ、助かる」
「それにしてもこの状況でジャイアントスパイダーを1匹殺すなんて、なかなかやるじゃない」
「……どうも」
リステが加わってからは戦闘が楽であった。
そもそも、リステ自体が強いと言うのもあるが、やはりヘイトが分散すると言うのは非常にやりやすくなったのは事実であった。
「行くわよ! たあああああああ!」
リステの細剣で一閃すると、足がちぎれ飛ぶ。
流石にジャイアントタランチュラの外骨格は破壊できないみたいであったが、技量が高いことがわかる。
武器がいいのだろうか?
俺は弓でリステの動きを支援しつつ、ジャイアントスパイダーおよびジャイアントタランチュラの討伐に成功したのだった。
結局、ジャイアントタランチュラにとどめを刺したのはリステであった。
俺は結局戦闘中に負傷してしまったが、そこは力量の差なのだろう。
「ふぅ、それにしても助かったわ。たった2人でこのダンジョンに挑むなんて正気かと思ったけれど、ちゃんと強かったのね」
「そうですよ! ユーインくんは強いんです!」
「……あんたがリステライアか?」
俺がそう聞くと、彼女はうなづいた。
「ええ、リステライア・レーヴェンブルク。リステで良いわ。あなた達はどうしてこのダンジョンに来たのかしら?」
「……」
「リステライアさんを探してほしいと言う依頼です。無事でよかったです!」
「……あー、きっと爺やね。うん、ありがとう。あたしも冒険者としてこのダンジョンの調査をしていたんだけれど、あのボスじゃない? それでちょうど困っていたのよね」
「……あんたの強さなら、手助けは不要じゃないのか?」
俺が疑問に思ったことを告げると、彼女は首を横に振った。
「そんなわけないわ。あたしの技量はユーイン、だっけ? 君よりちょっとだけ強い程度よ。流石のあたしもあれを攻略するのは難しかったわね」
「……そうか」
俺は回復薬を傷口に塗りながら、繭の方に目を向ける。
「……」
「ああ、そうね。もし生きているなら助けてあげないといけないわね」
「……ああ」
繭の中は残念ながら、生存者はいなかった。
遺骨ではなく、遺品のみを回収する。
依頼外とは言え、こう言う他の冒険者の遺品を回収するのはマナーとも言える。
「それじゃあ帰りましょうか?」
こうして、俺たちは目的を達成して古代の遺跡ダンジョンを後にしたのだった。
それから何度か依頼でリステと一緒になる機会があり、いつのまにか仲間として一緒に活動するようになったのだった。
それが、リステとの出会いであった。
◆
最後に魔法使いのクローディアとの出会いだ。
彼女が仲間になるきっかけは、リステの一言からであった。
「ねぇ、ユーインくん。そろそろ魔法使いを仲間にしない?」
そう提案されて、うなづいたのはマイラであった。
「おお、もしかしてリステには魔法使いの知り合いがいるんですか? 是非とも紹介してほしいです! わたし回復魔法と支援魔法しか使えないし、ユーインくんも火力が足りないことを嘆いていましたし!」
「そうなのね。それじゃあちょうどよかったわ。今度の依頼で一緒に行く事にしましょう」
「あれ、連れてこないんですか? せっかくですし早めに顔合わせをしたいですよ! ダメですか?」
「彼女は魔法使いギルドに所属しているからね。冒険者として活動するにも準備が必要なのよ」
「なるほど! 確かに準備は必要ですからね! で、ユーインくん、次の依頼は何ですか? アンデット殲滅ですか?! 腕がなりますよ!」
俺は推しの強いマイラにため息をつきながら、クエストボードを確認しに行く。
冒険者ギルドには依頼書を貼り出すための板……すなわちクエストボードが存在している。
俺としては生きていくための生活費稼ぎで冒険者をしているわけだが、マイラは修行のため、リステは趣味とお互い目的が決定的に異なっている。
今思えばこの時から、パーティの崩壊は最初から決まっていた事なのだろう。
そんな生活費を稼ぎたい俺としては無駄に依頼を受けるのはあまり良いことではないのだが、コミュ障を拗らせてしまっている俺は、NOを言えるようなキャラではなかってので、渋々楽そうでかつお金が稼げそうな依頼を取って戻る。
「……」
「おお、どんな依頼ですか? 見せてください!」
持ってきたのは、ボガードの討伐だ。
俺単独ではきっと難しい依頼だが、リステやマイラがいるならば難しくない依頼であった。
「ボガード……なるほど、魔王の眷属の末席とも呼ばれる強力な魔族ね。確かにあたし達にとってちょうどいいレベルの依頼じゃない」
リステも同意したので、俺たちはこのボガード討伐に向かう事になったのだった。
出発は2日後。
魔法使いのクローディアを待っての出発となった。
その間俺たち……いや、俺は街で補充を行っていた。
コミュ障でも買い物ぐらいはできる。できるが、根切りはしないので、書いたいものを指差して料金を払って購入するといった感じだ。
ただ、コツコツ依頼をこなしてきた結果、なんだかんだで馴染みになってきた気はする。
ただ、人と話す時あまり言葉が出てこないのは変わらないのだけれど……。
リステと良くつるむようになってしばらく経っており、リステの紹介で良い武器屋を紹介してもらえたため、良い武器や防具を購入できたのは大きかっただろう。
出発当日に、いわゆる魔法使いの格好をした……黒いとんがり帽子に黒いローブを羽織った格好だが、女の子がやってきた。
マイラもリステも俺よりも年上なのだが、クローディアは俺と同い年か一つ上のように感じた。
そう感じたのも、身長が俺に近いからと言うのもあるし、幼い顔立ちをしていると言うのもあった。
ピンクに近い長髪にエメラルドクリーンの瞳が目立った容姿をしている。
「彼女はクローディア。あたしの姪っ子で魔法使いよ」
「私はクローディア・エルネス。魔術を使って戦うわ。よろしくね」
「……魔術?」
非常に静かに語るように話す少女であった。
それにしても魔法使いと聞いたのに、魔術を使うとはどう言う事だろうか?
気になったのでつい口に出てしまった。
「そうよ、魔術。普通の人は魔法と言うけれども、ちゃんとその法則があるから【魔法】ではなく【魔術】と私たちは呼んでいるわ」
「……そうか。とにかくよろしく」
「ええ、リステさんからそれなりの実力はあると聞いてます。よろしく」
「うんうん! よろしくね! クロちゃん! ふふ、かわいいわね!」
「ええ、よろしくお願いしますね、マイラさん……」
というわけで俺たちはクローディアを加えてボガードの討伐に向かった。
ボガードはコボルトを従えている事もある凶悪な魔族で、村を襲って物資を奪い取っていくなどと言う山賊と似たような生態をした魔族だ。
コボルトは下級魔族だが、魔族から奴隷として扱われている種族でもある。
とは言っても、やはり魔族は魔族で人族に対しては非常に敵対的である事には代わりがないけれどね。
当該の村は4時間程度馬車に揺られてたどり着く場所にあり、それなりに遠くある。
馬車の時速はおおよそ50kmぐらいの速さなので、休憩を挟んでも200km離れた場所にある。まあ、正確ではないのかもしれないけれどね。
その村は平野にある農村といった感じで、男手が重宝される村だった。
寒村でなくこう言った農村で生まれていれば、今命をかけて生活費を稼ぐような冒険者なんてやってないのにな、などと思いつつ、依頼の具体的内容を聞きに村長の家に向かう。
ちなみに馬車の旅で女子3人はずいぶんと仲良くなっていた。
実際、マイラが俺の発言を捏造して代弁してしまうため話す隙がなく、女子特有の雰囲気が出来上がり阻害されてしまったと言うのもあるのだけれどね。
そう考えれば、俺のコミュ障が見放される結果に繋がったと言えるのだろう。
村長曰く、半月ほど前からボガードが周辺に出現したらしく、最初は村の衆で撃退していたけれども、コボルトの集団を仲間にしてから、被害が大きくなり、ついには死者まで出てしまったとの事であった。
なけなしの依頼料を何とか捻出し冒険者ギルドに依頼を出したそうで、なんとしてもボガードを退治しなければ、最悪村を破棄せざるを得ない状況だそうだ。
こう言う冒険者への依頼というのは、大概が手遅れの状態で何とかしてほしいと言うものがほとんどである。
素直に最初から冒険者ギルドに依頼をしておけば、依頼料も安く済むと言うのに、どの村も予算がないと言い訳して対応を遅らせてしまうのだろう。
そんな村を俺は……特にリステとつるむようになってから何度も救ってきた。
それで生活費を稼いでいるのだから文句は言わないが、思うところがあるのは、この家業に長年身を窶してきたからであろう。
説明を受けている最中にコボルトの群れが畑を荒らしにきたので、俺たちは早速コレを撃退する。
クローディアの実力を見ると言うのもちょうどよかったが、やはり魔法……いや、魔術は攻撃力が絶大であった。
要するに、大砲のようなもので、クローディアの炎の魔術も氷の魔術も雷の魔術も威力は絶大で、一発でコボルトを消し済み、氷漬けに変えてしまったのだ。
「私にかかれば、コボルトのような下級魔族なんてこの程度です。何も驚く必要はありませんよ」
抑揚の少ない声音で、さも当然のようにクローディアはそう語るが、俺でもコボルトの群れを退治するのはそれなりに時間がかかるのに、魔術数発で解決してしまったクローディアの魔術に俺は唖然とするほかなかったのだ。
「おお! さすがは冒険者様だ!」
と村人達から感心されていたのを見ると、よほど切羽詰まっていたのだなと思う。
「ではでは! 早速ボガード退治に向かいましょう! リステにクディがいれば、万全ですよ! ええ、ええ!」
「……ああ」
それって俺は要らないのでは?
そんな疑問を抱きつつ、俺たちはボガードの討伐に向かった。
ボガードが根城にしている洞窟まで到着した。
道中コボルトが妨害してくるのを蹴散らしながらではあったが、割とあっさりと根城の洞窟まで到着することができたように思う。
「ここがボガードの住む洞穴ね……」
「ええ、ええ! 行きましょう! わたし達なら負ける事はありませんよ! なので支援魔法を先にかけておきますね!」
「腕試しに……なると良いけれど、どうかしら?」
自信満々のほか3人に対して俺は、気を引き締めていた。
ボガードは一度単独で戦ったことがあるが、相当苦戦した魔族である。
あの敗北の屈辱を晴らすためにも、俺は自分に気合を入れるためにつぶやいたのだ。
「……行くぞ」
俺の言葉が合図となり、ボガードの根城に飛び込む。
「ン? なんだ、お前ら……ぎゃあああああああ!!」
リステが先行し、コボルトを次々に切り捨ててしまう。
クローディアの魔術はコボルトを消し済みにし、俺は戦闘で何もすることがなくなってしまう。
「え、ちょ……あれ?」
仕方がないので、俺は討伐証明部位の剥ぎとりと、魔石の取り出しを行う。
実際、俺はリステに指摘されるまでは知らなかったのだ。
魔物や魔族には魔石と呼ばれるものを生成する臓器が存在する事を。
そしてその魔石が高く売れると言う事も、リステから教えてもらった。
結局、俺の出番は無く、リステとクローディアの活躍でボガードはあっさりと倒されてしまった。
リステとクローディアの戦い方を見ていると、まるで俺を戦わせないように動いているように見えるのは気のせいだろうか?
俺のやることと言ったら、結局討伐証明部位の確保と魔石の取り出しぐらいで、お手伝いをしているような気分になっていた。
そんな違和感だらけではあるが、火力担当の魔法使いであるクローディアとの出会いは、こんな感じだった事を思い出していた。
◆
……仲間のことを思い返してみると、どうやら俺は最初から役立たずだったみたいだ。
いや、俺がやれる事は精一杯やってきたのは事実であるが、リステが仲間になってから多くの魔族や魔物はリステが倒し、クローディアが加入してからはより一層俺がやることがなくなってしまったみたいであった。
なるほど、このまま彼女達と共にいたのでは、確かに俺のためにならないのだろう。
そう考えると、なんだか情けなくなってしまい、居た堪れない気持ちになってしまった。
「ふぅー……!」
うーん、そう考えると、アルトの言うことにも一理あるなと感じてしまう。
そして、パーティを追放されると言うのに、なんだか無気力になってしまい、俺は酒場を出て近くの公園まで来た。
これ以上酒場にいても迷惑をかけるだけだしね。
そして、俺は不意に年齢を思い出していた。
そう、俺はまだ13歳だったなと。
あの3人の中で一番幼いクローディアですら今は16歳だと言うのに、である。
手のひらも、よくよくみると剣を振る際に出来たマメを潰してきたのでゴツゴツしてはいるが、幼い感じのする掌だった。
自分の容姿など気にした事なかったけれども、やはり年相応に幼く見えるのかもしれなかった。
「……なんだ、俺はまだ中学生になったばかりだったんだな」
前世の記憶は、結構俺の考え方を老成したものに引っ張っていたらしい。
そりゃ、別の文明世界で一生を生きた男の記憶に引っ張られてしまうのは、人生の密度が異なるので仕方がないのかもしれない。
それがなんだかおかしくて、今まで生きるためにずっと張り詰めていた気持ちがふっと楽になった気がした。
空を見上げると、満点の星空が目に入る。
こんな美しい空を俺は、見上げる事もなく生き急いできたんだなと、なんだかおかしくなってしまった。
空には月が二つ浮かんでいる。
大きい月がディアナ、小さい月がアルテミスだっけか?
そう言うことすらマイラと知り合わなければ知る事も無かっただろう。
「……学校、行ってみようかな」
不意に、最近リステが俺に学校に行くように勧めてきた事を思い出す。
俺は親に捨てられた身だし、第一学費を払えるほどお金を持っていない事を告げると、驚いた顔をして「そうか……」と呟いて難しい顔をしていたが……。
「そうか。良いと思うぞ、ユーインくん」
不意に声が聞こえて、驚いて声の方を振り替えると、リステ、マイラ、クローディア、そして、アルトくんがいた。
「え、ど、どうして……?」
「いや、すまないね。リステに頼まれて、ひと演技打っていたんだよ」
最初に謝ってきたのはアルトくんだった。
「ああ、ユーインくんはあたし達に何も語らないからね、幼い君が過酷な冒険者をやっている事にずっと違和感を感じていたんだ。それが親から捨てられた孤児だったなんてな」
「ユーインくん、ずっと冷たくしてごめんねえええぇぇぇ!」
「ユーイン、学校に行くと言う選択は良い選択です。私達が支援するから安心して構いませんよ」
マイラにギュッと抱きしめられる。
すると、意図せず涙が溢れてきた。
本当は俺を嫌ってたりしてるんじゃなかったんだなと言う安心感が理由だったように思う。
「ユーインくん、我がレーヴェンブルク家が君を養子として受け入れるとしよう。君が真面目で努力家である事をあたし達は散々見てきたしね。そして、学び舎で学んで成長してくると良い」
「う、うん! うん!」
俺は年甲斐もなく……いや、年相応にマイラの腕の中で泣きじゃくりながらうなづいたのだった。
その後、俺はレーヴェンブルク家の養子となり、冒険者を一時休業して学校に通う事になった。
結果的に言えば、リステ達のパーティーを追放されてしまったわけであるが、どうやら頭の硬い俺に危険な事をして欲しくなかったかららしい。
まだ、魔王も討伐されていないと聞くし、色々と不安要素は多い世界だけれど、俺は学校で知識を学んで、この世界をたくましく生きていこう。
そして、このコミュ障もしっかりと克服しよう。
そう、決めたのだった。
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とりあえず、戦闘シーンに擬音語を使わない縛りで書いてます。