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第71話 父、狙われる

「暗殺者としての最後の記憶は、ご主人様に拾って頂いた日の事ですわ。もう自分が何者かも分からなくなってしまった時、お嬢様の声が聞こえてきましたの」


「……そう、だったのか」


 涙を浮かべながら、最大の感謝を持って語るダークエルフ。

 ラディオは話に聞き入り、いつの間にかオーラも消えていた。


「猫としての記憶も、解呪と共に私の中に入ってきましたわ。ご主人様とお嬢様がくださった掛け替えのないもの……『感情』も」


 噛み締める様に、そっと瞼を閉じたダークエルフ。

 ラディオ達と暮らした事で、心に変化が起こっていたのだ。


 食事を共にする楽しさ、ラディオに会えない時のグレナダの寂しさ、大きな胸に抱かれる喜び、耳を触って貰えない時の嫉妬。

 暗殺者として生きていた頃では、決して知り得なかった様々な想い。

 それら一切をくれたのが、ラディオ達なのだ。


「そして、何よりも素晴らしい感情……『愛』をくださった事で、こんなにも『生』が美しい事なのだと、私は思う事が出来ましたわ。私の全ては、ご主人様とお嬢様の為にあるのだと」


 その碧色の瞳は、正しく深い愛で満たされている。

 すると、ラディオが静かに微笑みを見せた。

 今なら、サニアが言った言葉の意味が、グレナダが拒絶反応を起こさなかった意味が、理解出来る。


「君の想いに気付かず、無神経な事を言ってすまなかった。そして、恐れず全てを曝け出したくれた事、本当に有難う」


 ダークエルフは、『とんでもない』と言うように首を振った。

 後、伝えるべき事は1つだけ。

 ラディオは少し迷いながらも、口を開く。


「君は……もう自由だ。私を主人と呼ぶ必要も無いし、縛られる謂れも無いんだよ」


「え……」


 告げられた言葉に、ダークエルフは下唇を噛んで俯いてしまった。

 やっと見つけた『居場所』……しかし、それは此方の都合だ。

 暗殺を生業としていた者が、安寧を求めてはいけないのかも知れない。


「……では、私は……どうすれば……」


 絞り出すように言葉を紡ぐ。

 ラディオが言わんとしている事は、至極もっともだ。

 でも……許されるならば共に居たい。

 その言葉を言えないダークエルフに、ラディオは申し訳無さそうに語り掛けた。


「私達に遠慮する事は無い。君には、君の人生がある。だから……」


(嫌……嫌……言わないで……!)


 ダークエルフは思わず耳を塞いだ。

 次に聞こえてくるであろう言葉が怖い。

 想像したくないのに、頭の中を駆け巡ってしまう。

『別れ』という名の絶望が。

 しかし、ラディオは意を決した様に言葉を続ける。


「……ここからは、私の我儘だ。君はもう自由、この事実は変わらない。だが、もし君さえ良ければ……友人として、『家族』として、娘の誕生日を共に過ごしてはくれないか?」


「…………え?」


 ダークエルフは訳が分からなかった。

 考えていた事と、まるで違う耳心地に戸惑うばかり。

 寧ろ、ラディオの方が気不味い顔をしている。

 本当にこんな事をお願いしてもいいのか、そんな葛藤を抱えている様に見えた。


「勿論、君の自由を尊重したいのは本当だ。しかし……私達にとって、君はもう紛れもない『家族』なんだ」


 眉根を寄せて微笑むラディオ。

 その顔は、ダークエルフにとって何よりの贈り物だった。

 悲壮に暮れていた褐色の顔が、蕾が花開く様に笑顔になる。


「……どうだろうか?」


「はい、喜んで……ご主人様♡」


 ダークエルフの柔らかな微笑みに、ラディオはホッと胸を撫で下ろした。


「……良かった。では、改めて皆に紹介しなければ……名前を教えてくれるかい?」


「名前……勿論、ニャルコフですわっ♡」


「……困ったな」


 ラディオはやれやれと笑みを零す。

 何時までも猫用の名前では忍びない。

 だが、本人の気持ちも無視出来ない。


(……レナンに聞いてみるか)


 説明をした後、グレナダに相談してみよう。

 そう決めたラディオは、ニャルコフと連れ立ち、待ちわびている娘達の元へ向かった。



 ▽▼▽



「うわぁ〜! うみなのだっ! うみなのだぁ〜〜♡」


 燦々と降り注ぐ陽光に照らされた蒼い海。

 寄せて返す波の音が、小さな体に染み込んでいく。

 足元から伝う砂浜の柔らかな感触と、ジリジリとした熱気。

 念願叶った紅色の瞳は、海に負けず劣らずキラキラと輝いていた。


「レナン、遠くに行ってはいけないよ。父の準備が終わる迄、待っててね」


「あいっ♡ きゃははっ! つめたいのだぁ♡」


 娘の動向を注視しつつ、パラソルとビニールシート、簡易式のテント張りを凄まじい速度で終わらせていくラディオ。

 波打ち際で足を撫でる海水に喜ぶ娘。

 その姿に頬は緩みっぱなしだが、手だけは別次元の動きをしている所は、流石というべきか。


「う〜〜ん! ラディオ、そんなに急くでない。妾も、ちゃーんと見守っているのじゃからな」


 ビニールシートに寝そべりながら、サニアは足を組み替えた。

 超極小の純白ビキニに包まれた、実りに実った2つの双丘。

 仰向けになる事によって、程よく重力を受け入れており、少し動くだけで柔らかな弾みを見せ付ける。


 息子がくれたガウンを羽織っているが、前は全開。

 腰に食い込むビキニ紐は、なんとも言えぬ色気を醸し出していた。


「レナンは……ふーっ……本当に楽しみにしていましたから……ふーっ……少しでも……ふーっふーっ……早く遊んでやりたいのです」


 そう言いながら、今度は幾つもの浮き輪やフロートに空気を送り込んでいくラディオ。

 その肺活量たるや、並ではない。

 子供用の浮き輪なら一吹き、大きなフロートでも5回も空気を入れれば完了してしまう。

 息子の親バカ加減は自分譲りだなと、サニアは嬉しそうに微笑んだ。


「おぉ〜♡ うみきれいなのだぁ〜♡」


 一方、グレナダはちちの言い付けを守り、波打ち際で海を眺めていた。

 ゆらゆらとご機嫌に尻尾を振りながら。

 すると、一際大きく波が引いて行くではないか。

 これから何が起こるのかと、興味津々でしゃがみ込んだその時――



「うわっ!? うぅ……うえ〜〜ん! ちぃちぃぃぃぃ!!」



 全身を覆う程の波が来てしまった。

 予期せぬ水掛けにビックリしたグレナダは、一目散にラディオの元へ駆けて行く。


「ちぃちぃ〜〜! うみがいじめたのだぁ〜〜!」


 全身ビショ濡れになってしまい、ちちの足元にしがみ付くグレナダ。

 ラディオは柔かに微笑みながら、娘の顔を拭いてあげた。


「あれは『波』と言うんだよ。海もレナンと遊びたいんじゃないかな? それなら、今度は父と一緒に行こう。さぁ、これを」


「ぐすん……なみ……?」


 ラディオは娘をギュッと抱き締めながら、優しく教えてあげる。

 大きな胸板に抱かれ、落ち着きを取り戻した娘に、鮮やかな桃色の浮き輪を被せた。


「ではサニア様、ちょっと行って参ります」


「うむ、楽しんでくるのじゃ♡」


 グレナダを抱き上げ、2人は波打ち際へ歩いて行く。


「さぁ、一緒に遊ぼうってお願いしてみようか?」


「いじめちゃだめなのだぁ〜!」


 ラディオにしがみ付き、眉根を寄せるグレナダ。

 何と可愛らしいのだろうか。

 ラディオは来ていたカットソーを脱ぎながら、更に頬を緩ませる。

 そして、自身の腰辺りまで海に浸かった。


「レナン、父の手をしっかり握っているんだよ」


 両手をしっかりと握り、浮き輪姿の娘を海に浮かべた。

 少し怖がったが、ぷかぷかと水の中に浮く感覚に、次第に笑顔が広がっていく。

 波によって大きく上下する体。

 いつの間にか、グレナダは笑い声を上げていた。


「きゃははっ♡ きもちいいのだっ♡」


「……良い笑顔だ」


 小さな手でラディオをしっかりと掴みながら、グレナダは足をバタバタさせ始める。

 その時――



「ラディオ様ぁぁ〜〜♡」



 異常なまでに昂った声が響き渡る。

 見ると、レミアナ達が帰って来ていた。

 その横には、水着姿のダークエルフも一緒に。


「あっ! ニコたちかえってきたのだ!」


「その様だね。一度上がろう」


「あいっ♡」


 ニコとは、ニャルコフの愛称である。

 グレナダに相談した結果、即座に考え出したものだ。

 そして、レミアナ達に頼み、共に水着を買いに行ってもらったという訳である。


「急な頼みですまなかったね。助かったよ」


「あっ……はぁ♡……はぁ♡……あはぁ♡」


 海から上がってきたラディオを見るや否や、レミアナが悶絶し出したではないか。

 いや、レミアナだけでは無い。

 カリシャはボッと顔を真っ赤に染め上げ、耳が物凄い速さでピクピクしているし、トリーチェは口に両手を当てながら、目をグルグルさせている。


 それもその筈、ラディオは今上半身が露わになっているのだから。

 鎧のような僧帽筋、分厚く盛り上がった胸筋、丸く突き出た肩、見事に割れた腹筋、完璧に鍛え上げられた彫刻の様な上半身が。


(やべぇやべぇやべぇやべぇぇ♡ ラディオ様の体マジやべぇぇぇぇ♡♡)


 レミアナは食い入る様にラディオの体を見つめ、涎混じりの吐息を漏らす。

 だが、その視線は微妙にズレていた。

 胸板でもなく、腹筋でもなく、もう少し下の部分に。

 すると、レミアナ達の後ろからすっとニコが姿を現す。


「ご主人様! 私の様な者に、この様なご褒美を頂けるなんて……♡」


 ニコが選んだのは、ゴスロリ風の水着。

 メイド服の様に黒地に白ラインが入り、フリルが随所にあしらわれた一品。

 だが、サニアに負けず劣らず大きく実ったばいんばいんが、少し窮屈そうにフリルを立体的に見せている。


 左太ももには、同素材のガーターリングを装着。

 これまた同デザインの日傘を持ち、褐色の肌とシルバーグレーの髪色がより引き立てられていた。


「良く似合っているよ、ニコ」


「うふふ♡……この上ない幸せですわ♡」


 頬に手を当て、美しい笑顔を見せたニャルコフ。

 すると、ギラギラした瞳の大神官長(ヘンタイ)が動いた。

 バッとケープを脱ぎ去り、見事な肢体が露わとなる。


「ラディオ様! 私の水着は如何ですか!?」


 瞳と同じクリアブルーのビキニ型。

 珠のような白い肌とのコントラストが、非常に美しい。

 艶やかなプラチナブロンドをポニーテールで纏め、見えるうなじがとてもセクシーだ。


 だが、たゆんと揺れる柔らかな双丘は、半分も隠しきれていない。

 ショーツは更に際どいローライズで、後ろを振り向けば、桃尻の割れ目が少し顔を出す程。

 食い込みを指で直しながら、レミアナが妖艶な笑みを見せた。


「レミアナも、とても似合っているよ」


「あはぁ〜♡ 嬉しいですぅ♡」


 熟した2つのメロンを、たゆんと両腕で挟みながら、歓喜に震える大神官長(ヘンタイ)

 すると、今度はカリシャが前に躍り出てきた。

 やはり女の子、気になる人に褒めてほしい。


「ぼ、僕……も、どう……です?」


 耳をピクピクさせつつも、勇気を持ってケープを脱いだ。

 右側は向日葵のような黄色、左側が黒色のバンドゥタイプのブラ、そのフロントをリングで留めてある。


 しかし、カリシャはレミアナ以上のメロンメロンを持っている。

 水着のサイズが合わない為に、ばいんばいんが溢れでそうだ。

 もう、谷間から下乳から見たい放題である。

 ショーツも少しローライズ気味になっており、むっちりとした太ももから、弾力溢れる臀部まで、余す事無く披露していた。


「とても素敵だよ、カリシャ」


「ふにゃ……♡ うれ、しい……です♡」


 漆黒の尻尾を滑らかに動かし、喜びを現すカリシャ。

 だが、その背後にウジウジしている影が1つ。

 それに気付いたラディオは、優しく問い掛けた。


「トリーチェ、君も選んだ水着を着ているのだろう?」


「え……ああああのぉ……! き、き、着てますが……その、自分は……」


 トリーチェの反応に首を傾げるラディオ。

 大振りなツインテールにしている元お姫様は、しきりにレミアナやカリシャ、そしてニコの胸をチラ見している。


 そう、トリーチェは女性陣の中で一番背が低く、発育も成長途中。

 余りに視覚への暴力が過ぎるので、引け目を感じてしまったのだ。

 だが、少女の頭にそっと手を置いたラディオ。


「あああ主殿ッッ!?」


「君が選んだものならば、君に似合うに決まっている。いつもと違う君の姿を、私は見てみたいな」


 終日太陽の下で遊んでいたかの様に、トリーチェの顔が真っ赤に焼けていく。

 だが、ゆっくりと頷き、ケープを取り払った。


 現れたのは、涼しげな碧色のフレアトップのビキニ。

 気になる胸元をカバーしつつ、あしらえたフリルが可憐さを演出している。

 そして、キュッと引き締まったくびれに、スラリと伸びた長い脚は、たゆまぬ鍛錬の成果である。


「これは……想像以上だな」


「ああああの……そ、その……やはり……」


 ラディオの頷きを見て、ドキッとしたトリーチェ。

 こんなにも魅力溢れるばいんばいんに囲まれては、立つ瀬など無いのは分かっている。

 やはり見せなければ良かった……そんなトリーチェの不安を他所に、ラディオは柔かに微笑みを見せる。


「本当に良く似合っている。とても可愛いよ、トリーチェ」


「えっ!? あ、あ、あの……幸せ、です……♡」


 涙を浮かべていた蒲公英色の瞳が、喜びで輝き始めた。

 レミアナ達は互いに顔を見合わせ、本当に嬉しそうに笑顔を咲かせる。


「よし、これで皆揃ったね。荷物を置いたら、泳ぎに行こう」


「「「はいっ♡」」」


 水着の披露も終わり、一同はビニールシートに集合した。

 だが、この時ラディオは気付いて居なかった。

 大神官長(ヘンタイ)の手に握られている、半透明な瓶の正体に。


(くひひっ♡ この日焼け止めをラディオ様に塗ってもらって……私は……私は……はぁ♡ はぁ♡ ラディオ様の()()()に……♡)


 大神官長(ヘンタイ)は、チャンスを逃さない。

 先程見せた妖艶な笑みは、とっくに消え去っている。

 今は歪んだ劣情を瞳に滾らせ、気付かれぬ様に吐息を漏らす。

 レミアナは、虎視眈々とその時を狙っているのだ。

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