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第36.5話 娘、新たな装いで

 タワー地下5階・『訓練場』――



 お尻を突き出して眠るグレナダの横へ、そっとしゃがみ込んだエノヴィア。

 両膝に手を置き、優しい微笑みで寝顔を見つめる。


(次の順番、この子達……可愛い)


 先程、イル=ターから戦線の終息と勝利、そして安全確認の終了が告げられた。

 それを受け、帰り支度を始める一同。


 混乱を避ける為、先ずは乳児とその親から。

 その次は、3〜5歳までの子供達。

 階段から順番に入って来る親達の反応は様々だ。

 自分の子供を見つけて涙ぐんだり、笑顔を咲かせたり。

 しかし、一様に安堵の溜息を吐いている。


(楽しい? 夢の中)


 嬉しそうに小首を傾げたエノヴィアが、起こさぬ様にそっと顔を近付けると――



(うん……痛い)



 突然起き上がった着ぐるみの後頭部が、エノヴィアの鼻先にクリーンヒットしてしまった。

 そんな事にも気付かず、グレナダはピクッと体を震わせると、階段の方を凝視し始める。

 そう、いつもの反応だ。


「……うわぁぁぁぁん!」


 階段へ物凄い勢いで駆けて行く小さな背中を見送りながら、エノヴィアは鼻を摩る。

 すると、足元で鳴き声が聞こえた。


「うん、大丈夫。賢いね、君」


 まるで後頭部アタックを謝るかの様に、ニャルコフがペコっと頭を下げたのだ。

 感心したエノヴィアが顎を撫でてやると、『にゃ〜♪』ともう一鳴きし、優雅に歩いて行く。

 更に小さな背中を見送ったエノヴィアも、他の子供達の様子を見に行った。


(成る程……子供達の避難場所にした事も頷ける)


 一方、降りて来た中年は訓練場の造りに感嘆の溜息を漏らしていた。

 申し分無い強度、広大なスペース、子供達の為の枕や毛布、調理用の大きな寸胴等々。

 改めて、金時計とギルド職員に感謝をしなければ。


(さて……レナンはどの辺に居るだろうか)


 娘の姿を探して、部屋全体に視線を巡らす。

 まだまだ寝ている子供達も多いので、起こさぬ様に静かに歩きながら。

 だが、直ぐに頬が緩んでしまった。

 此方に猛烈な勢いで駆けて来る、犬の着ぐるみが目に入ったのだ。


「……ぃ! ……ぃぃ!!」


 気付けば、ラディオも早足で娘の元へ向かってしまう。

 この部屋と金時計達に護られ、無事である事は分かっていた。

 分かってはいたが……無事で良かった。


「ちちぃぃぃぃぃ♡ ちちぃぃぃぃぃ♡」


 お腹の辺りを両手で掴み、瞳を潤ませた半笑いで走るグレナダ。

 どうやら、余りにも興奮するとこうなってしまうらしい。

 大好きなちちの元へ、子供が寝ている間を縫う様にひた走る。


「ちちぃぃぃ――あっ!?」


 だが、ラディオが間近に迫った瞬間、何も無い所で躓いてしまう――



「怪我は無いかな?」



 が、床と衝突する事は無かった。

 瞬時に娘の元へ跳躍したラディオによって、さっと掬い上げられていたのだ。

 念願のちちの胸に顔を埋め、尻尾をブンブン振り始めるグレナダ。


「ちちっ♡ ちちっ♡」


「レナンが無事で良かった……父は幸せだよ」


 ギュッと抱き締めながら、娘の頭を撫でるラディオ。

 グレナダは、もう嬉しくて堪らなかった。


「ちちっ! レナン、いいこでまってたのだ! えらい?」


「あぁ、とっても偉いよ。レナンは良い子だね」


「きゃははっ♡」


 更に頭を撫でられ、グレナダは幸せに満ちた笑い声を上げる。

 すると、足元に擦り寄る気配を感じたラディオ。


「ニャルコフ、レナンの側に居てくれて、本当に有難う」


「にゃ〜♡」


 此方を見上げる家族の頭も撫でてから、出口へ向かう。

 階段の前まで来ると、ラディオは深々と頭を下げた。


(娘達を護って頂き、本当に有難う御座いました)


 本来なら、一人一人にお礼を述べたい。

 だが、忙しく走り回る職員の時間を浪費させる訳にはいかない。

 親に会いたい子供達が、子供を抱き締めたい親達が、まだまだ控えているのだから。


「さぁ、帰ろう」


「あいっ♡」

「にゃ〜♪」


 娘達を抱きかかえ、ラディオは訓練場を後にする。



 ▽▼▽



 下段中央・『大広場』――



 避難していた住民や冒険者でごった返す大広場。

 その中心に、金時計と大神官長の姿があった。


「大神官長様、ギルドを代表し、心より御礼を申し上げます。貴女の御力が無ければ、今回の勝利は有りえませんでした。本当に有難う御座いました。つきましては、御礼の品をお送り致しますので、何かご希望が御座いましたら、何なりと仰って下さい」


「いえっ、そんな! 御礼なんて! 女神様に仕える者として、当然の事をしただけですから〜!」


 かなり困惑した表情を浮かべるレミアナ。

 感謝を述べられるのは嬉しいが、オウヨウは少し度が過ぎている。

 直角に折れ曲がったお辞儀は、レミアナが肩を掴んでいないと、どこまでも頭が下がっていくのだ。


「貴女もね。教会に居てくれて、とっても心強かったわ♡」


「あの、えと……僕、は……何、も……出来な……しな、い……ます」


 レミアナの横に居たカリシャに、特大の投げキッスを送ったドレイオス。

 トリーチェから『教会内で気を張ってくれていた』と、報告を受けていたのだ。

 慣れない感謝に戸惑いながらも、カリシャは耳をピクピクさせて微笑んでいる。


「おうおう、ちょいと通してくれよ。おーい! 大神官長さんよぉ!」


 その時、上半身の鎧が吹き飛んだ姿のジオトロが歩いて来た。


「どうにか【翡翠】と連絡をつけてくれねぇかい? ワシは命を救われた……絶対に酒を奢らにゃいかんのでな!」


 事情を聞くと、ジオトロが目を覚ました時、ハイエルフの姿は無かったのだという。

 まだ御礼すら言えておらず、悶々としていたジオトロは、元英雄の一行であるレミアナの存在を思い出したのだ。


「はい、承りました! あ、でもあんまり期待しないで下さいね……。あの人、本っっっっ当に気まぐれなので!」


 思い出した様に苦い顔をしたレミアナを見て、ジオトロは豪快に笑い声を上げる。


「がっはっはっはっはっは! ハイエルフはそうでなくちゃな!」


「そんな事があったのですね……私も、是非とも御礼を述べさせて頂かなければ」


 仲間の命を救い、住民(タワー)を護り抜いてくれたとあっては、オウヨウが黙っている筈も無い。

 顎を摩りながら、御礼の品は何が良いかと考え始めたのだ。


 その隙に、そっと距離を取り、『ふぅ……』と額の汗を拭うレミアナ。

 しかし、突如として畳んでいたアホ毛が隆起した。

 ぐるっと首を回し、荒い吐息を漏れ出して。


「あぁ……あはぁぁぁぁ♡ ラディオ様ぁぁぁぁぁ♡♡」


 先程の慎ましい態度は何処へやら。

 完全に目を覚ました大神官長(ヘンタイ)は、涎を垂らし、顔を恍惚に歪めて走り出す。


「うへっ♡ うへへへへっ♡」


 何処からその笑い声を出しているのだろうか。

 元々の美しい容姿と、純白のローブを着ていなければ、只の犯罪者にしか見えない。


「ラ・ディ・オ・さ・まぁぁぁぁ♡」


 娘と手を繋いで歩いていたラディオの視界に、歪みきった顔の大神官長が飛び込んで来た。

 勢いそのままに、レミアナは分厚い胸板へダイブする。

 

「レミアナなのだっ!」


「無事で良かった。それに、君の力に大きく助けられたよ。有難う」


 レミアナは『くひっ♡』っと笑うと、足をモゾモゾさせ始める。

 しかし、一向に顔を上げず、ずっと胸板に顔を埋めているのは何故なのか――



(すーっはー! すーっはー! やっべぇ……ラディオ様の汗の匂い……やっべぇぇぇぇ♡♡♡)



 ……変態性がどうしようもない。

 ラディオの壊滅的な鈍感さを、最近では上手く活用している節がある。


「ぷはぁっ♡ ラディオ様とレナンちゃんがご無事で、本当にご馳走様……じゃなくて、嬉しいです〜♡」


 一頻り堪能したら、本音が出てしまった大神官長(ヘンタイ)

 だが、そんなレミアナに頭を撫でられても、グレナダは嬉しそうに笑顔を咲かせてくれる。

 すると、此方に駆けて来る影が1つ。

 感謝と……謝罪を伝えたい人物だ。


「良か、た……です」


 頬を赤く染めながら、安堵の表情を見せるカリシャ。

 だが、ラディオの瞳には憂いが浮かぶ。


「……レミアナ、少しの間レナンをお願いしても良いかな?」


「……はい。レナンちゃん、噴水のとこまで競争しよっか!」


「あいっ!」


 直ぐに察したレミアナが、グレナダを連れて距離を取ってくれた。

 すると、いきなり頭を下げたラディオ。

 それを見て、カリシャは戸惑いに包まれる。


「私の力が及ばず……君の妹を救い出す事が出来なかった。本当にすまない」


「え……ナル、シャ……死ん、だ……です……?」


 黒曜石の瞳に絶望が浮かび、涙を一杯に溜めていく。

 だが、カリシャの頭を優しく撫でながら、ラディオは首を横に振った。


「大丈夫、あの子は元気だ。命の危険は無い。それだけは、何があっても保証しよう」


「あぁ……良か、た……ぐすっ、本当、に……!」


 すると、様々な感情が溢れ、カリシャが泣き出してしまった。

 ラディオは険しい顔のまま、少女をギュッと抱き締める。


「必ず……必ずだ。私があの子を助け出して見せる。ナルシャは……君の事を、とても心配していたよ」


 とても真実を話す事など出来ない。

 カリシャの唯一の心の拠り所を、奪う事など出来る訳が無い。


 すると、やっと笑顔を見せたカリシャは、涙を拭い噴水へ駆けて行った。

 溜息を吐いたラディオは、ふと青空を見上げる。


(……必ず約束は守る。だから……無事でいてくれ、ナルシャ)


 そう強く願いを馳せながらも、只々佇む事しか出来なかった。



 ▽▼▽



 3日後――



「ちち〜! おまつりはじまっちゃうのだ〜!」


 頭に付けた大きな2つのリボンを握りながら、玄関で足をバタバタするグレナダ。


「大丈夫、お祭りは暗くなってからだよ。その前に、お店に寄らないと」


「はやくっ! はじまっちゃうのだっ!」


「分かった……行こうか」


 夕方前、急かされながら家を出たラディオ。

 楽しげに尻尾を揺らすグレナダと街道を歩きながら、ふと昨日までの事を思い返す。


(あれから、たった3日……本当に素晴らしい信頼関係だ)


 あの日、噴水前で行われたオウヨウの演説。

 今回の襲撃に対する説明と御礼、そして復興に関するお願いだ。

 壊れた街を修繕し、『ギルド生誕祭』を開催する為、住民達に協力を仰ぐ。


『統括である私の不手際である事は、重々承知致しております。それでも、どうか……お力添えを頂け――』

『『『お願い致します!』』』


 オウヨウが頭を下げようとした時、後方から轟いた力強い言葉。

 振り返った統括は、思わずクシャリと眉根を寄せる。


『皆様……』


 其処には、金時計から酒場の看板娘に至るまで、ギルド職員全員が深々と頭を下げる姿があったのだ。

 脈々と受け継がれて来た『金の意志』を胸に据えるのは、12人だけでは無い。

 街を、人々を愛する気持ちは皆同じ。

 それは勿論、ギルド側だけで無く――



『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』』』



 住民達も同じ。

 想いに応えようと、歓声を爆発させる。

 すると、1人の男が声を上げた。


『おーい! この街を! 俺達を! 命を懸けて護ってくれた英雄達に頭を下げさせて良いのかー!!』


 一様に首を振り、ギュッと拳を握る住民達。


『そうだ! 今度は、俺達が恩を返す番だろ! 街を護る番だろーー!!』


『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』』』


 再び轟いた大歓声。

 口々にギルドへの感謝を述べながら、腕を突き上げ、やる気を漲らせるのだ。

 そして、誰とは言わず、住人達は早速仕事に向かう。

 すると、職員達も互いに頷き合い、彼等の元へ駆けて行くのだ。


『本当に……有難う御座います……!』


 流れる人波の中、オウヨウは深々と頭を下げた。

 自分も直ぐに仕事に掛からなければいけない事は、分かっている。

 だが……頭を下げずには居られなかった。


『年は、取りたくないものですね……』


 ポツリと呟いたオウヨウ。

 その顔に心からの微笑みを浮かべ、一筋の雫を光らせながら。



 ▽▼▽



「ちち〜♡ みてなのだ〜♡」


「……とても可愛いよ、レナン」


 中段の仕立て屋に入ってから2時間程経った時、満開に笑顔を咲かせたグレナダが出て来た。

 美しく艶やかな白桃色の髪は、位置の高いポニーテールで纏め、角は大きなリボンで上手く隠している。

 だが、今回の拘りは其処だけでは無い。

 瞳と同じ紅い帯がアクセントになった、白を基調とした『浴衣』である。


「かわいいのだ〜♡」


「本当に良く似合っているよ。おいで」


 足元にくっついて来た娘を抱き上げ、頬を撫でるラディオ。

 すると、喜びの悲鳴がまた1つ聞こえて来た。


「ラディオ様ぁぁぁぁ♡ いかがですかぁぁぁ♡」


 瞳にハートマークを飛ばしながら駆けて来るのは、レミアナだ。

 爽やかな青色の浴衣に誂えたのは、鮮やかな黄色の帯。

 長い髪を左の耳元でお団子に纏め、うなじが見える立ち姿がとても妖艶だ。


「あの、僕……その……」


 半開きにした店の扉から、恥ずかしそうに此方をチラチラと見やる影。

 店主に背中を押され、やっと出て来たのはカリシャだ。

 綺麗に塗り分けられた金と黒の髪は、緩くウェーブが掛けられ、可憐な雰囲気を醸し出す。

 黒染めの浴衣と落ち着いた銀色の帯姿は、まるで夜空に輝く星々の様だ。


「こん、な……高い、もの……はじ、めて……貰い、ます」


 申し訳無さそうに俯くカリシャを見て、ラディオは優しく微笑んだ。


「これは、遥か東方に位置する国【幽玄郷】の伝統装束の1つ、『浴衣』だ。日頃の感謝の気持ちだから、遠慮せず受け取って欲しい」


「幸せですぅぅ♡ 一生の宝物にしますね♡」


 レミアナの言葉に、カリシャもブンブンと首を縦に振っている。

 そう、これこそラディオが悩みながら準備していた贈り物である。

 肝心な採寸をどうするかずっと決め兼ねていたが、家に置いてある大量のローブが解決してくれた。

 女子3人の満足気な笑顔を見て、ラディオはホッと胸を撫で下ろす。


「さて、準備は終わった。そろそろ開会式の時間だね。行こう――ん?」


 しかし、歩き出そうとした時、レミアナとカリシャに腕を掴まれた。

 見ると、2人共とても良い笑顔をしている。


「……どうした?」


「ラディオ様、実は私達もプレゼントがありまーす♡」


「ふた、りで……選ぶ、ました♡」


「それは、どういう――」


 言葉を言い終える事無く、同じ仕立屋に放り込まれてしまった。


「まさか……私にこの様な物を。有難う、2人共。本当に嬉しいよ」


 暫くして、深緑色の浴衣に黒い帯姿で現れたラディオ。

 いつもボサボサの髪は片側を耳に掛け、反対側は目を隠す様に降ろされている。

 濡れた様な艶と相まって、大人の色気を存分に発揮していた。

 十字傷が見えない程度ではあるが、髭も綺麗に整えられている。


「ちちっ♡ かっこいいのだぁ〜♡」


「有難う、レナン。しかし……あまり慣れないね」


 娘を抱き上げながら、普段と違う髪や髭に少し戸惑うラディオ。

 その時、大神官長(ヘンタイ)はと言うと――



「お、おに、おにに……お似合い……!」

(カッコいいカッコいいカッコいいカッコいい鼻血出ちゃうカッコいいカッコいいカッコいいぃぃぃぃ♡♡♡)



 ハートを形作ったアホ毛、劣情に歪んだ顔、荒い吐息と共に漏れる涎……平常運転である。


「では、私達も大広場に向かおうか」


「あいっ♡」


「たの、しみ……です♡」


 3人は大広場に向かって歩き出すが、レミアナだけその場から動かなかった。

 不思議に思ったラディオが、後ろを振り返ると――



「はぁ……はぁ……!」

(落ち着くのよ、レミアナ! やれば出来る子なんだから! 今なら……()()()()()()出来る!)



 これである。

 顔を紅潮させ、肩で息をし始めたのだ。

 だが、忘れてはいけない……相手が、壊滅的に鈍感な中年だという事を。


「そうだ……2人に伝え忘れていた事があるんだ」


「「……?」」


「選んでいた時とは比にならない程、袖を通した浴衣が輝いていたから、思わず見惚れてしまってね。2人共、本当に良く似合っている……素敵だよ」


「「〜〜〜〜っっ!?」」」


 夕焼けを背に、少し影が出来た顔で、照れもせずさらりと言葉を紡ぐ。

 そして、2人が追い付いてこれる様、ゆっくりと歩く後ろ姿。

 これはズルい……いや、自覚していないが故に最早凶悪である。


「……ふにゃぁ♡」


「……あっ、無理だ」


 暫しの間、放心状態となった女子2人。

 この時、うろ覚えの知識から下着を履いていなかったレミアナ。

 今回ばかりは、それに助けられたと言えよう。



 ▽▼▽



「お集まりの皆々様! 都合上本日限りではありますが、どうか心ゆくまでお楽しみ下さい! ここに、『ギルド生誕祭』の開幕を宣言致します!」


「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」


 黄昏に染まるランサリオンの空に、すっと並んだ金時計一同。

 オウヨウが喜びに満ちた声を上げると、群衆から拍手と歓声が捲き起こる。


「うわぁ! きれいなのだ〜!」


 夜空を彩る妖精達を見上げ、楽しそうにキョロキョロするグレナダ。

 すると、特大の花火が幾つも打ち上がり、刹那の残光を心に刻む。


「きゃははっ♡ すごいのだ〜!」


「あぁ、とっても綺麗だね。さぁ、先ずは腹拵えでもしようか」


「ラディオ様! あれ、あれ! 絶対美味しいですよ〜♡」


「僕……みん、な……分、買う……ます!」


 熱気に溢れた会場をゆっくりと見て回るラディオ達。

 様々な屋台で買い食いをして、味の感想を言い合う。

 大道芸人やクラン主催のパレードに拍手を送り、珍しい小物売りを覗いて真剣に悩む。

 煌びやかな光に包まれる会場で、一際輝く笑顔を咲かせるラディオ達であった。



 ▽▼▽



 同時刻、とある山――



「許さん……許さんぞぉぉぉぉ!!」


 煌めく結晶に囲まれた空間の中、堪えられぬ怒りの咆哮を上げた巨大な影。

 すると、体の倍はあろうかという両翼を広げ、見上げていた空へ飛び立った。


「何時迄も盗まれたままでは居られぬ……!」


 空中に漂いながら、遥か遠くの一点を見つめる。

 果たして、七色に輝く瞳は何を映しているのか。


「待っておれ……ランサリオンッッ!」


 すると、巨大な影から凄まじいオーラが溢れ出した。

 その息吹は炎となり、その羽ばたきは嵐となる程に。

 再びの咆哮を上げると、轟音を響かせながら飛び去って行く。

 そんな影を見つめるのは、山の麓に住む村人達だ。


「……あぁ、とうとう行かれてしまったかぁ」


「仕方ねぇ……大事なもんが戻って来ないんだからよ」


「んだな。これは『竜の子』の試練……逃れられない運命だ」


 静かになった夜空を見上げながら、村人達は一気に酒を飲み干した。

次回から第4章に入りますが、一日一話更新に変更になります。

17〜20時の間に投稿する予定です。

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