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第121話 【移動要塞】の場合 《後編》

大変大変大変大変長らくお待たせ致しました。

120話を加筆していますので、其方から読んで頂けると幸いです。

「時間食っちまって悪かった。こっからが今日の本番だ! 準備は良いか、お前さん達!」


「「「「はいっ!」」」」


 ロクサーナが落ち着いた後、転移結晶を使って場所を移動した一同。


「ドワーフの共和国があっちで、ランサリオンはあっちだな。途中の穴を登って下って、ちょいとすりゃ聖都へ……と、今は関係無ぇか。だっはっはっはっはっ!」


 此処は大陸の下に広がる、地下大空洞。

 一同が居る場所は広大なドーム状の空間で、生え揃う多様な鉱石が淡い光を放ち、少し湿った空気が心を落ち着かせてくれる。


「さて、お前さん達には……見た方が早ぇわな。何故俺が【移動要塞】と呼ばれているのか、今から教えてやる」


 そう言ってニッと笑い、手近に転がっていた鉱石を手に取ったギギ。

 それをとんでもない握力で握り球体にすると、これまたとんでもない腕力でぶん投げた。


「「「おぉ!」」」


「ふっふーん、どうっスか? これがウチの親方っスよ!」


 投げられた球体は壁に突き刺さり、見えなくなるまでめり込んでいく。

 元英雄の一行の力を目の当たりにした子供達からは歓声が漏れ、弟子は自慢気に胸を張るが――



「とまぁ、これは只ぶん投げただけ。次が本番だからな、良く見てろよ」


「「「「……え?」」」」



 ポカンとする子供達を他所に、再び球体を作ったギギ。

 今度はオーラで腕全体を覆っていき――



「《ぶん投げる》ぞ」



 弩轟ッッッッ!!



「「「「「えぇーーーー!?」」」」


 投げられた球体がオーラの尾を引き、壁面に激突した瞬間。

 耳を劈く破砕音と共に、広範囲に渡って壁面が破壊されたのだ。

 弾道は先程と変わらないのに、威力は桁違い。

 子供達を落ち着かせつつ、ギギが説明を始める。


「久しくこっちで使ってねぇから加減を間違えちまったが、これが【移動要塞】と呼ばれる所以。俺の意思に則った行動をオリジンスキルに変えるユニークスキル、《裸一貫男道ユニバーサルソルジャー》の力だ」


 "魔法"を術とするならば、"スキル"は技。

 その種類は大きく分けて3つある。


 1つ目は、"ユニークスキル"。

 発現した者に、唯一無二の力を与える。


 2つ目は、"汎用スキル"。

 環境や状況や職業、習熟度によって能力の差はあれど、一般的には誰でも覚えられるもの。

 その種類は多岐に渡り、《身体強化》であれば戦闘系、《魔力感知》であれば支援系。

 更に、生活系や特殊技能系など、広く深くカテゴライズされている。


「で、3つ目が"オリジンスキル"。大元は汎用と同じ区分だが、より高度に、より専門的に、より個人的に昇華させたものの総称だ。まぁ所謂、必殺技や奥義っちゅーヤツよ。お前さん達にはコイツを――」

「あ、あのぉ!」


 テキパキと準備を進めながら、淡々と説明をこなすギギ。

 そこへ、衝撃が抑えられなくなったクレインが手を挙げた。


「どうした、クー坊?」


「僕達も、その……《ぶん投げる》を覚えれば同じ事が出来る、という事ですか?」


「答えはイエス、だがちょいと捕捉があるな。汎用の《投擲》を覚えれば、物を投げて何かを壊すってーのは、さほど難しい事じゃねぇ。只、《ぶん投げる》ってーのは、俺のオリジンだ。やってる事は《投擲》と変わんねぇし、覚えるだけ時間の無駄になる」


「え? 《投擲》と同じなのに、オリジンで、無駄になる……ですか?」


「そうだ。本来オリジンてのは、時間を掛けて自分に染み込ませた技。完璧に洗練された体の感覚を得て、初めて発現するものだ。それは大概、幾つかの条件を自然と発生させる。それも、個人に当てはめた限定的な条件をな」


 ギギの答えに、クレイン達は頭を悩ませる。

 だが、腕を組みながらも何処か納得した表情を見せる1人の少年。

 それを分かっていたかの様に頬を緩ませたギギは、ゆっくりと問いかけた。


「……何か分かったみてぇだな、レン坊」


「はい。オリジン……父ちゃんの《十至鬼》や、師匠の《竜花の舞》。妖刀を必要としたり、特定の型があったり、限定的な条件がありました」


「その通り。それに加えて、《鬼人化》も含まれるな。ま、これは種族固有だからユニークみたいなもんだが……勘違いが1つあるぞ」


「え?」


「兄貴や【桜鬼】のオリジンじゃねぇ。お前さんが見せたあの見事な技は、もうお前さんのオリジンだ。より個人的に昇華させるものと言ったろう? 技を会得した時、お前さんは何か感じなかったか?」


「……感じました。体中に力が溢れる様な、頭から爪先まで自分の意識が通っている様な、そんな感覚です。《鬼人化》を自由に出来る様になった時と同じ感覚」


「そうだ! それこそ"スキル"として覚醒し、お前さんの体に蓄積された証なんだよ。普段の一閃とはまるで違う大気を斬り裂く音、振るった拳に残る確かな手応え、そういった感覚があったんだろ」


 レンカイが強く頷くと、ギギは嬉しそうに微笑みを見せる。


「源流が同じでも、大木から生える枝葉の様に無限の広がりを見せる。だからスキルは面白ぇんだ。クー坊の話の答えはそこにある。自分に合う合わないじゃねぇ。無意識下での自我、自分がこうありたいという想い。他の誰でも無ぇ、自分自身の願いを昇華させる事なんだ」


「なるほど……あくまでギギさんのオリジンであって、僕のオリジンは別にある。初めて魔導短剣を振るった時に感じた、あの嬉しさみたいな!」


「うん、ハイネスへの最初の一撃……リィもいつもと違ったかも」


「確かに……ハンマーを使ってる時って、他の《換装》より楽しいかも知れないっス」


 気付きを得た子供達の成長は早い。

 いつもとは違う感覚を体験した事を思い出し、納得した表情を見せるのだ。

 こうなっては、ギギも嬉しさを抑えられない。


「だっはっはっはっ! これだからお前さん達は最高なんだ! よし、その感覚を覚えているうちに演習に入るぞ。今日は基礎中の基礎、《身体強化》だ。お前さん達全員が、完全に自分の意思で発動出来る様になる事がゴールだ!」


「「「「はいっ!」」」」


 ギギから与えられた"頑鋼石"を抱え、四方に散らばった子供達。

 これは非常に硬い鉱石で、現在の子供達の力では壊せない。

 しかし、《身体強化》を完全に自分のモノに出来れば或いは……と言った所。


 程なくして、地下大空洞に試行錯誤の音と、子供達の真剣且つ楽しげな声が響き渡り始めた。

 中央に座り、1人1人に目を配るギギ。

 すると、懐から色褪せた紙を取り出したではないか。


(本当に、俺には勿体無ぇな……!)


 優しく微笑み紙を眺めるギギの瞳から、一筋の雫が溢れ落ちる。



 ▽▼▽



 数十年前――



 地下大空洞の極寒の氷河地帯で、労働奴隷として働く一族が居た。

 満足に食料も与えられず、劣悪な環境の中で過酷な労働に従事し、弱った者は容赦無く切り捨てられる日々。


 ドワーフ帝国に謀反を起こした罪により、この地獄に投獄されて90年余り。

 先代帝王と交わした100年の刑期まで後少しと迫る中、1人の青年が刑務官の鞭に打たれていた。


「はははははっ! 今日はどこまで耐えるか見ものだなぁ!」


「ぐぅ!……がっ! ゔぅ!……ゔぅぅ……!」


 振り下ろされる鞭によって裂けていく、青年の背中。

 しかし、膝を折り、血溜まりを吐き、耐え難い激痛に襲われても、悲鳴すら上げない。

 決して、意識を失ってはならない。

 何故なら、その手に大事な家族を抱き締めているから。


「やめ、て……お兄、ちゃん……ゴホッ! ゴホッ! やめ、て……!」


 生まれつき体の弱い妹は、満足に仕事をこなせない。

 そもそも、大人でも根を上げる様な仕事に従事させる事自体おかしな事だが、刑務官は容赦しない。

 毎度失敗を繰り返してしまう妹にも、非情な鞭を振り下ろす。


 しかし、それを受け止めるのはいつも分厚い背中。

 妹の兄であり、己の破壊行動をスキルと成すユニークスキルを持つドワーフだった。

 刑務官の腕が上がらなくなるまで、只ひたすらに堪える。

 愛する家族を護る為に。


「はぁ……はぁ……毎度しぶとい野郎だ――」

「もう良い! 止めろ!」


 割って入った刑務所長が、部下を仕事に戻らせた。

 その後、限界などとうに超え、意識を失っても尚妹を固く抱き締める腕を解いていく。


「傷はどうだ?」


 独房の前に立ち、優しく声を掛ける所長。

 鉄格子の奥には、背面の皮膚が無くなり、熱と痛みに侵されているドワーフの姿。

 申し訳程度の手当をされ、力無く座り込んではいるが、その瞳から力は失われていない。


「俺は……何度打たれても、構わねぇ……! 妹は、ララは……無事、なんだろうな……!」


「心配するな。それよりも、体調が良くない。このままではそう長くは無いだろう。そこで、お前に話がある」


 そう言って切り出された話は、信じ難いものだった。

 唯一奴隷を気に掛ける所長の正体は、圧政を敷く帝国の転覆を狙うレジスタンス。

 各地に潜む仲間とのやり取りの中、浮上した裏切りの目。

 それを表向きは盗賊して、帝国にバレぬよう粛清して欲しいという。


「険しい道のりになる事は重々承――」

「やるぜ……! それで、ララ達の未来が……変わるなら……!」


 その日の内に所長の手引きによって、弟を含めた一族数人と労働場を出たドワーフ。

 暫く会えないからと、妹を強く抱き締め、御守りとして似顔絵を貰って。


 待機していたレジスタンスと合流し、未来を変える為の戦いが始まった。

 裏切り者が居る村や町を襲い、リスト通りに名前を消していく。

 疑われない様に、多少の犠牲も厭わずに。


 奪った金品は妹の薬代と、帝国への上納金にすると言っていた。

 治療も出来て、恩赦で刑期も短くなって一石二鳥だと。

 束の間の豪遊を楽しませている間に、此方は準備を整えると。

 所長が居れば、妹は安心だ。


 最低最悪の盗賊団の首領として名が広まってから、5年程経ったある日の事。

 とある地区で力尽きた商隊の残骸を見つけたドワーフは、歓喜に震えた。

 これだけの白金貨があれば、刑期を満了出来る。

 クーデターの前に、妹達をあの地獄から解放出来ると。


 弟達に帝国の側で待機する様に命じ、ドワーフは金品を持って労働場を目指す。

 数週間に及ぶ旅路でも、疲れなど感じなかった。

 寧ろ、心を染めるのは生まれて初めての高揚感。

 聳え立つ労働場の門に辿り着くまでは――



「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 開け放たれた門、散乱する残骸。

 そこにあったのは、一ヶ所に集められた一族の亡骸。

 駆け寄ったドワーフの手の中で、永遠(とわ)に眠る小さな体。

 磔にされ拷問された跡が残る、変わり果てた妹の姿だった。


「どうしてぇぇぇぇ! どうしてぇぇぇぇ! うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 血の慟哭で頬を染め上げようとも、妹はもう目を覚まさない。

 極寒故に生々しく傷跡が残り、極寒故に只眠っている様に見えても、もう兄と呼んではくれない。

 その事実が、ドワーフの心を壊していく。


「君が……ギギ・ターオンシードか」


 その時、知らぬ声に名を呼ばれた。

 全てを失い、怒りすらも湧かぬ絶望の底。

 溢れ出る血涙に伏す中で、妹と共に強く、強く、抱き締められた。


「君に会えて良かった」


 それは、全く知らない赤の他人。

 だが、ぼんやりと見えた黒曜石の瞳から自分と同じ雫が零れ落ちていた。

 抱き締める力を一層強くしながら、声を震わせていた。


「これで弔ってあげられる……家族の手で、最愛の人を」


「あ、あぁ……うぅぅぅぅ……すま、ねぇ……! うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 妹と一族の埋葬を済ませた後、ドワーフは事の顛末を知る事となる。

 白金貨を手に入れた数日後、労働場は破棄された。

 奴隷を皆殺し、帝国に引き揚げる為。

 指揮を取ったのは、刑務所長だった。


「私達は君の弟、ググから一連の話を聞いたんだ。君と別れた後、嵌められて殺されそうになったと。命からがら地上へ上がり、たまたま近くの街に居た私達と出会ってね」


 最初から嘘で塗り固められていた。

 裏切り者こそ真のレジスタンスで、所長こそ帝国の犬でありスパイであったと。

 ドワーフの類い稀なる力は利用され、用済みになった瞬間捨てられたのだ。


「許さねぇ……! 絶対に、ぶち殺す……!」


 怒りに打ち震えるドワーフ。

 すると、黒曜石の瞳を持つ青年が握り締めた拳に手を置いて来た。

 妹達を弔ってくれた恩はあるが、説得を聞き入れるつもりは無い。


「止めても無駄だ。俺がどうなろうと、必ず仇を――」

「そんなつもりは毛頭無い。只、私達は許可が欲しいんだ」


 予期せぬ言葉に、ドワーフは眉をひそめる。

『一体何の許可を』……そう言い切る前に、置かれた手に力が篭るのを感じた。


「これから君の祖国を潰しに行く。それがググとの、君の一族の墓前で誓った約束だ。だから……君に同行する許可をくれないか?」


 そう言い放った青年の瞳は、紛れも無く真剣そのもの。

 横に立つハイエルフも静かに頷いている。

 それを見たドワーフにはもう、これ以外言う言葉が無かった。


「……頼む……!」


 その後、ドワーフ帝国は一夜にして壊滅する事となる。

 乗り込んで来た、たった3人の男達によって。



 ▽▼▽



(お前はいつも言ってたな。お兄ちゃんの力はそんな事に使う為のものじゃないって)


 世に名高い『ドワーフ帝国崩壊事件』。

 一斉蜂起したレジスタンスにより圧政が砕かれ、新たに共和国が設立された歴史的偉業というもの。


 だがその実、それをやってのけたのは若かりし日のラディオ達。

 その中で、ギギは本当の力に気付いた。

 破壊行動などではない。

 己の意思――誰かを護る為の行動が、オリジンスキルとなるユニークスキル。

 それを初めて実感したのは、戦火の中で苦しんでいた国民を逃している時だった。


(俺は馬鹿だからよ……あの時まで気付けねぇで。でも、今はもう違ぇよ。お前さんが教えてくれた事、絶対に忘れたりしねぇからな)


 ギギは涙を拭い、紙を掲げた。


(子供達を見てくれよ、ララ。お前に負けないぐらい、皆キラキラしてるだろ?)


 再び護りたいと思える存在を得た幸福を、天にも届く様に想いを馳せるギギ。

 その顔は優しさにあふれ、穏やかに綻んでいる。

 それは、妹が描いた顔。

 似顔絵と同じ、大好きな笑顔だった。

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