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2-1話 無能力者の烙印。

 その日、アルバートは書斎で頭を悩ませていた。何度も何度も手元の資料に目を通しては大きな溜息をつく。

 そして暫く考え込んだ後、覚悟を決め険しい表情をうかべた。

 高級な椅子に座ったままテーブルに手を伸ばすと備え付けのベルを鳴らす。


「アルバート様、お呼びでしょうか?」


 ベルの音が鳴り響くとドアがノックされ、初老の男性が入ってくる。皺のない黒い燕尾スーツを着ており、その服装を見れば彼が執事だとすぐに理解出来る。

 アルバートが幼少の時から彼は仕えており、アルバートが最も信頼している者でもあった。

 

「セバス。悪いな。今から一つ頼みを聞いてほしい」


「はっ!! 何なりとお申し付けください」


「我が息子であるルカを盗賊か人攫いに攫われた事にして、その後何処かで処分しろ」


「なっなんですと!? それは一体どういう事なのでしょうか?」


 主の想像を超える衝撃的な言葉にセバスは言葉を失い、咄嗟にアルバートの顔を見返した。

 数か月前に産まれたばかりの可愛い我が子を殺せと命令するなんて、普通の親では考えられない。

 もしや別人が言っているのでは? と確認したのだ。

 しかし、目の前には何十年間も仕えてきた主であるアルバートしかいない。


「もう。この方法以外に私は思いつかないのだ。お前にだけ真実を言おう。まずはこの書類を見ろ」


 アルバートはさっきまで自分が見ていた資料をセバスへと手渡した。


「これは先月に行われた。ルカ様の能力検査の結果……」


 セバスは書類へと目を通していく。そして最後の項目で目を見開き言葉を失っていた。

 能力検査とは、スキルを保有する者が検査を受けるとスキル能力が発現する前であったとしても、ほんの少しの間、強制的にスキル能力を発動させ、スキル能力の有無を確認できる検査の事だ。昔から行われている試験で、その信頼性は高い。


「ルカ様がスキルを持っていない!? これは何かの間違いでは? 貴族の血族は必ずスキルを持って産まれる筈です。ましてやルカ様はアルバート様とスキル能力者であるノエル様の血を受け継ぐお人!! スキルが無いなんて普通なら考えられません」


 スキルと呼ばれる力は、数千人に一人の割合で発現する特殊な力の事を言う。

 スキル能力は産まれた時から持っており、10年前後の潜在期間を経て能力が発現する。スキルの力は有益で、市民階級の者が発現した場合は国から好待遇で迎えられる。

 また貴族の血族達は能力に違いはあるが、必ずスキルを持っていた。

 逆に言うなら、スキルを代々受け継げる者達だけが貴族として繁栄していける事を意味する。


 凄まじい力を秘めたスキル能力者達は帝国に管理され、また貴族の結婚は王の許可が必要となっていた。


「私も検査結果が間違えていると考えて、検査を何度もやらせたのだが結果は同じだった。もしこの事実が公になれば、大問題となる。伯爵である私とノエルから無能力者が産まれたと知られれば、私やノエルの立場…… いや、アルバート伯爵家の統治者としての資質が疑われてしまう。そうなれば、当家を快く思わない輩に足元をすくわれかねない。私はこの秘密だけは何としても守らねばならない」


「しかし…… 何かの間違いと言う可能性も…… お気持ちはわかりますが、何とぞご一考を。スキル能力が発現するまで、潜在期間は約10年間あると言われています。その間に再度検査すれば正しい結果がでるやもしれません」


「この事実に関しては、決して誰にも知られてはいけない。だからこそ私は迷いを断ち切る為に決断したのだ。もし私がルカを幽閉して一生隠すと言ったとしても、ルカを溺愛しているノエルが許してくれないだろう。だからこそこの方法しか無いのだ。セバスお前には辛い事をさせるがどうか頼む」


 主に深く頭を下げられ、セバスは反射的に膝をつく。けれどその膝は震えていた。


「……仰せのままに」


 それだけ伝えると、セバスは部屋から出ていく。

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