14-2話
二人が歩いていると、前方から人並みを掻き分けながらルカ達の方へと走ってくる男達の姿があった。
人数は三人で、の表情は悲壮感が強く、必死に何かから逃げている感じだ。
三人組の先頭の男がレオンとぶつかり、立ち止まり謝る事も無いまま離れて行こうとしていた。
謝る素振りも見せなかった男に対して、レオンは瞬間湯沸かし器の様に怒りを爆発させる。
「おらぁぁぁ、いってぇぇな!! てめえぇぇら。何やってくれてるんだよ!!」
そして次に通り抜けようとしていた別の男の首根っこと掴み取り、動きを止めると力任せに持ち上げ地面へと叩きつけた。
「あぁ~あ。アイツ切れまったか。邪魔くさいが仕方ない。こうなっちまった以上、早く終わらせるだけだ」
ルカは諦めた表情を浮かべると、レオンを弾き飛ばした男を追いかける。
それほど離れていなかった事もあり、数秒で追いつくと背後から首と片手をロックし、レオンの元まで連れて行く。
ルカが戻った時にはレオンの足元には二人の男が転がっていた。
街での乱闘は通行客の目を引くので、見物客が増えていく。
ルカは周囲に目配せをし、憲兵の姿が近くに無いかを素早くチェックしていた。
視界に入る範囲には憲兵の姿は無く、ならこの喧嘩で捕まる事もないだろうと判断した。
「ルカ。よく捕まえてくれたな。これでさっきの返しが出来るぜ」
「なぁ、許してくれよ。今は俺達ヤバイ奴から逃げているんだよ。金なら幾らでも渡すから!! いや有り金を全て置いていくから俺達を離してくれよ」
「逃げてる? そういや。そんな感じしてたな、一体誰から逃げてんだ?」
「えっそれは……」
その時、前方から近づいてくる別の一団が現れた。
その男達を見て、ルカが捕まえている男が顔を隠す様に顔を下に向けた。
「おう。こんな所にいやがったか、おい兄ちゃん達、お前ら邪魔や。そいつら置いてさっさと消えろ」
一番先頭にいた若い男が威勢よく近づいてくる。
ルカが一団を確認すると五、六名程の集団で、一番後方の男からは異常な気配を感じ取る。
その男を守るように側には屈強な男が張り付いていた。
「なんだ? 後から勝手に湧いてきやがって、人の獲物を横取りする積もりか? お前達からやっちまうぞ。オラ」
レオンは邪魔されたのが気に入らず、相手に啖呵を切る。
「何だとぉ? お前死んだぞ!? 今、誰に喧嘩売ってるのか分かっているのか?」
「あぁん? お前みたいな三下の事なんて知らねーよ。俺には誰でも関係ねぇんだよ。やるのか? やらないのか? ハッキリしろよ」
「誰が三下だ。相手になってやんよ。かかってこいや!!」
既に臨戦態勢の二人が殴り合う瞬間。最奥の男が声を張り上げる。
「ちょっと待たんかい!! おうロラン!! お前が追いかけっとた男はその男じゃないやろが!! 何を晒しとるねん」
「えっはい!! 申し訳ございません」
凄まじい存在感を放ちながらその男は近づいてくる。
近くで見ると、男の顔がハッキリと見えてくる。
獣の様な眼と歴戦の戦いが一目で理解できる傷だらけの頬は男の勲章の様にも見える。
レオンもこの男のヤバさを感じとり、一瞬で身体を硬直させて構えを取っていた。
「兄ちゃん。悪かったな」
「あっああ。別に怒ってねぇよ」
「ん? なんや? 首都の方の訛りやな。なら旅行でこの街に来たんか?」
「そんな事、あんたに関係ないだろ?」
「そりゃそうやな。まぁええわ。ちょっと話を聴いて欲しいんやけどな。兄ちゃん達が、押さえつけてるコイツラな。俺のシマでやったらアカン悪さをやっとたんや。以前から目を付けとったんやけどな。今日やっと証拠を掴んだから追い込みを掛けとった訳や。薬だけは許したらアカン。薬をばら撒く奴らにはキッチリと教えてやらないとアカン」
「そうかよ」
「捕まえてくれてた。礼はちゃんとさせて貰うから、そいつらを渡してくれへんか? そっちの兄ちゃんもええやろ?」
最後にルカの方にも目配せをし、懐から財布を取り出す。
「少ないかも知れへんが、これが礼や。あんたらこれで好きな店行って飲んでくれや」
「えっ。こんなに!?」
財布には市民が稼ぐ数カ月分の大金が詰まっていた。
「おう。俺はディーノ・イグナシオって言う者や。気にする事はないで。もしもしばらくこの街におるんやったら、一回【ディーノファミリー】のアジトに顔を出してきな。ええ店に遊びに連れて行ったるさかいな」
レオンは財布を手に取り、ルカの元へと戻った。
ルカも視線を外さないまま、羽交い締めにしていた男を男の前に突き出した。
突き飛ばされた男は、両膝を付きガタガタと震えていた。
「お前ら、もう二度とファミリーのシマでこんな下らない商売はしないと誓ったよな? ちっちゃい事なら目もつぶったる。やけどなこれだけは許されへん。薬だけは、絶対にアカン。今日は覚悟しとけよ」
鼻と鼻が当たる距離で強く威嚇しすると背後に待つ者に合図を送った。
薬とは麻薬の事で飲むと思考力が鈍くなり、快感を感じやすくなったりする。
元は戦時中に痛み止めとして作られていた薬だが、中毒性が物凄く高く飲み続けると薬なしでは生きていけない廃人へと変わっていく。
「へい」
イグナシオから指示を受けた男は、逃げていた者達はを捕まえ街の暗闇へと引きずっていく。
「許してください。もう二度としませんから!!」
何度も何度も許しを懇願していたが、全く響いている様子はない。
「ルカ見てみろよ。すげー大金が入ってるぞ」
貰った財布の中をルカに見せながらレオンは興奮気味に語った。
「レオン、ちょっと貸せよ」
「えっおい!! ルカ!!」
ルカはレオンから財布を奪うと、男達を引きずりながら歩いているディーノの元へと駆け寄っていく。
「こんな大金いらねぇよ。多すぎだろ!!」
「ルカ!! 何を言っているんだよ。勿体無いだろ」
レオンが折角貰った大金を返そうとしているルカの考えが理解出来ずに、あたふたしているがルカは関係無い。
「なんや。そんなつまらん事を言いに来たんかいな!! 兄ちゃんよぅききや。金っちゅうもんはな、一度手から離れた瞬間から自分の金じゃなくなるんや。そやから、これはもう俺の金やない。この金は今はお前達のもんや。もしこの金がいらないんならどこで捨ててもろてもかまへん。つまらん事で余りワシに恥をかかすんやないぞ!! オラァァ!!」
ディーノの真っ直ぐでぶれない姿勢にルカは言葉を失う。
「ほなな兄ちゃん。お前たちとはまた会える気がするわ」
それだけ伝えると、ルカ達の元から去っていく。
「くそぉぉぉ!! 俺は絶対にアイツ以上のファミリーを作り上げてやるからなぁぁぁ」
漢としての器で負けたと言う敗北感がルカを襲う。
大きな声をあげて叫びながら悔しさを噛み締めていた。




