11-1話 救出
ローランが指定してきた場所はファミリーが所有している資材倉庫。間仕切りが無い構造をしており室内はかなり広い。
その室内に今は三十人を超えるファミリーの兵隊達が武器を手に持ち、ルカ達を待ち構えていた。
戦時中は戦う事が立派な仕事になっていたが、戦後は戦う必要もなくなり、戦う事しか知らない兵士達はすぐに行き場を失った。
生きる事だけを考え勉強もしていない者も多く、平和になったからと言ってすぐに別の仕事に就ける訳でもない。
そんな者の行くつく先は血生臭い裏の世界しかなかった。
戦争を経験した者と戦争に参加しなかった者を見比べると同じ人でも全く違う。一番の違いは肝の座り方が全く違う事だろう。
簡単に言えば人間を痛めつけ殺す事に躊躇がない。
道徳観の乏しい彼等が武器を手に取り、大人数で待ち構えている今の状況に飛び込む者がいれば、肉食獣の檻に放たれた子羊と同じ状況といえるだろう。
室内の最奥には手足を縛られた状態のスノウが大きなソファーの上に転がされている。
一連の騒動を知らないスノウは今の状況が全く理解できず。何故自分がこんな目に会うのか分からず混乱していた。
ただ恐怖だけが全身を駆け巡り頭がおかしくなりそうだった。
そんな状態の中、ローランがソファーに転がるスノウを凝視している。そのまとわりつく様な視線が気持ち悪く、スノウは顔を背けた。
「ほぅ。近くで見ると中々上玉な女じゃねーか? そうだな…… おい、今からこの女を順番に犯していくぞ。こっちには三十人もいるんだ。途中であの野郎共も来るだろうよ」
「えっ!? 今、ここで犯るんですか? 喧嘩の前ですよ」
怪訝そうに返事をした下っ端の頭を、ローランは手に持っていた剣で思いっきり殴りつける。
幸い。剣は鞘に入っていたので、頭部が宙を舞う事は無かったが頭部からは大量の血が流れでており、男は殴られた衝撃で床に膝をつけた。
「そんな事も分からねぇのかよ。この馬鹿野郎が!! 俺達に楯突いた小僧共の前で、自分の女が嘆き、喘いでいる姿を見せつけてやるんだよ。ガキ共が怒りに狂う姿が見えるだろうぜ。解ったらさっさと準備しろ!!」
「わっわかりました!!」
男達も少々躊躇ってもいたが、美しいスノウの容姿を目にし、考えを改めてジュルリと生唾を飲み込んだ。
そしてローランに最初に指名された男が自分のズボンを脱ぐ為に手を動かしはじめる。
他の男たちはスノウが暴れない様に身体を押さえつけていた。
スノウは今から起こる悲劇を想像し、必死に逃げ出そうとしたが大勢の男達に押さえつけられて逃げる事もできない。
更に口にはもタオルが巻かれているので、舌を噛んで死ぬ事も大声をあげて助けを呼ぶ事も出来なかった。
どうする事も出来ず無力を悟ったスノウは目に大粒の涙を浮かべている。涙を浮かべたその瞳には野獣の様な目をした男が涎を垂らしながら近づいてきていた。
「へへへ。まさかマジでこんないい女とやれるとは、人前でやるのは初めてだけど案外興奮するもんだな。新しい性癖に目覚めそうだぜ」
「ううぅーーーっん!!」
(いや!! 誰助けて。ルカ兄ぃ!!!)
スノウは何度も首を左右に振り身体を激しく揺さぶって逃げ出そうと試みる。しかし身動きが取れず、心の中で必死にルカの名前を叫ぶ事しか出来ない。
「いい顔をしているじゃねーか。その悲観に満ちた顔、ゾクゾクすんぜぇ」
ローランは必死に逃げ出そうともがくスノウを見つめ、よだれをすすり興奮気味にそう言い放つ。
「この屑野郎が、下らねぇ事ばかりしやがって…… これが兄貴が俺に説明した本職の流儀ってやつなのか? 兄貴はこんな薄汚ねぇやり方をして、ファミリーの名前が汚れるとは考えないのかよ?」
そう聴こえた瞬間。
スノウの目の間でズボンを脱いでいた男が突然、真横に吹っ飛んでいく。男が立っていたその場所には怒りに満ちた表情を浮かべた第三席のマルコが立っていた。
「何だぁマルコ? お前は俺に逆らうつもりか? 俺はお前の兄貴分なんだぞ?」
自分の指示を邪魔されたローランも苛立ちに満ちた顔を浮かべている。
「兄貴はたった二人の素人のガキを殺るだけで、無力な女を人質にとった上に三十人もの兵隊をぶつけるのかよ?」
「あん? それの何が悪いんだ? 方法は何でもいいんだよ。喧嘩は負けた方が悪い。お前も俺のやり方が気に入らなければいつでもファミリーを抜けて貰ってもいいんだぞ?」
ファミリーは上下関係に厳しい世界だ。立場が上の者が黒だと言えば、たとえ白だと思っていても、黒だと言わなければならない。
立場を利用した伝家の宝刀をローランは初手で繰り出してきた。
ローランはいつもそうだ。
自分の意見と反する者はファミリーから追い出して今の地位を確固たるものとしてきた。
マルコが可愛がっていた若い奴等も、ローランは気に入らないと言うくだらない理由でファミリーから追い出された事もある。ボスに恩義を感じていたマルコは自分を殺し、ずっと我慢をしてきた。
「今日までは、俺みたいな屑を拾ってくれて、育ててくれたボスの顔で必死に我慢していたが、流石にもう我慢の限界だ。兄貴がそう言うなら俺は喜んでファミリーを抜けさせて貰うぜ。今日まで世話になったな。ボスには後日、直接挨拶をさせてもらうが、こうなった以上は俺にも意地がある。この嬢ちゃんはお客さんが来るまで俺が守らせて貰うぜ! 文句はねぇよな?」
ルスカファミリーの中で唯一のスキル能力者で最も戦闘力のあるマルコの本気の威嚇を受けて、その場にいる者全てが身体を硬直させた。
スノウはその瞬間、身の安全が保障された事になる。
マルコとローラン一派との睨み合いが続いた。ローランも馬鹿ではなく、今マルコと先頭を開始すれば、負けないにしても多くの兵隊を失う事になると瞬時に計算し、兵隊達に待機を命じた。
飽くまで今回の目的はファミリーに盾突いた餓鬼の始末な為、無駄な戦闘はできるだけ避けたい。ローランがそんな思考を巡らしていると家の外から罵声が聴こえてくる。
その声にマルコは聞き覚えがあった。
マルコはニヤリと笑みを浮かべると、スノウを肩に担ぎ、出入り口のドアの方へとあるき始める。
「どうやら、やっこさんも到着したみたいだし。俺はこれで失礼させてもらう」
「おいマルコ!! この喧嘩が終わった後は覚悟しとけよ。お前は今ファミリーを裏切ったんだからな。今からお前もファミリーの粛清対象だ!!」
「あぁ、わかっているさ。ただし俺に粉掛けて来る時は殺されても文句を言うなよ」
「チッ ふざけやがって」
ローランは苦虫をかみつぶした表情を浮かべ、大きく舌打ちを打つ。
一方マルコはそう言い放つと出入り口のドアノブに手を掛けた。
バァン!!
その瞬間、反対側からドアが開き、ルカとレオンが飛び込んできた。
ルカはドアの前にマルコがいた事に驚いた。マルコの強さは前回のアルベルトの件で十分かっている。
油断したままで倒せる相手ではなく、咄嗟に身構えスキルを発動させ構えを取る。
「おおっと。兄ちゃん!! 遅かったな。お嬢ちゃんは、成り行きで俺が守ってやったぜ。俺の感だけどよ。お前が本気を出したらローランの糞野郎にも負けない。そうなんだろ? そういう事で後はお前がケリを付けろ。それじゃあな」
身構えたルカはとは正反対に、マルコは軽快な口調でフレンドリーにルカの肩を叩きながらそう言うと、肩に担いでいたスノウを床にレオンに手渡し、そのまま部屋から出ていく。
「あんだ? 今の野郎は? スノウちゃんを守ったって!? どういう事なんだよ」
レオンはスノウを床に丁寧に降ろした後、拘束を解きながら文句を言う。
「ルカ兄ぃ…… 怖かったよぉぉぉ。私…… ルカ兄ぃが助けに来てくれるって信じてたぁぁあ」
拘束が解かれたスノウは、ダムが決壊したかのように泣きながらルカへと抱きついた。
ルカも泣きじゃくるスノウの頭を撫でて落ち着かせる。
「スノウ……無事で良かった。今回の事は俺の責任だ。済まなかったな。後はこのドアを出て外で待っていてくれ。外にいた奴らは俺達が動けなくしている。少しの間ならスノウ一人でも大丈夫だろう。もし三人で逃げたとしても、彼奴等はきっと何処までも俺達を追いかけてくる。ならここで二度と逆らえなくなる位に叩き潰しておかないと俺達の安全は保証されないんだ。だから少しだけ待っていてくれ。全部が終わったら三人で帰ろう」
「えっ!! そんなの死んじゃう。だって相手は何十人もいるのに……っ!!」
必死に二人を止めようと声をかけたが、ルカの表情をみてスノウはいいかけていた言葉を止めた。
スノウが見たルカの表情は今まで見た事が無い程、怒りに満ちあふれていた。
(今のルカ兄ぃは、きっと誰にも止められない。なら……)
スノウは言いかけて言葉を飲み込み、別の言葉をかけた。
「うん。気をつけてね。ルカ兄ぃの事信じてる。私は外でずっと待っているから」
(もしルカ兄達に何かあれば、私も死のう。あんな奴らに汚される位なら、私は命なんていらない。ルカ兄ぃが命を掛けて助けに来てくれた。その事実だけがあれば、もぅ十分だから)
強い覚悟を抱きながらスノウはルカの指示通りに倉庫から出ていく。
一方ルカは怒りと言うシンプルな感情が身体中を支配していた。
体温は急激に上がりだし、暴れなければ身体が爆発してしまう位に熱く感じる。
(スノウは無事に助ける事ができた。後はスノウをさらったクソ野郎共をブチのめすだけだ)
ルカは立ち上がると、振り返り大声を張り上げて啖呵を切る。
「お前ら俺の仲間に手を出して、覚悟は出来ているんだろうな? 全殺しだぁぁぁ!!」




