9-2話
ルカとアルベルトはルスカファミリーが所有している赤いレンガ造りの建物に来ていた。
ここはルスカファミリーが市民や貴族、スラム出身者などを相手に金を貸し付ける金融専門の事務所となっていた。
そして此処を仕切っている男。名前はマルコ・ガバナントと言い、ルスカファミリーの中で第三席に位置する男だ。
マルコはルカより五歳年上の二十五歳、スーツを着込み髪を整髪料でオールバックに固めている。
頬には刃物で切られた切り傷があり身体も大きい為、存在するだけで相手を圧倒する威圧感をはなっていた。
その事務所の一室でテーブルを挟み、ルカとアルベルトがマルコと対峙している。
「だからチャラにしろとは言ってねーよ。ちゃんと借りた金に利息を付けて返すといっているんだ。だけど金貨十枚は暴利過ぎてありえねぇって言ってんだよ」
「お前が最近、噂によく聞くルカだろ? 先日ファミリーの下っ端達を打ちのめしたって話じゃねーか。そんな状態でよく此処にこれたな? お前、命が惜しくねーのか? もし俺が号令をかければ、すぐに部屋に入りきれない程の兵隊が押し寄せてくるんだぞ」
「確かマルコさんって言ったよな。別に何人きたって俺には関係ねぇよ。アンタがどんなに大それた事を言ったとしても、俺には脅しは通用しない。今はコイツの借金について話をしに来てんだ。ひと目見てわかった。アンタは他の奴とは違うってのはひと目見てわかった。俺達は借りた金を返しに来ているんだ。道理が分からないアンタじゃないはずだ」
マルコの脅しにもルカは一歩も引かなかった。逆にルカが鋭い眼光でマルコを見返す。
「まぁいい。それでお前はどうする気なんだ? 俺にも襲いかかって、力づくで言う事をきかせる気か?」
「それでもいいんだが…… どうだい? ここは一つ勝負といこうぜ。アンタが俺に攻撃をして俺が倒れれば金貨十枚を払うってのはどうだ? 何ならそっちは道具を使ってもいいぞ」
「あん!? 何だよそれは? 貴様、俺を馬鹿にしているのか?」
「嫌なら逃げてもいいんだぜ?」
二人の間に緊迫した空気が流れていた。マルコが放つ雰囲気が重苦しい物へと変化していく。それはいつ爆発してもおかしくない位の圧力を含んでいる。
何も言わず静かに立ち上がったマルコは壁に掛けかけていた剣を手に取り、ゆっくりと鞘から引き抜いた。
驚く事に突然、腕から発生した光が剣全体に伝染していく。
(おい嘘だろ!? このマルコって奴もスキル能力者だったのかよ。もしスキルが付与された剣で切られたら、俺の体はどうなるんだ? 俺の【不変】のスキルで防げるのか?)
ルカも少し焦っていたが、すぐに気持ちを切り替え、全力でスキルを使用する。
同時進行でマルコの方は片手で持っていた剣をゆっくりと頭上へと掲げた。
鋭い眼光と巨体から発せられる攻撃的な圧力は、受けた者を萎縮させるには十分だ。
その証拠にルカの隣にいたアルベルトは、怯えた表情を浮かべ床に膝を付け全身をガタガタと震わせる事しか出来ないでいた。
しかしその威圧を一番近くで受けている筈のルカは全く動じた素振りもなく眉一つ動かさない。
その理由は簡単で【不変】のスキルは精神にも影響していた。どんな恐怖がルカを襲ったとしても、スキルを使用しているルカに恐怖を与える事は出来ない。
もしスキルを使っていなかった場合なら、この状況に恐怖を感じ緊張から大量の汗を流していた筈だ。
「流石はいい度胸だな。けどな自分が一度吐いた唾を飲み込むんじゃねーぞ」
マルコは視線をルカから外さずに一呼吸吸い込むと、一層強く光が輝き始めた。
そして次の瞬間。
スパッ!!!
ほんの小さな音が聞こえた瞬間に剣が振り下ろされた。
眼では追えない速度の剣撃はルカの頭上へ吸い込まれる様に走り、剣先はルカの鼻先を掠めながら、床へと突き刺さる。振り下ろされた剣は根元まで床につき刺さっていた。
まるで水面に剣を斬りつけた様に、全く抵抗感を感じさせない。
ルカの鼻先にはほんの少しだけ斬られた感触が残っていた。マルコは鼻で笑うと柄から手を離した。
「おかしいな……? 鼻先だけを切った筈なんだが? 手元が狂ったか…… 俺もまだまだ精進が足らないようだ。ふんっ! それにしてもお前は面白い奴だ。俺の眼を見て全く動じていなかったな。今回はお前の勝ちだ。元金だけ置いていけ」
「いや、それじゃ道理が通らねぇ。利息含めて金貨一枚払うよ」
ルカは金貨を一枚マルコに放り投げ、今もなお隣で震えて動けないでいるアルベルトを抱え上げると、出口に向かい歩き出す。
「おい。男を見せるのは格好いいだろうが、本当に男が力を使うべき所は契りを交わした親や兄弟の為にだ。今のまま突っ走ると早死にするぞ」
「マルコさん御忠告感謝するぜ。でもな俺はこんな生き方しか出来ないんだよ」
事務所から出た後、落ち着きを取り戻したアルベルトが興奮状態で感謝を表す。
「ルカ兄ぃ。ありがとうございます。俺、むっちや感動しました。流石はルカ兄ぃだ。無茶苦茶格好いい!! よぉぉ~し、俺もルカ兄ぃみたいに、強い男になるぞ!!」
「大きな声でうるせぇぞ。これに懲りたら、今後はつまらない所から金なんて借りるんじゃねーぞ」
「わかってるって! 本当にありがとう。ルカ兄ぃ!!」
ルカはお互いの住んでいる場所やスノウが働いている店などの情報を交換した後にアルベルトと別れた。
「スノウ…… 今晩にでも行ってみるか」
スノウが働く店はルカも聞いたことがある店で、場所もそんなに離れてもいない。
会いに行く事を決めたルカの心は、少しばかり弾んでいた。




