7話 【不変《アンチェイン》】VS【怒り】
ルカは十四歳へと成長していた。
その間に変わった事と言えば、スキル熟練度の向上に伴って街でも少しずつルカの名前が広がり始めた事だろう。
スキル能力に目覚めたルカは圧倒的な力で、歯向かう者を完膚なきまで叩き潰している。
その理由はシンプルで自分が強くなる為だ。
自分が強くなって母親の仇を取る!! その想いだけがルカを突き動かしていた。
この世界では一度下手に見られたら、後は搾取される弱者と成り下がってしまう事がある。どんな相手だろうと一歩も引かないルカの実力は周囲にも認められ、知らない間にこの界隈で一目置かれる存在となっていた。
名が知れたと言ってもルカは能力者だと言う事を隠していた。
もし帝国の役人にでもバレてしまえば、強制的に連れて行かれる事を恐れているからだ。
なので誰にも気付かれないようにスキル能力を上手に使っている。
その結果、ルカは打たれ強く腕っぷしの強い、普通の少年だと見られていた。
名が売れれば、いい事も悪い事もある。
良い事はルカが住んでいる孤児院の子供にちょっかいを出す者が減ったと言う事。
悪い事は売名目的で挑んで来る者が増えたと言う事だ。
ある日の朝、ルカの孤児院に短髪で眼光の鋭い少年が訪ねてきた。見た目はルカと同年代で服装を見れば、同じスラム街に住んでいる者と解る。
「おい! お前がルカってやつか? 俺はレオンって言うんだけどよ。最近、お前目立っているらしいじゃねーか? 噂が本当なら喧嘩が強いんだろ? なら俺と勝負しよーぜ」
彼の背後には仲間と思える少年が五人程控えている。
「俺と喧嘩がしたいのか? やるのは別にいいが、お前だけでいいのか? 俺は別に一度に全員の相手をしてもいいんだぜ」
ルカは売られた喧嘩は全て買っていた。
理由は単純で【逃げたくない】ただそれだけだ。
「はんっ。言うじゃねーか。気に入ったぜ! これはタイマンだ。お前達は絶対に手を出すんじゃねーぞ」
その後ルカに案内されたのは、孤児院から数百メートル離れた所にあるゴミ捨て場で、ルカが毎日鍛錬をしている場所でもある。この場所は周囲には家屋もなく、人気も少ないので喧嘩には丁度いい。
ルカとレオンの二人は互いに距離をとり、視線を合わせた。
レオンも喧嘩には自信があるようで、腰に両手を当てながら余裕の笑みを浮かべ立っている。
一方ルカは、気だるそうに両腕を持ち上げて準備運動をしていた。
「さっさと終わらせてやるから。いつでもかかってこいよ」
ルカの言葉を受けて、レオンはペロリと舌舐めずりをする。
「いい度胸だよ。公開するなよ」
その後、五メートル離れていた二人の距離はレオンの全力疾走で一瞬でゼロとなり、勢いそのままにルカの顔面を殴り飛ばした。
ルカは敢えて避ける事もせずにレオンの拳を受け入れる。
「へぇ~お前やるじゃねーか。俺のゲンコツを喰らって一歩も動かない奴は初めて会ったぜ」
「そうかい? それは光栄だな。今度はこっちから行くぞ」
ルカはスキル能力を気付かれない様に拳だけにスキルの効果を与え、【不滅】の効果でギッチギチに握り込まれ硬くなった状態の拳でレオンの顔面を思いっきり殴り飛ばす。
「ぐはぁっっ!! かてぇぇ! 何だよお前の拳は? 鉄でも仕込んでるんじゃねぇだろうな」
一メートル程吹っ飛ばされ、口から流れる血を腕でぬぐい取ると、レオンは何とか立ち上がる。
「レオンって言ったっけ? お前の真似じゃねーけどよ、俺の拳を喰らった後にそれだけの捨て台詞を吐いた奴はお前が初めてだ」
「ふんっ当然だろ。俺をその辺りに転がっている雑魚と同じにするんじゃねーよ。次から俺も全力で行くぜ」
様子見は終わり、二人の殴り合いは再開された。
再開された喧嘩は小細工なしで互いが順番に殴っていくと言う不器用な勝負だったが、シンプルだけに優劣はすぐにつく。
ルカのスキルを使えばレオンをサンドバック状態にする事も可能だが、何故かレオンの実力をもっと知りたい衝動にかられていた。
確かに流石に勝負をふっかけてくるだけあって、レオンはルカが今まで戦ってきた奴の中では一番強い。
しかしスキル能力を持つルカと一般人であるレオンの力量は歴然としていた。
二人は同じだけ殴り合っているにも関わらず、明らかにダメージを負っているのはレオンの方だけだ。
その理由はルカがスキル能力である【不変】を使用している為である。
ルカはスキルの効果でダメージは全く無い。
攻撃を受ける瞬間に殴られる場所のみをピンポイントにスキルを発動させ、精神力を無駄に減らす事無くレオンの攻撃を全て無効化していた。
今日まで一日も欠かさず鍛錬を続け、驚異的なスキルコントロールと発動速度を手に入れていたルカだから為せる技だ。
何も考えず普通にスキルを発動させれば全身にスキル能力が作用してしまう。それは簡単で良いのだ、スキルの影響範囲に伴って大量の精神力を使用してしまう。
必要な部分だけにスキルを使用した方が当然消費される精神力も少なくて済むと言う訳だ。
今のルカは攻撃や防御のほんの一瞬だけスキルを発動させて、何十人と戦っても最後まで戦い抜くスキル技術を習得していた。
「なぁ…… そろそろ、終わりにしてもいいんじゃねーか? 勝負はとっくについているだろ?」
ルカは自分のを受けて地面に倒れ込んだレオンに勝負の終わりを提案してみる。
「糞がぁぁぁ。あ~腹が立つ。こんな情けない戦いは初めてだよ」
レオンの方はどうやら自分の不甲斐なさに怒りを感じているみたいで、地面を何度も拳で叩きつけながら悔しがっていた。
「おい。地面ばかり殴っても喧嘩には勝てねぇぇぞ? 殴られすぎて頭がおかしくなったのかよ?」
何度も何度も地面を殴り続けるレオンが心配になってくる。
「あぁぁぁぁっ。だんだんと腹が立って来やがったぞ。俺のクソッタレがぁぁぁぁぁーーーっ!!!」
腕を大きく振りかぶり、渾身の力で地面を殴りかかった時、レオンの右拳に光が宿るのがハッキリとみえた。
ドカーン!
大きな音と共にレオンが殴った地面は大きく抉れていた。勿論道具など使っておらず、素手で殴っただけだ。
「地面を吹き飛ばした!? 今のはまさかスキルなのか? お前もスキル能力者だったのかよ!?」
光り輝く拳から放たれた常識はずれの攻撃を目にし、ルカは相手も自分と同じスキル能力者だと理解した。
「スキルだぁぁ? そんな事はどうでもいいんだよ。俺は今イライラし過ぎて、頭がおかしくなりそうなだけだ。お前には悪いがもう少し付き合ってもらうぜ」
順番で言えば次はルカが攻撃を受ける番だった。
もし此処でレオンの攻撃を避けたりすれば、負けを認めた事になる。
ルカも誰にも負けたくないと思っていた。
咄嗟にスキル能力を全開放し、全身スキル状態でレオンの攻撃を受けた。
その攻撃は凄まじく地面を抉り取った時と同様に大きな音が鳴り響き、ルカは物凄い衝撃を受けて数メートルほど吹き飛ばされる。
(ぐぅぅ。さっきまでと段違いの攻撃じゃねーか。こりゃスキル能力の発動タイミングを間違えたらこっちの方が一撃でやられてしまうぞ)
ルカのスキルはダメージを受けない無敵のスキルの様に思えるが、実際は無敵ではない。
スキルを使えば使うだけ精神がすり減っていく。
相手の攻撃力が一撃必殺の火力があるので、今まで通りのギリギリのタイミングでは相手の攻撃を読み間違えた時に一撃でやられてしまう可能性がある。
幸いにもここまで精神力を節約させる戦い方をしているので、まだ余裕が残っている。
日頃の鍛錬で精神力を残す癖が身体に染み付いていたのが幸いしていた。
今日までの訓練が間違っていないと再確認し本当に良かったと思う。
なら後は自身の限界に達する前に相手を倒すだけだ。
「さっきはよくもやってくれたな。今度はこっちの番だ!」
ルカは何事もなかった様子で立ち上がると、助走を付けて走り出し、今度は腹部に強烈な前蹴りを叩きこんだ。
「ぐはぁっ!!」
見ている者が目を背けたくなる程の強烈な蹴りを受けて、レオンも地面に這いつくばる。
ルカの攻撃は生易しいものではない。
攻撃する手足にスキルを使用しているので、痛みを感じないので全力で殴っている。
リミットが外れた攻撃は普通ではなく、相手は鉄で殴られていると同等のダメージだ。
しかしレオン根性だけで立ち上がると、雄叫びをあげながら攻撃を返した。
二人の戦いは殴り、蹴り、放り投げ、と死力をつくす。
レオンのスキルは【怒り強さ】によって攻撃の威力を変化させるスキルの様で、戦いが長引くにつれてその攻撃力が上がっていく。
それから数十発の殴り合いが行われ、ルカの精神力は残りわずかになっていた。
すでに精神力は使い果たし頭はフラフラの状態で立っているだけでも辛いが、それは気力で補っている状態だ。
一方、レオンの方も体中に打撲痕を作っており、ダメージは大きい。
見ためではルカの圧勝に思えるが、ダメージに大差はない。
このまま戦えば、どちらかが必ず死を迎える。そんな状況とも言える。
「まだだぁ、俺の怒りはまだ収まってはいないぞ!!」
体はボロボロになりながらも、レオンの拳の光は輝きをましていく。
「おいおい。マジかよ…… でも俺もお前みたいな裏表の無い奴は嫌いじゃねーよ。最後まで付きやってやるぜ」
「次で最後の攻撃になるだろう。俺の全力をルカ、お前に叩き込む」
「俺もそろそろ限界でな。これで終わらせて貰うぜ」
超至近距離まで互いが歩み寄り、顔と顔が触れ合う所で立ち止まる。
二人の呼吸が自然とシンクロを始めた。
そしてタイミングが合った瞬間、レオンの雄叫びが轟く。
「うらぁぁぁぁ!!!」
「おぉぉぉぉ!!」
二人は同時に互いの顔面に向けて拳を叩き込んだ。
結果、攻撃を当てたのはルカであった。レオンの拳はルカの頭部ギリギリをすり抜け、空振りしている。
クロスカウンターで食らった攻撃はダメージを増大させ、レオンの意識を刈り取っていた。
崩れる様に倒れるレオンを目にし、ルカは安堵の溜息を履いた。
「疲れたぁぁぁ」
大きな声を上げると、レオンの側で尻もちをつく。
「兄貴ぃぃーーー」
レオンの仲間がレオンの元へと駆けつけてきた。
「気を失っているだけだ。日陰で寝かしてやれよ。こんな事で死ぬような奴じゃない事は、お前達が一番分かっているだろ?」
ルカはそう告げると、ふらつく頭を手で叩き気合を入れ直す。
「お前達はどうする? 弔い合戦なら受けてやるぞ」
本来ならこれ以上戦うのは不可能であるが、ここは引くわけには行かない。
強気の発言をして相手の出方を伺う。
「俺達は戦わない。兄貴が一対一だって言ったからな」
仲間の少年がそう告げる。
「そうか。それなら今回の喧嘩はこれで終わりだ。俺の孤児院で治療してやるから、そいつを連れてこいよ」
ルカはふらつきながらも力強い足取りで孤児院へと帰っていく。




