6-2話
伯爵の屋敷から再び三時間を掛けて、スラム街に戻ってきたルカは大きく息も切れ切れな状態で家の中へ飛び込んだ。
「母さんは大丈夫!?」
「おい小僧、今までどこに行っていたんだ。病気の母親をほっておいて!! この親不孝者がぁ!!」
「すみません!! それで母さんの具合は?」
ルカの言葉を受けて、医者は力なく首を左右へと振る。
「熱はまだ下がっておらん。はっきり言って今はかなり危険な状態じゃ。じゃが少し前から意識が戻っておる。早く顔を見せて元気づけてやれ」
「母さん!?」
ルカはベッドの上で息荒く横たわる母の側へと駆け寄った。
ノエルはルカの事に気づき、力の入らない手をルカの頬にあて微笑んだ。
「ルカ、ごめんね。心配かけちゃったね。でも安心して母さん絶対に元気になるから……」
「うん。俺も薬を貰いに伯爵の所に行ったんだけど…… 会えなくて」
「アルバートの所に? そう…… ルカ覚えておいて、貴方の体には伯爵家の血がながれているわ。貴方は今後、貴族として領民を導いて行かなければならないの。私はルカがどんな困難にも立ち向かえる力と知恵がある事を私は知っている。だから辛い事があっても、挫けずに頑張って生き続けなさい」
「母さん。そんな話は後で幾らでも聞くから、今は無理をしないでゆっくり休まないと」
「まって、休む前にこれを…… この手紙はアルバートに渡してほしいの。それと母さんこれでも、昔は帝国で五本の指に入る実力の持ち主だったのよ。スキル能力に目覚めたルカもきっと母さん以上の才能がある筈よ。スキル能力は練習すればするだけ上手に使える様になる。それに使い方も考え方一つで効果も大きく変わる。広い視野で自分の力を見つめなさい」
おどけてみせたノエルの額には大量の汗が浮かんでおり、辛い状態なのは一目瞭然だ。
「ルカ…… 母さんと一緒にいてくれて本当にありがとう」
そう声を掛けると、ノエルの腕の力がパタリと抜けていった。
「嘘だろ…? 母さん? 先生…… 疲れて眠っているだけだよね?」
医者は首筋に指を当てて、脈を確認した後、辛そうな表情で首を振る。
「目を空けてくれよ。母さん!! 母さん!? うわぁぁぁぁあ」
必死で体をゆすり、何度も呼び掛けたがノエルは二度と目覚める事はなかった。
ルカはその日から一人で生きていく事となってしまった。
「母さんが死んだのは彼奴等のせいだ。父親は俺と母さんを信じずに捨てた。そして全ての元凶はあの女!!! 俺は絶対に許さない。いつか必ずぶっ潰してやるからなぁぁぁ!!」
憎しみはどんどん膨れ上がり、アルバート伯爵家に連なる全てはルカにとって最も憎むべき存在となる。
ルカはその日から伯爵家を潰す為に生きる事を決めた。




