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ティアラとハロウィン

※『時計台の秘密』を読んでからお読みください。

ティアラとハロウィン


 今日は十月三十一日。アランとシャーナはティアラの部屋にいた。(正しくはお邪魔していた。)

「アラン様!今日はハロウィンですね!」

ティアラはベッドに寝そべりながらハロウィン特集の電子雑誌を見ていた。しかしアランは窓に腰をかけて自分の端末をいじっていた。ティアラはアランに無視されたのでさっきよりも大きな声で言った。

「ア、ラ、ン、様!今日は年に一度のハロウィンですよ。」

「うん、そうだね。」

端末を見ながら冷たい返事が返ってきた。

「私も仮装して、街の祭りに参加したいです。」

「人混みで危ないからやめときな。」

アランは適当に返事をした。すると、ティアラはアランに怒った。

「なんで、そんなに冷たいのですか?もっときちんと話を聞いて下さいよ。」

すると、ベッドに潜り込んでいた猫の姿のシャーナが会話に混ざってきた。

「ティアラ。アランは過去のハロウィンの日にちょっとしたトラウマがあるのよ。」

「えっ、そうなの?」

すると、すかさずアランは端末から顔を上げ口を開いた。

「別にそれは、違うよ。ただ、僕は人混みが嫌いなだけなんだ。」

ティアラはその様子を見て、諦めたように再び電子雑誌に目を移した。シャーナはティアラの悲しそうな横顔を見ていた。いたたまれない気持ちになり心の中でため息をついた。そして人間の姿になり、大きな独り言を呟いた。

「私はこのお祭り、結構好きよ。でも来年はこのハロウィンの祭りを見られるか分からないからなぁ………。そこまで生きていれば見られるけど。」

シャーナの種族は短命のため、いつ命が尽きるか分からないことをアランも知っていた。アランはシャーナの独り言に顔を曇らせた。一気に部屋の中が静かになった。アランは、ゆっくりと端末から顔をあげシャーナとティアラの顔を交互に見た。そして、仕方なさそうに言った。

「はぁ。シャーナがそこまで言うなら分かったよ。じゃあ、行こう。」

「やった!楽しみ!どんな仮装していこうかしら。」

ティアラは自分のクローゼットを開けながら嬉しそうに言った。

「じゃあ、また夜に迎えにくるから。」

アランはそれだけ言い残すと窓から出ていった。いつのまにかその光景も日常的になり、ティアラも驚かなくなっていた。

シャーナは猫の姿になった。ベッドの上で丸くなって、楽しそうに洋服を選ぶティアラを観察していた。すると、クローゼットかティアラが顔を出し、シャーナを手招いた。

「なに?今からお昼寝しようとしていたんだけど……」

シャーナは、警戒しながらその場を動こうとしなかった。

「とりあえず早く来て!」

ティアラは半ば強引にシャーナをクローゼットの中に入れた。そこから洋服選びが始まり、あっという間にアランとの約束の時間になっていた。


 窓ガラスが二回ノックされる音がした。もちろんアランである。

「ティア、迎えに来たよ。」

アランは窓からティアラの部屋に入った。すると、赤いワンピースとエプロンを身につけたティアラがクローゼットから出てきた。

「アラン様!どうですか?似合いますか?」

ティアラはアランの前でスカートをひらひらさせた。

「うん!いつも通り似合っているよ。」

アランが優しく微笑むとティアラは満足そうに言った。

「赤ずきんをイメージしてみたの!いいでしょ?」

ティアラはとても上機嫌だった。

「あれ?シャーナは?」

アランが部屋の中を見渡すと、奥の方からシャーナがひょこっと気まずそうに顔を出した。恥ずかしそうにしているシャーナを不思議に思いながら見つめているとティアラがシャーナに近づいていった。

「ほら、おかしくないから大丈夫よ。出ておいでって!」

シャーナはティアラに背中を押されてアランの目の前に姿を現した。シャーナはいつもとは違うゴスロリっぽい黒いワンピース、頭には黒い魔女帽子を被っていた。アランは驚いた様子でシャーナに見ていた。何も言わないシャーナに変わって、ティアラがアランに話しかけた。

「アラン様、どうですか?シャーナも可愛いでしょ?」

「あ、うん、可愛いと思うよ。」

アランは手で口を覆いながら視線を逸らした。一方シャーナは恥ずかしそうに後ろを向いた。ティアラはその二人の反応を見て満足そうに微笑んでいた。


 三人は夜の街を歩いた。街中、仮装した人で溢れていて、なかなか不気味だった。また、路肩には出店が多く並び賑わっていた。

「ティア、迷子になるなよ?」

アランは人混みをかき分けながらも後ろを歩くティアとシャーナに声をかけた。

「はい。シャーナに掴まっているから大丈夫ですよ。」

ティアラはシャーナの服の裾を掴んでいた。屋台を回りながら、カボチャの形のコロッケを買った。

「ここの屋台は結構、話題になっているんだ。お味はどうだい?」

アランがティアラに尋ねた。

「出来たては美味しいわね!」

ティアラは嬉しそうにコロッケを口いっぱいに頬張っていた。隣に腰掛けていたシャーナはホットミルクをゆっくり冷ましながら飲んでいた。

「喜んでもらえてよかったよ。次はどこに行こうか?」

「アラン様!あの鉄砲は何?」

いきなりティアラは一つの屋台を指指した。

「あれは射的だよ。行ってみる?」

ティアラは大きく頷いた。三人は射的の屋台に向かった。目の前には様々な景品が並んでいた。アランはお金を払い、銃を構えながらティアラに説明した。

「ここに玉を詰めて、レバーを引っ張る。あとは景品を狙うだけ。」

ティアラはドキドキしながらアランと景品を交互に見つめていた。

『パン!』

その玉は惜しくも景品の乗っている板に当たった。

「……まぁ、こんな感じ?」

アランが誤魔化すと、シャーナが咄嗟に呟いた。

「景品を外すなんて、かっこ悪いわね。」

「う、うるさいなぁ。僕はこーゆーのあまり得意じゃないの!」

ティアラは、二人の様子を見て笑っていた。

「やり方は分かったわ。景品に当てればいいのね!」

ティアラはアランの見よう見まねで玉を入れて銃を構えた。すると、アランはティアラに覆いかぶさるように自分の手を添えた。

「ちょっと違うなぁ。こうだよ。ここを固定して。」

(アラン様、近いです……!)

ティアラは内心ドキドキしながら景品を狙って玉を撃った。

『パン!』

しかし玉は惜しくも景品の後ろの壁に当たった。ティアラは少し恥ずかしそうにしていた。アランはそんなティアラの様子に気付かず、悔しそうにしていた。

「やっぱり射的は難しいな。ティア、やり方は分かった?おーい、ティア?」

ボーッとしているティアラの目の前で手を振った。

「あっ、は、はい!」

「もう一回、教えた方がいい?」

アランは心配そうにティアラに尋ねた。

「いや、大丈夫です。構え方は分かりましたから!」

ティアラは、目を逸らしながら慌てた様子で玉を入れた。するとシャーナがアランをからかうように言った。

「アランと一緒にやってたらいつまで経っても景品に当たらないわよ。寧ろ、ティアラの方が上手いんじゃないの?」

「うわー、ひどいなぁ。というより、まだホットミルク飲んでるの?飲むの遅くない?」

「し、しょうがないでしょ。熱いのよ!」

シャーナはホットミルクを両手で持ちそっぽを向いた。ティアラはゆっくりと銃を構え景品を狙った。しかし、惜しくも景品には当たらなった。残る玉はあと一つになった。ティアラは、景品をよく狙った。

『パン!』

しかし、惜しくも景品には当たらなかった。ティアラがガッカリしていると、狙っていた景品に向かって後ろから玉が飛んできた。その玉は見事景品に当たった。振り向くとそこにはよく知る顔が立っていた。

「お嬢様、こんなところで何をしているのですか?」

その玉を撃ったカロットが射的の銃を肩に担ぎながら立っていた。ティアラがしまったと驚いていると、カロットの後ろからアランが顔を出した。

「あらあら、カロットさんじゃないですか!射的も出来るなんて流石ですね。」

カロットは景品を受け取り、アランに投げた。

「それはどうも。それで君はお嬢様となんでこんなところにいるのか説明してもらおうか。理由によっては牢屋だぞ。」

カロットはアランから視線を逸らさずに鋭い眼差しで睨みつけていた。アランは薄笑いを浮かべながら申し訳なさそうに言った。

「カロットさん、今日のところは見逃してくれませんかねぇ……。というより、カロットさんこそなぜこんなところに?」

「君みたいな奴を捕まえるためだよ。見逃すことは出来ないね。何しろこれか仕事ですので。」

アランはティアラの近くにいるシャーナと目が合った。

「じゃあ僕と賭けをして勝ったら……。」

「そんなものはやらない。早くお城に戻りなさい。」

カロットが一歩アランに近づいた。アランはカバンにゆっくりと手をかけ、丸いものを掴みカロットに投げようとした。その瞬間、カロットはそれを避けようと身体をひねった。しかし、何も起きなかった。おかしいと思ったカロットはゆっくりと目を開けた。するといつの間にか目の前のアランがいなくなっていた。また、辺りにいたティアラも一緒に消えていた。

「また、逃したか……。」

カロットは顔を曇らせた。

ティアラはシャーナに手を引かれ人混みをかき分け走っていた。そして、すばやく路地に入った。二人は息を上げながら膝に手をついた。

「あれ、アラン様は?」

ティアラは後ろを振り返った。しかし、アランの姿は無かった。するとシャーナが言った。

「大丈夫よ。すぐ来るわよ。だって、アランの指示でここに逃げてきたんだから。」

するとティアラは、驚きながら言った。

「アラン様とシャーナは言葉を交わさなくても意思の疎通ができるんですね。なんかすごいです。」

「そんなことないわよ。」

シャーナは少し照れながら返答した。すると、どこからかアランの声が聞こえてきた。空を見上げると屋根の上にアランが立っていた。アランはそのまま二人の目の前に飛び降り、懐中時計で時間を確認した。

「とりあえず上手く撒いたみたい。そろそろ花火の見えるところに移動しますかね。」

三人は高台に移動した。柵に寄りかかりながら花火が打ち上がるのを待っていた。

「そういえば、はいこれ。さっきカロットさん撒いてるときに買ってきた豆と飲み物。」

アランはカバンから少しぐしゃぐになった豆と飲み物を出した。ティアラとシャーナはそれを受け取った。ちょうどその時、花火が始まった。様々な大きさ、色、音の花火はとても芸術的だった。三人はしばらく花火に引き込まれていた。ティアラは隣で花火を見ているアランの横顔を見た。すると、少しだけ寂しそうに見えた。アランはティアラの視線に気が付き振り向いた。

「なんだい?ティア?」

「あっいえ。何でもないです。」

ティアラはアランと目が合い、少し恥ずかしそうにしていた。そして、誤魔化すように言った。

「そういえば、アラン様はなんでハロウィンがあまり好きじゃないんですか?シャーナが最初に言っていたちょっとしたトラウマがあるとか……。」

アランは、苦笑していた。すると、アランの隣りにいたシャーナが口を開いた。

「アランは毎回、祭りとかの日に限って何か巻き込まれるのよ。」

「どういうことですか?」

「いざこざに巻き込まれやすい体質とか。あと、小さい頃、ハロウィンの祭で迷子になったんだっけ?」

「まぁね。……っというより迷子の話は今しなくていいから!」

アランは恥ずかしそうに突っ込んだ。ティアラはその話を聞き、笑っていた。

「迷子は、可愛いトラウマですね。」

「笑わないでよ!結構、大変だったんだからね。まぁ、今回は特に何も起こらなくてよかったよ。ある一件を除いてね。」

言い終わると同時に、アランは後ろから剣を突き付けられた。

「動くな。お楽しみのところ、すまぬがこれが私の仕事だからね。」

いつのまにか剣をアランの首に突きつけたカロットが立っていた。

「アラン様!」

隣にいたティアラはカロットを見て声を荒げた。アランは剣を突き付けられながらカロットと一緒にゆっくり二人から距離をとった。シャーナは表情を変え、カロットを睨みつけた。隙があれば今にも攻撃しようとしているようだった。すると、それに気がついたアランが言った。

「シャーナ、絶対に手を出しちゃだめだ。」

アランは落ち着いた様子だった。シャーナは不安そうにアランを見ていた。しばらくしてゆっくりと戦闘態勢を解いた。アランはティアラを見ながら言った。

「ティアは城に帰りなさい。ここから、近いから大丈夫だよね。送ってあげられなくてごめんね。」

「でも、アラン様が……?」

ティアラは、不安そうにアランを見つめていた。

「大丈夫。カロットさんは僕に危害を加える気はないから。」

アランはティアラを安心させるため優しく微笑んで見せた。ティアラはまだ少し不安そうにしていたがゆっくり城に向かってかけていった。それを見送るとカロットはアランを解放した。シャーナはすぐにアランに近づいていった。

「よく、私がついてきていることに気がついたな。それなのになぜ、逃げなかった?君なら、私を撒くことなんて簡単にできただろう。」

カロットは、不思議そうに尋ねた。するとアランは楽しそうに軽口を叩いた。

「これ以上、カロットさんの仕事の邪魔をしちゃいけないと思いましてね。」

「それで借りを作ったつもりか。ふっ、笑わせるな。」

カロットも笑みを浮かべていた。そして、表情を変えて重みのあるトーンで言った。

「あんまり、お嬢様を危険な場所に連れて行かないでくれよ。」

カロットはそれだけ言い残すとゆっくりと去っていった。アランはカロットの姿が見えなくなるまでしばらく去っていった方向を見つめていた。


 二人と別れ、ティアラはこっそり城に戻った。内心、アランのことが心配でその表情は曇っていた。着替えようと服を脱ぎかけた瞬間、ふとポケットに何か入っていることに気が付いた。取り出すと、それは小さなカボチャだった。ゆっくりとポケットから出すと光を放ち宙にメッセージが浮かんできた。

『今日は楽しかったよ。誘ってくれてありがとう。また行こうね。』

ティアラは、そのアランらしいちょっとしたサプライズに小さく笑った。ふと窓の外を見ると夜空には綺麗な月が浮かんでいた。ティアラは祭りの余韻に浸りながらしばらく小さなカボチャを握りしめていた。

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