おはよう
後編です ご期待下さい
捏造設定があります ご注意下さい
物語は完結するけれど、解説編するかもしれません。改稿だけで済むといいなあ
「ごめんな、アリス」
額にそっとキスをして、人形のように眠るアリスを毛布にくるみ、月光の中に横たえる。私は、寝ぼけた頭をフルに回して情報をまとめあげる。机の上に置かれた本を見て、ここにはいない旧知の友人に感謝をした。
「ありがとうな、香霖。遺言なんて守らせて」
アリスが綴りかけた日記帳の上では、几帳面な字がうぞうぞとミミズのようにのたくっている。
「そして、恨むぜ魅魔様」
“それら”を乱暴に掴むと、おもむろに口にねじ込んで噛み潰した。すこぶる不味いが、弟子時代に重宝したお宝だ。これで短時間で勉強ができる。
「いらっしゃい。洋服ならキミの特等席の中だよ」
誰も返事をしない。当然、その物置のような雑多な空間には誰一人として人は居ないからだ。居るのは一人、半妖の森近霖之助だけだった。ドアが蹴破られ、大きな音をたてながら店内をめちゃくちゃに転げ回り、店内をめちゃくちゃに破壊する。そこに、帽子姿の魔理沙が飛び込んできた。
「いろいろすまないな香霖。服はみんなキノコにやっちまってて切らしてたんだ」
「貸し倉庫の代金もつけておくよ。お帰り、魔理沙。裏はタダで開けておくから、さっさと着替えておいで」
乱雑にカウンター横の壺から魔女装束を引きずり出して、「なんだよ、美少女の裸だぞ。逆にお金を払って貰おうか」とのたまう魔理沙。
「そんなにお金が欲しいなら服を着なければ良いじゃないか。倉庫の代金も踏み倒せて一石二鳥だ」
「踏み倒して欲しいのか?変態香霖」
「そういう意味ではなくてだな······」
ふと、ならばどういう意味だ?と自分でも考え込んでしまった。その隙に、魔理沙はイーッとしながら着替えに行った。
「······しまったな、自分で首をくくってしまったか。見物料を払っても払わなくても詰みじゃないか」
そんな両極端な話ではないのだが。霖之助は少し考えて、机の下からお金を取り出しポチ袋に入れた。
お誕生日おめでとうと書かれた、ちょっとくたびれた紙袋だ。霖之助は、少し得意気に笑った。
「······魔理沙、アンタ!」
「待て待て、普通の魔理沙さんだぜ!霊夢!」
ついでで博麗神社に寄ったら、顔色を変えた霊夢にしばかれそうになった。大分背も胸も育ってて、全くうらやましい限りだぜ。私とは10数年も歳が離れちまったからな。いや、死ぬ前なら私もあのくらい······
「······どういう、ことよ」
「説明は後だ。死んだら、はもう使えないし、じゃあ、死相が見えたら返すってことでよろしくなっ!」
「あっ!······行っちゃった」
すまん霊夢。とにかく時間がないんだ。
博麗神社のさらに先、半分山に隠れていてもなおピカピカ輝く満月の下に、外に向かって下る草原の、その真ん中に、居た。長い緑の髪の毛が、さらりと風に靡く。
「やっぱり、今日は魔が満ちる日だったか。魅魔様」
アリスが大きな魔法を使う時は、決まって星辰から揃える。分かりやすくて、几帳面だ。やっぱり。
「久しぶりだね······元気にしてたかい?」
草原を撫でる風のような穏やかで懐かしい声が、そう語りだす。
「おかげさまでね。殺しても死なないぐらいには元気してるよ」
「そうらしいね。それで?わざわざ消える前に会いに来た目的はなんだい?魔理沙。アリスを利用したことに文句を言いに来ただけじゃないんだろう?」
「もちろん山一つ文句はあるが、そいつはあと10年待ってやるよ。実は────」
「ん······上海、もう朝?」
ボンゴレビアンコのアサリのようにくっついた瞼を緩やかにあける。涙で潤んだ世界に、涙で潤んだ目が映る。
「··················魔理沙」
「ごめんな、アリス」
そっと私を抱き締める魔理沙は、見た目よりもずいぶん軽かった。全盛期よりも少し幼くなったからだけじゃなく。
「······わかってるから、謝らないでよ······」
私が目を覚ましたから。
「ありがとうな。ようやく気がついたんだよ。アリス。私が間違ってた事に。」
「······」
髪から生気が抜けて、水気がなくなりパサパサとひび割れてきた。乾いた唇で、言葉を紡ぐ。
「私の研究書にさ、血液って書いてあっただろ?材料のところ。」
「······ええ。」
カラスの目玉のように赤黒い宝石飾りが、地面に落ちて砕けた。
「あれな、違うんだよ。本当に必要なのは【私の血液】だったんだ。他人で試したデータが無かったから──」
「······だから?」
大きなサファイアのピアスが、歪な割れ方をする。破片が耳を裂いたが、垂れるものはなかった。あと、少ししかない。
「えーっとな、魂の目印として血縁者の、できるなら本人のがいいが──情報を使うんだ。アリスは、あのとき自分の血を使ったろ?」
回りの、灰色の透き通ったガラスのような置物が、役目を終えてひしゃげて爆ぜる。
「······ええ。そうよ。魔女の血ほど魔法に関わるものはそうそう無いもの。外道外法ほど魔力量が必要になるわ。あの日を選んだのも、そのためよ。」
「──そうか。本当にそうか?」
「······何が、言いたいのかしら?」
「あのアリスが、そんなことにも気がつけないとは思えない、と言うことだ」
「························」
窓から吹き込む風が、乾いた部屋の空気を持ち去った。
「······私の研究があんなにかけても完成しなかったのは、死んでなかったからだぜ、母さん」
私のほっぺたに触れる魔理沙の手は、手袋越しにも冷たさを感じさせた。
「······なんで?」
「·············私が、天才だからだぜ」
目にひびが入る。
「光の魔法が使えるのも、命の魔法が使えるのも、アリスの、親の影響だって考えたら、辻褄が合う。証明は、今できた。」
「············」
「だって、魔王様の娘の『魔法使い』だぜ?魔法は遺伝するしな。違うのか?」
耳に亀裂が入り、ぼそぼそになって割れ剥がれる。
「それだけじゃ······だって、貴女より年下よ?私は。魔界の時は身長だって······」
「お前が、貸してくれなかった、唯一の本にな、あったんだよ。親の、胎内に戻る転生術。お前の髪の毛の、一本でもないかって探した時に、思い出して見つけた。でも、気づかせる、つもりだったんだろ?······開くための鍵が、水の魔法だった」
息が、だんだん切れ切れになっている。普段の、朝を告げる小鳥の声のような声は最早、枯れ草を踏み分ける音みたいだった。
「······ええ」
「一番の、得意魔法なんだぜ?陰で水な魔法はな。だからいつまでも、肌がピチピチってな。でも、天才魔理沙様の限界のようだ」
肌が割れる。気味の悪い音と共に縦に大きな亀裂が走り、中身の砂が吹き出す。
「魔理沙!······また甦らせて······!」
「無理だよ。私の命の魔法が求めるものは水魔法の力そのものだ。貪欲に全ての水をかき集めるから、この魔法を使った時点で水魔法はもう使えなくなる。それでも足りずに食いつくしちゃうから、乾いて死ぬんだけどな」
「なら······!でも······!」
魔理沙から流れてきた水が、頬を伝って流れ出る。
「······それにな、忘れたか?アリス。私は天才だ。お前の実験結果を、魅魔様がとっておいてくれた。へへへ、なんのためにお肌ピチピチ魔法を磨いたと思う?」
がくり、膝から崩れ落ちる魔理沙。ついに、と思った。でも、魔理沙は顔をあげた。
「······!まさか、そんな、」
目一杯、してやったりと不敵に笑う。
「その通り、だ。いっぱい水魔法かけて、部屋を水浸しにして、ポーション飲んで、魔力底上げするリングを耳が千切れるまでくっつけて、精霊いっぱい捕まえて、妖精と契約して。
そしたらなんとか、生きてられるみたいだ。必死に計算したんだ。でも、思ったよりひどい。痛い。枯れてなければ、涙まで出てるだろうな。
介護してくれよ、母さん」
一緒に異変に行ったときのような屈託のない笑顔が咲いた。
「······図々しいわね。本当に。」
いつからだったか。
「親孝行しただろー」
多分、人に恋した時から、だろう。
「先に死ぬなんて親不孝の頂点よ!バカ!」
おはよう、アリス。おやすみ、アリス。




