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俺のロッカーは仏壇じゃねぇ!パンツはなんで毎日変えるんだよ線香のつもりかよ!

「こうなるとは今朝の俺には想像もつかなかったな。」


 あのまま彼女たちのラブ・ストーリーが展開されると良いな。そう思いながらも俺は自らの仏壇を開き昇天の道を探ることにした。


「さぁさぁさっき短い間に確認しただけでもすごいものが入っていたが……改めて確認しただけでもこれは酷いなぁ」


 ロッカーに入っていたカラー雑誌は全てエロ本だった。その冊数は太平が死後の日数とほぼ一致していた。あとは手紙と、ホールと、そして、パンツだ。手紙も同じ枚数入っていた。


 俺は手紙のうち、一番最初にここに供されたと思われるをものを読んでみた。


『本所へ

 

 もう死んじゃってるから、なんて言ったらわかんないけどね。お前は私を嫌ってるかもしれない。でもあれは本心じゃなかったの、照れ隠しっていうか。そう、だからその私、あなたに償いをすることにしようと思うの。これから毎日お前が好きそうなもの、入れておいてあげる。私、お前のこと考えてるとずっと頭から離れなくなって、今もそうだから。私はお前のこと忘れないであげるから。お前に私が渡したいものも入れるようにする。だから受け取って。


 今井椿』


 最初の手紙以外にも目を通したが、段々俺に対する口調が馴れ馴れしくなっていった。妄想も激しくなっていったようで、いつの間にか俺が彼女に惚れていたことにされてしまっている。そして、例の布は毎日その日のものを入れていたこともわかった。


「俺のロッカーは仏壇じゃねぇ!!!!パンツはなんで毎日変えるんだよ線香のつもりかよ!!!!!」


「というか、そもそもお前俺が好きなもの絶対知らないだろうが。俺が好きそうなものはエロ本とパンツとあのホール以外に無いのか……」


 ただ、少なくとも椿の手紙を見たところによると、本気で俺のことが好きだったようだ。だからといって俺のあいつに対する印象が変わったりすることは多分無いが。


 椿の知りたくもない心情を知ることになったところで、ふと俺はあることを思い出した――。














 ――その日の夜。


 俺はある真相を確かめるために真っ暗な図書館まで移動してきたのだった。もし生きていれば不法侵入になる時間帯だが、人がいるところで本なんて持ち出して読めるはずもないため、真夜中に侵入を図った。この図書館の本棚が椿との忌まわしき委員会活動を呼び起こさせる。


 俺が思い出したのは、とあるテレビ番組で霊能者が語っていたことだった。


『現世でその人に異常なまでに念を送っている人がいると、成仏の妨げになる』


 いくつかの文献を当たってみた。図書館は暗くて本も読みづらいかと思いきや、死んでいるこの身には関係ないらしく普通に読める。

 同様の内容が複数の文献で見つかった。どうやら生きている人が魂を引き付け、天に昇れないようにすることもあるらしい。


「まあ生霊なんてのもあるわけだからな」


 そして、これは同時に俺の置かれている現状の問題点を決定的にするものだった。


「結局あいつがネックになってるわけだ」


 そう、椿がおそらく俺の成仏を妨げているのだ。


 俺は彼女のことをそんなに気に入っていたわけではない。今もそうだ。というかむしろ嫌悪しているのである。

 あいつが俺のことを好きだからってそんなのあいつの勝手だ。なら俺はあいつに俺自身のことを諦めて、いや綺麗さっぱり忘れてもらおう。その方があいつのためでもあるんだ。


 俺は決心をした。椿の恋を解消することを。














――次の日。


 俺はまた学校に来た。死んでから何回目だっけ?


 さて、昨日のことがあって俺の置かれている状況は一変した。

 斎場は俺のことを認識していて、椿は死んだ俺に強く執着している。死んではいるもののこれによって俺は現世と切り離された存在ではなくなってしまった。


 ところで椿、生きているうちにパンツを恵んでくれたら印象も変わっただろうな。うん、変わったというレベルではないだろう。なにせ、見た目で嫌っていたわけでは決して無いんだからな。


 変態パンツ提供女のことを考えていたら、斎場が登校してきた。

 そして、こっちに何やらアイコンタクトで合図を送ってくる。死んでなければ青春の良き思い出となっていたであろう。


 冗談はさておき、斎場の後を誰も居ない廊下まで付いて行った。


 まず、彼女の方から口を開いた。


「あなたのせいで昨日は大変だったんだから。今井さん、家まで付いてきた。流石に家には入れなかったけど。」


 惜しいな。


「個人的には是非ともお二人で――」


 おっと俺としたことがつい声に出してしまったー。


「――その、解決してほしかったんだけど。結局あいつは納得したの?」


 取り敢えず会話を続けられてよかった。

 斎場は淡々と答える。


「それはわかんない。家に入ったらそのあと確認できなかったし」


 それは残念だ。とても残念だ。


「椿と会ってみない?というか、会って話をつけてほしいんだけど」


 流石に俺は昨日のことを全部話す気にはなれなかったので、手紙のことと、彼女が俺のことを本気で好きだったと思われることだけを話した。


「あの目はガチだったから。でもまさか私もそんなに今井さんと仲良かったわけじゃないけど、知らなかったなぁ。まあ取り敢えず昨日のままだと私も誤解されていると思うから話はしても良い。」


 俺らは移動して、人の行き交う朝の廊下を二人、傍から見たら一人で待っていた。


 そんなに経たずして、あの女がやってきた。

 そして、俊足でも履いてるのかと思うような、目にも留まらぬ速さで、斎場の前に来る。


 斎場が引く間もなく、彼女は声を出した。


「逃げないで。」


 手を押さえつけて、若干早口で、必死に、でも少しねっとりとした発音で続けた。


「あなたを拘束すれば太平クンが現れたときいつでも話せる。話せるんでしょ?ねぇ???」


 一晩置いて頭が冷えて少しはまともな思考になったのか、昨日より現状に則した発言になっている。もっとも彼女は俺がどんなふうにこの世を彷徨っているか知らないわけだが。


 斎場は俺が最初に協力を求めたときからは想像もできないような押され気味の格好でこう言った。


「本所君が私に憑依していないっていうのは納得したの?」


 椿は返事をせずに首を縦にコクリと振った。ここだけ見ればただの可愛い女子なんだけどな。

 俺はちょっと斎場に助言しようとしたが、タッチの差で斎場が先に喋った。


「もともとあなたのことが心配だったわけだからあなたに協力するのは良いけど……」


 こんな女に協力してくれるなんて斎場イケメンかよ。てぇてぇなぁ。


「そう!本当!!本所クンにじゃあ愛してるって伝えておいて///」


 今度は若干恥ずかしがりながら、またしても、椿はピューっと姿を消して行ってしまった。


「今の彼女じゃ話にならないわ」


 斎場が嘆く。

 そんなのお構いなしに俺はこう言った。


「取り敢えず嫌いだって伝えてよ――」


「そんなのだめに決まってるでしょ。もし、それを言って私が嘘つき扱いされたらどうするの? 彼女、あなたが自分に惚れてることにしてるんだよ?」


 若干ヒステリック気味に切り返す斎場。

 確かに、今の彼女じゃ斎場の考える以上に何をするか分からないな。


「遠回しに嫌いだって伝えることは出来ない?」


 すかさず言葉を返す斎場。


「そもそも嫌いだって伝えたところで相手が自分の都合通りに簡単に諦めてくれればいいけどそうならないことだってあるでしょ。いい? 本所君は死んでるから何もされないかもしれないけど、私は生きててその後があるんだから。現に家まで付け回されたわけだし」


 続けて恋心について冷静に分析できる斎場が俺にヒントをくれた。


「まあ有効な策としては、諦めてもらうというより別の人を好きになってもらったほうが良いかもね」


 これを聞いて俺の中で少しアイデアが浮かんだ。

 斎場は続けてこういった。


「私も流石にあの子に付け回されてたんじゃ身が持たないから、昨日は断ったけど、私、やっぱりあなたに協力しようと思う。あなたみたいなのが彷徨ってるとみんなかわいそうだし」


 最後のは余計な一言なんだが。でも、協力してくれるという言質(げんち)を取ることには成功した。じゃあ俺も記念に余計な一言を言わせてもらおう。


「ありがとう。じゃあ和解の証として斎場さんのことはこれから瑞江って呼ぶことにするから」


 は?と言いかけたが、彼女は呆れた様子で教室に入っていった。


 授業開始のチャイムが鳴り響く――。

展開にスピード感が欲しい……まだ足りない……

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