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俺の兄、業平

 学校の授業がすべて終わったので帰宅した。と言っても死んでるから別に全部出席しなくても良かったんだけど。


 玄関には大学院生である兄の靴があったが、いつもどおりお部屋に引きこもっていらっしゃる。俺も大概だったけど。


 俺には業平(なりひら)という兄がいる。兄は大学院生で、情報工学、コンピューターサイエンスの学科に通っている。見た目は肩幅が広く大きな体でいかにも堅物という感じだ。実際掛けているかどうかは別として、サングラスを掛けて自衛隊とかで指揮していそうなイメージである。大学は成績トップで卒業したらしい。


 でも正直素性は家族である俺ですらよくわからない兄だった。現代社会で家族の絆なんてものは幻想だ。


 だが、いくら絆が薄いとはいえ、俺が死んでしまった以上、うちには兄しか子供は居ないのである。せめて、孫の顔を親に見せてほしい。そのためのサポートをするのがせめてもの自分にできる家族への恩返しだと思うのだ。


 というわけで、そのためにも今日はこれから兄を監視しようと思う。


 兄の部屋に行くと、画面に向かってなにかやっている。どうやら、ずっとネットゲームをやっている感じだ。まあ生前よほどのことがない限り兄の部屋になんか入らなかったので、ほぼ初めて見る姿だが、兄弟揃ってこの辺りは似ている。しかもかなりのめり込んでいる様子。正直俺なんて全然歯が立たないレベルで。


 兄のプレイ画面を見てたら大変予想外なことに気づいた。なんとその姿に見合わず、兄はゲームの中では女の子だったのだ。正直かわいいつーかエロい。これは大変衝撃だ。だが、もっと衝撃的なのは兄が完全に女の子をゲーム中で演じていることである。口調まで完全に女の子じゃないか。常人の成せる技ではない、研ぎ澄まされた乙女の言霊だ。


「すごい……」


 これ俺が画面の向こう側だったら完全に良い気になってるわ。最近はVRでチャットするアプリとかで簡単に女の子になれる、いわば大バ美肉時代になったとはいえ、見た目からは全然想像がつかない兄の姿を知ってしまった。


 さらに監視を続けていたらもっと衝撃的な事実に気づいてしまった。なんとゲーム上に彼氏がいるではないか……。もはやネカマの域を超えた何か。本当にこれは現実か。まさにバーチャルリアリティ。。


 全然女っ気の無いと思っていた兄には恋人が居て、しかも男。


 衝撃が拭えないが、さてどんなやつか気になるのが兄弟心。



 ここで俺の特殊能力について紹介しよう。俺がこの幽霊状態になってゲームをやりだしてから妙な事に気づいた。それは、対戦相手のことを知ろうとすると、ネットを介した相手の姿が見れてしまうのだ。見れてしまうというか、相手のところに行って色々と探ることもできる、ある意味瞬間移動能力。でも正直使い所がない能力だった。だがしかし、今この瞬間はまさにこれを使わなくてはならない絶好の機会だろう。俺の特殊能力はネットを介した相手の姿を透視する能力! Let's go to the other side of the net!






 ネットの向こう側の相手は結構なイケメンだった。名前は財布の中身から北沢浩太(きたざわこうた)というらしい。兄の大学の学生証だ。部屋を見渡すと兄の演じる女の子のオリジナルと思われるポスターなどがいくつも置いてあった。こいつもなかなか重症だ。


 ここで、兄とこいつとの関係がいつから続いているのかも気になったので調べてみることにした。このゲーム内の会話はゲームユーザーなら検索することができ、俺もこのゲームのユーザーだった。俺はこいつのゲームのIDを確認し、兄のIDにメンションをどれだけ投げているかを念入りに遡ってみた。すると、5年も前から付き合いがあることが判明した。俺はあの世に生を受けて初めて言葉を失った。

「愛が深い」


 だがしかし、俺には一つ気がかりなことがあった。兄は同じIDで国内大人気短文投稿SNSツイトドンも使っていた。しかし、そのSNS上では全く男を隠す気がゼロなのである。情報を専門にしていてこのネットリテラシーなのか、ということはさておき北沢は完全に俺の兄を女だと思い込んでいるらしい。。

 もし、仮に北沢がこのSNSを何かの拍子に見てしまったとしよう。彼はネット上とはいえ5年間も付き合っていた奴が男だと知ったらショックで病んでしまい、何かしでかすのではないだろうか。流石に考えすぎだとも思ったが俺の嫌な予感は拭えなかった。

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