主人公の記憶の片隅にあるもの
私はありふれた家庭の一人息子だった。
産まれた時に体重が少し重いのが気がかりだったらしいが、それ以外は平均的な子供だった。
働いて家族に恩返しするまでは真面目に生きようと勉学に励んだ。そのせいなのか友と呼べる人はおらず、周りの子供から煙たがれたが、私は些細な事と割り切って気にしなかった。
___ある人に出会うまでは。
その人は旅人だったが、やけに煌びやかな衣装で両手には黄金の指輪がギラついていた。何をしにこの街に来たのか分からなかったが、街の人との会話を盗み聞きした時に、聞いたことのない言葉が飛び交っていたのはよく覚えている。
そして、私の人生を変える一言をその人は置き手紙の如く言って消えていった。
「ここで満足か」
この言葉を理解するには幼過ぎる年齢だったが、ここでの日常生活では満たされない心に気付くのに時間はかからなかった。
___そう、私は強欲で傲慢なのだから。
知りたい事の為ならどんな事でもした。
欲しい物の為なら手段を選ばなかった。
やりたい事があるなら常識の否定をした。
この頃からだろうか、全ての物や事に対して『欲』が芽生えて、抑えられなくなる事があった。時には人の信頼を無下にもしていた。
そんなこんなで生まれ故郷に「異端」の烙印を押されて追放された。齢15の私には遅すぎる判断だな、と思うだけだった。
しかし、まだ私は現実を知らなかった。まるで籠の中の鳥のように。