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6話 逃走

レガウルは孤児だった。奇形児ではあったが、親に見捨てられていた訳では無い。なら何故か、答えは単純だ。自然界では事故死や捕食は日常茶飯事で起きており、珍しい事ではない。その為、レガウルは生まれてすぐに親を亡くした。まだ幼いレガウルはこのまま餓死する筈だった。しかしそうはならなかった。レガウルはマルチウルフの希少種で体長が大きく、餌取りには困らなかった。では何故今はトラコが飼育しているのか。



8年前、トラコとリシルが10歳だった頃。エルギンが病にかかり、2人は山に入った。人間にとってはそこまで重くない病気で、簡単に手に入る漢方を飲めばすぐに回復する病。だが狐族の村にはそんな物は無く、調達は出来ない。かと言って、その漢方を飲まなければ死ぬという病気でも無いためエルギン含め、狐族の者は気にしていなかった。しかしトラコとリシルは単なる親切心で村の外に出た。村の掟「男成人以外の者は長の許可無く村外への外出を禁ず」を破って。


「あった!あったよ!」


村から4km程離れた森の中、リシルが青い草を持ってトラコに走り寄る。


「これ、メルぺメルの青葉」


この葉っぱをすり潰すと漢方薬になり、街に卸すと意外と高値になったりする。


「これでお兄ちゃんの病気が治るね!トラコ帰ろ」

「う、うん」


この頃のトラコは気弱であり、今日もただリシルの後を着いてきただけである。なのでいつバレるか心配で、トラコは一刻も早く村に帰りたかった。

だが、しかしここは魔獣蔓延る森の奥。


「ガガァァァ」


二人の耳をつんざく獣の咆哮が森に轟く。その後数秒で1匹の巨大な狼が走って来た。


「きゃぁぁ」


狼をみてリシルが悲鳴をあげる。が、狼は横を通り抜けていった。しかしその勢いのまま木に衝突し、倒れ込む。どうやらリシルの悲鳴に気を取られたようだ。


「い、急いで逃げよう!」


トラコは恐怖を感じつつもリシルの手を取り走り出す。


「バルルルル」


だが二人の前に一匹の巨大な熊が立ちはだかる。先の狼はこの熊から逃げてきたようだ。


「ガガァァァ」


熊が咆哮する。森に響いていた咆哮と同じだ。


「ひっ、いっ」


リシルはあまりの恐怖に座り込み、頭を抱える。本来、捕食者を前にし逃げない場合はただ捕食されるのを待つだけだ。


「リ、リシルに手を出すなぁ!」


トラコが咄嗟にリシルの前に出て、叫ぶ。トラコの中には恐怖よりも好きな人を守りたいという気持ちが大きく出ていた。本来、本当に恐怖を感じた時は人に構っていられないが、トラコはリシルの為に行動できた。彼ら狐族は人族とは違う為なのかもしれないし、トラコが特別なのかもしれない。少なくとも転移前の幸平にはまず不可能な行いだ。


「ガガァァァ」


熊が再び咆哮をあげる。


「うっうう」


遂にリシルが泣き始めてしまった。それをトラコは目にする。するとトラコの目が赤く光り出す。


「リシル、下がってろ」


トラコの身体が震え始め、そして一瞬の間に巨大化。人型から巨大な、それも狐族でありながら狼に返信した。健康的な白い肌はどこにも見受けられず全身を漆黒の体毛が覆う。口、四肢に鋭利な牙や爪が生え見る者を威圧する。もうトラコの面影は無い。


「ウォォォン」


トラコが狼特有の咆哮をあげる。それに威圧され熊が一歩下がる。そこにここぞとばかりにトラコがタックルし熊を吹き飛ばす。


「ガルァァァ」


吹き飛ばされた熊は怒り狂いトラコに突進する。が、トラコがすかさず熊の喉に噛みつき、喰いちぎる。


「ガヒュー」


大量の鮮血を吹き出し熊が倒れ込む。その後熊は動かなくなった。そしてトラコはドサりと倒れ込み、人型に戻る。


「ト、トラコ?」


一連を見ていたリシルがトラコに呼び掛ける。


「トラコ!!」


リシルがトラコに駆け寄る。トラコは動かない。だが息はしているようでリシルは安心する。


「とりあえずこの場を動かなきゃ」


この場所に居続けると間違いなく危険だ。だが筋力の無いリシルにはトラコを運べない。

すると先程気絶していた狼が近寄ってきて、トラコを咥えて村の方角へと歩き出した。

狼は見ていた。自分と似た種族、トラコの奮戦する姿を。実際何故こんな事をしたのかをリシル、トラコ含め誰も知らないらしい。ただ、この狼を村に招き入れてその日から狼はレガウルと名付けられた。




後ろで戦う狼の姿を見てレガウルはその日の事を思い出した。大丈夫だ、トラコは強い。負ける筈が無い、とレガウルは自分に言い聞かせていた。事実、エルギンを一撃で倒した魔導師すらもトラコは喰いちぎっていた。だから己に言い聞かせる。大丈夫だ、と。それよりもその大切な人のトラコが最も愛した女性を今は自分が任せられている。ならば彼女を生き残らせる事を優先する。その思いがレガウルをつき動かしていた。

そして無事、村を抜けそして森を抜けた。かなりの距離を走り、もう平原へと出た。辺りは真っ暗で、月明かりだけがレガウルとリシルを照らす。


「...お兄ちゃん...トラコ...みんな」


泣いているリシルに寄り添う形で、レガウルは眠った。



数時間前、村ではトラコが捕まっていた。理由は単に体力切れだ。〈覚醒〉は身体への負担が激しい為に、トラコは10分程奮戦した後倒れ込んだ。それを盗賊に捕えられ、他の村人と共に確保されていた。殺されずにいるのは奴隷として売り飛ばす為だ。珍しい狐族は高く売れ、何より〈覚醒〉できる狐族は更に高価だ。


「頼む。リシル、レガウル。逃げきれていてくれ」


トラコはただそれだけを願っていた。



翌日。レガウルは自分だけをリシルの元に残し、残りの分身を狩りに出していた。自分とリシルが食べる分の食料探しだ。分身には食事が必要無い為、自分とリシルの分だけあればいい。

そして四日が経った。今日も自分の分身を狩りに出す。しばらくすると変化が起きた。自分と分身との繋がりが一体、また一体と減っていっているのだ。それは倒されている証拠。この近くに強敵がいる。レガウルは警戒していた。





場所は戻って幸平の持つ軍隊〈アサルトペンタグラム〉のコマンドベース内。総合司令室。


「皆知っている通り、我ら〈アサルトペンタグラム〉軍は非常に軍備が乏しい」


幸平は集まっているメンバーに呼び掛ける。今は格納庫、食堂、医務室の担当者も呼び軍総出のブリーフィングだ。


「その為、軍事力の増強は急務だ。これは仮定だが、僕のplayerlevelが上昇すれば兵士が増え、この世界の生物を屠るとMPが増えるようだ。よって今日よりしばらくの間基地周辺の脅威の排除、及び探索を任務とする。以上だ!」

「は!」


幸平が任務を指示するとメンバー一同が敬礼する。これより本格的に〈アサルトペンタグラム〉軍は活動を開始する。


「〈ブラックレイド〉とミライちゃんは僕と共に格納庫へ。それ以外は持ち場に戻るように」


幸平は〈ブラックレイド〉とミライを連れて格納庫へと向かう。

格納庫に到着すると、〈フォートレス〉と〈ブラックレイド〉の乗り物達が万全な状態で並べられていた。


「〈ブラックレイド〉集合!」

「は!」


幸平はある物を渡すために〈ブラックレイド〉を招集する。


「皆にこれを渡しておく。〈爆発・燃焼軽減カプセル〉と〈斬撃・貫通・打撃軽減カプセル〉。そして〈麻痺・毒・睡眠軽減カプセル〉だ」


一人一個。計7個、一人一人に手渡しする。〈爆発・燃焼軽減カプセル〉とは爆発や燃焼によるダメージを。〈斬撃・貫通・打撃軽減カプセル〉は斬撃や貫通や打撃によるダメージを。〈麻痺・毒・睡眠軽減カプセル〉は麻痺や毒や睡眠状態になる確率を四分の一にする消費アイテムだ。戦闘服にぶつけると任務の間中効果を発揮する。どんな敵が出るか分からない以上、保全は最大限に。本来〈軽減カプセル〉では無く〈無効化カプセル〉の方が良いのだが、何せ初期データなのでそんな便利な物はまだ解放されていない。なので今は〈軽減カプセル〉を使用する。人だけでなく、乗り物にも使えるため、乗り物や〈フォートレス〉にもぶつけていく。ちなみに一個各100MPとそこそこ高い。一応幸平の分も使っておく。費用は乗り物+〈フォートレス〉=5個、幸平+〈ブラックレイド〉=8個。×三種類の計39個。39個×100MP=3900MP。


「全員乗車」


幸平の掛け声と共に〈ブラックレイド〉メンバーは各車両に乗り込む。幸平もタンクモードの〈フォートレス〉へ搭乗する。


「これより任務を開始する」

兵器情報


拡散可変式小銃 ジキタリス〈装弾数40000〉〈威力(単発射撃時)180〉〈威力(拡散射撃時)450〉

弾丸を必要としない新世代の武器〈ABS-プライマル〉の派生武器。専用のバッテリーを使用する事で約4万発の弾を再装填無しで撃ち続ける事が出来る。この事も充分な利点だが、この武器はアサルトライフルから変形しショットガンにもなる。この技術はギガンテスから流用したものであり、派生型も複数ある。

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