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俺と彼女の正夫戦争〜ホモの友人とレズのライバル〜  作者: 鳥の角煮
生徒会選挙まで
13/17

俺らしさ

たまには真面目な話もするんです

 二年三組の教室は昨日と同じく、会議室になっていた。


 しかし、その会議は昨日とは比べ物にならないほど静かだった。というより、始まってすらいなかった。


「先輩来ませんね……。何かあったんですかね」


「…………」


 春咲がそう言っても、一ノ倉は何も喋らない。ただ、椅子に座り読書を続ける。


 窓から差し込む光が一ノ倉を幻想的に映す。けれど、それは寂しそうにも見えてしまった。


☆☆☆


「ただいま」


 自宅につくと母が夕飯の用意を始めていた。


「おかえり。今日は随分早いのね」


「家で勉強を進めたくて」


 もちろん嘘だ。


「そう。ご飯、八時でいい?」


「うん」


 適当に母に返事をして、自室に入った。


 鞄を肩からおろし、上着を脱ぐとそのままベッドへ倒れ、布団に顔を埋める。


「はあ」


 上門の言葉、敷町の言葉が脳裏に焼き付いて離れない。


 ーー私は私らしい戦い方で勝つわ。


 ーー折乃らしい、そんなことを見つければいいんだよ。


「らしさってなんだよ。俺のやってることはそんなに俺らしくないか」


 俺らしいこと。俺のしたいこと。


 俺はただ、前生徒会長の高浪先輩のように学校のイベントを……。


 俺は確かにマニフェストにそう書いた。


 『ーー去年初のイベントを今後も続けていく。例として、文化祭最終日の後夜祭など。ーー』


 しかし、こんなもの誰だって書いていることじゃないか。


 その上で、上門さんは己のやりたいことを公約に含めた。


 そうか。


 マニフェストは、皆のやってほしこと、皆にやってやるべきこと、だけを並べるお利口にするものなんかじゃない! 己の欲望をぶつけて、皆に理解してもらうものなんだ!


 俺の好きなこと、俺の趣味。


 それは……。


☆☆☆


 夕食をとった後は何も考えず、ただひたすらに、俺はポスターを作成していた。


「できた……!」


 気づけば朝日が上り、辺りは明るくなっていた。


 時計の短針は六を指す。


 これほどに何かに集中して、試行錯誤を繰り返し、時間を忘れたのはいつ以来だろう。


 欠伸をし、眠いと脳が言う。徹夜した後の気だるいこの感覚も、不思議と悪い気分ではなかった。


 これが成し遂げた、ということなんだろう。


 少し早いが、学校行く準備をしてしまおう。


☆☆☆


 いつもより早く教室に着くと既に一ノ倉さんがいた。


 俺より遅く来たことはなかったが、これほど早く来ていたとは。


 一ノ倉は折乃に気づくと口を開く。


「折乃君、昨日は何を……」


「一ノ倉さん、昨日はごめん!」


 頭を下げる。


「そこに、正座なさい。謝罪は、昨日何をしていたかを言ってからにしてもらえる?」


 相当お怒りのようだ。


 それもそうだ。無断欠席に加え、連絡もすべて絶っていたのだから。


「家に帰りました……」


 机に座り、足を組む一ノ倉。


「へえ、折乃君は私をアイドルにさせたいのかしら」


「それはそれで見てみたいかもしれない……じゃなくて!これ見てよ!」


 今朝、完成したポスターをコピーしたものだ。


「本当は家に帰って、そのまま勉強するつもりだったんだ。だけど、このままじゃいけないって、俺なりに『俺らしさ』を考えたんだ」


「それで、できたのがこれ?」


 ポスターを眺める一ノ倉。


 そのポスターには新しいマニフェストを書いた。


 『この学校の図書館を市一番の本揃えにする!』


 たぶん需要はないだろう。それでも俺は『俺らしさ』を貫こう。そう決めた。


「そう。どうかな?」


「ダメね」


「そ、そっか」


 素人なりに頑張ったんだけどなあ。


「けれど、とっても折乃君らしいわ」


 そう言って微笑む一ノ倉さんを見て、俺はどこかホッとした。


「だからって、許されるわけではないわ。後で春咲さんに謝りなさいよ。一番、心配していたのは彼女なんだから」


「わかった」


「ポスターは放課後、皆で考えましょ。審査は明日までだから、今日中に決めないと」


 ポスターは審査の通ったものしか貼れない決まりになっている。これも去年の生徒会長である高浪先輩の影響だ。


「そうだね。昨日の分まで頑張るよ!」


「その意気よ」


 まだ、負けたわけじゃない!勝つぞ、俺は!


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