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突然の転校生

初めて学園モノ書きました。よろしくお願いします!

 皆さんは百合というものをご存知であろうか。


 レズでもいい。レズビアンである。


 いや、漫画などで言うと正確には少し違うのだが。いわゆる、同性愛者の女性のことを指す言葉だ。


 いたって正常な感性を持っている男である俺は普段なら関わらず、そして、気にすることなど、まずないだろう。


 この言い方だとまるで同性愛者を否定しているみたいに聞こえてしまう人もいるだろうから、ここで否定しておこう。


 そんなことはどうでもいいのだ。


 ただ、俺が言いたいのは今、危機的状況になっているということだ。


 とりあえず落ち着こう。


 深呼吸だ。


 ことの発端は今朝にあったある出来事である。


 ここから全てが始まったんだ。


☆☆☆


 俺、折乃優人(おりのゆうと)は高校生である。


 一週間程前に三年に上がったばかり。


 あと一年でこの学校ともさようならである。


 そんな俺は去年、副会長として生徒会に所属した。


 理由は日常になにか変化を望んだものだった。


 そこにはある女性がいた。


 名前は一ノ倉美咲(いちのくらみさき)


 書記であった茶髪の彼女は可憐で美しく優しい、まさに俺には理想的で、もちろん思いを寄せることとなった。


 今年度は同じクラスだ。それに、席も隣。


 これ以上にないポジションなのだ。


 あと一年でどうにかお近づきになりたいものだ。


 そう考えいていた俺はあまりにも悠長だったのである。


☆☆☆


 一学期が始まり、一週間が過ぎようとしていた。


 まだ慣れない教室に入ると何か騒がしい。


 何事かと尋ねると転校生が来るというのだ。


 この時期に高三が転校というのも妙ではあるが、それなら当然だ。


 どんな人が来るのだろう。異性であるなら、可愛いまたはかっこいい人だったらいいなと期待を膨らませるのが普通だ。


 別に、彼氏彼女の関係になるわけでもないのに、そう考えてしまうのは仕方がない。


 しかし、俺は違う。


 俺は心に決めた想い人がいるのだ。転校生などどうでもいい。


 強いていえば、俺の日常を壊さない、優しい人であればなんでもいい。


 少し欲張りだろうか。


 朝のHRの始まりを知らせるチャイムの音が響く。


 先生と共に教室入ってくる女子のおかげで、チャイムなどで静かになるわけがなかった。


上門真弓(うえかどまゆ)です。よろしくお願いします」


 腰近くまで伸びる綺麗な黒髪。


 鮮血で染めたかのような紅い眼。


 ずっと日に当たってないのかと思えるほどに白い肌。


 挨拶と軽いお辞儀をするその転校生は思っていたより、ずっと目を奪われるものだった。


 意図も無く自然と温かな拍手が彼女を包み込む。


 その拍手には無意識に俺も参加していた。


☆☆☆

 

 休み時間はやはり転校生を囲み質問攻め。


 クラスの話題は彼女で持ちきりである。


 しかし、当の本人は嫌がる気配もなく笑顔のままである。


 こういう奴は大抵、心の底はドス黒いものだと勘ぐってしまうのはひねくれてる証拠だろう。


「上門さん、人気だね」


 話題を手に入れた俺はすかさず話しかける。もちろん一ノ倉さんにだ。


 話すことが無いと話しかけることができないわけではない。


 だが、話題で詰まるなんて、そんなつまらないことには決してなりたくない。


 ならば、この自分ルールというか、習慣はやはり正しいと思う。


「そうね。上門さん、とても可愛いものね」


 一ノ倉さんの方が可愛いよ。と言えたらどれだけいいか。自分の勇気のなさに嫌気が差す。


 けれど、そこまでキザを演じられる自信もない。


「でも、その、なんというか一ノ倉さんも……人気だと思うよ」


 これが俺の精一杯だった。


 しかし、これでは一ノ倉さんの何処か一部を好き好んでいる人がいるよう聞こえてしまうのではないか!?


「そう? ありがとう」


 この一握りの勇気を称えるように一ノ倉さんの栗色の瞳は優しく微笑むのだ。


 そんな心配も何処かに消えてしまう。


 この瞬間を永遠に得たい。


 傲慢だろうか。


 しかし、これが恋というものだ。


 そう自論を繰り広げていると、早くも一時間目の開始を告げるチャイムが鳴り始めていた。


☆☆☆


 授業中、その話題を一身に集める転校生に質問を投げる先生もいた。


 だが、これまた思っていた以上に彼女は優秀のようで、それもまた話題性を高めることになった。


 容姿端麗、頭脳明晰。


 まさに彼女にふさわしい言葉になっていた。


 ここまで完璧な人間もなかなかいないだろう。


 しかし、そんな彼女でも、一つ不可解な行動をする。



「なあ、一ノ倉って転校生の知り合いなのか?」


 席が一つ前の友人、敷町光(しきまちひかる)が授業中にもかかわらず俺に話しかける。


 全くに迷惑だ。


「何で」


 さっさと会話を終わらせてしまおう。


「だってほら、見ろよ」


 敷町が小さく指を指す。



 そう。一ノ倉さんをじっと見つめているのだ。


 だが、当の一ノ倉さんは一切気づくことはなかった。


 いや、気づいていても、無視しているだけなのかもしれない。


 実に、一方通行という感じだ。


「かもな」


 曖昧な返答をする。


 仕方がない。俺だって一ノ倉さんのことをあまり知らないのだ。


「なんだそりゃ。一ノ倉のことに詳しいんじゃないのか」


 つまらなそうに敷町はそう言った。


「詳しいわけないだろ。ただ雑談ぐらいしかしたことないんだから。さっさと前向け。怒られるぞ」


 今は火曜日の4時間目、数学だ。


 数学の担当教師は授業態度に関してかなり厳しい。


 古典担当の優しいおじいちゃんが全教科担当してくれたら天国なんだがなあ。


「まあまあ、いいじゃないか。バレねえよ」


 フラグが建つ音がした。


「おい、そこ! 授業中に喋るな!」


 教師が、折乃達が話しているのに気づき怒鳴る。


 フラグ回収の早いこと、早いこと。


「お前にフラグ建築家の称号を与えよう」


「うっせ」


 よくこんな感じで怒られる。


 まあ悪い奴じゃあない。


 そういえば、まだ上門さんは見つめているのだろうかと目をやると、彼女はこちらを見ていた。


 目が合って焦った俺は、慌てて目線を黒板の方へずらした。


☆☆☆


 いつもと違う今日は、あっという間に時間が過ぎ、気づいたら放課後になっていた。


「帰るかー」


 鞄を肩に掛けた敷町は既に帰る準備が終わっていた。


「図書室寄っていい?借りた本返さなきゃ」


 今回借りた本は最高だった。


 今までで最もインパクトのある刺激的な作品だった。これ以上の作品にまた出会えるだろうか。


「オーケー。お前、また変な本読んでんのか」


 俺の右手に持つ本を指差して言う。


「馬鹿にするな。『フランクフルトな夜』は最高傑作だぞ」


「はいはい。さっさと帰ろうぜ」


 いつも作品を語ろうとすると話を流す。


「じゃあ、一ノ倉さん。また明日」


 一ノ倉さんへの挨拶。これだけは絶対に欠かさない。


 唯一、俺が胸張って言える、自然に出来るコミュニケーションだからだ。


 挨拶こそが一番重要なコミュニケーションだ。


 これで人の印象も決まると言えるだろう。


「また明日ね。折乃君」


 この一言で今日の疲れがとれた気がする。


☆☆☆


 図書室に本を返し、下駄箱で靴を履き替える。


「あー、雨降ってんじゃん。さっきまで降ってなかったのに」


 敷町はそういうと、鞄を漁る。


「まじか」


 教室に確か置き傘があったはずだ。


 取りに行くか。


 走って帰って、今日借りた本を濡らすわけにもいかないしな。


「お、あったあった。どうだ、傘無いなら入れてあげるよ」


 折りたたみ傘を敷町は持っていたようだ。


「男と相合傘なんてしてたまるか。教室に傘取りに行ってくる」


 小走りで教室に向かった。


 そのとき、舌打ちが聞こえたのは気のせいだろう。



 教室のある3階に着く頃には、俺は少し息切れしていた。


 運動不足のようだ。


 仕方がない。高三ともなればどうしても、外出するより机に引っ付いて勉強する機会の方が多くなる。


 見ると、教室の開いたドアから廊下に光がこぼれている。


 まだ教室に誰かいるようだ。


 それにしても教室に鍵が掛かってなくてよかった。掛かっていたら、職員室に鍵を取りに行かなくてはならなくなる。


「あなたのためにここに来たの」


 上門さんの声だ。


「だから?」


 一ノ倉さんもいる……!


 やっぱり二人共知り合いだったんだな。


 趣味が悪いとは思うが、ちょっと聞き耳たててしまおうか、と悪魔が囁く。この場合天使はいないのだ。


 いや、むしろこっちが天使なのではないか?


 ちょっとぐらいなら……。


「わかるでしょう?あなたが好きなのよ。愛しているのよ。私と付き合いなさい。そのために、この学校に転校してきたんだから。こんなに綺麗で頭がいい私に断る理由なんて思いつかないでしょう」


 なん……だと……。


 上門さんは俗に言うレズだったのか……。


 同性愛者なんて想像上の人物だと思っていた。


 まあでも、一ノ倉さんは別にノーマルのはずだし、断るに決まってる。


 いや、それはただの願望なのでは?


 実際にここにアブノーマルがいるのだから、有り得なくはない。


 でも、俺は信じている。


 アブノーマルな一ノ倉さんなんて嫌だ!


「女の子も許容範囲だし、あなたは完璧で相手にするには十分だと思うわ」


 まあ、アブノーマルでも愛さえあれば関係ないよね☆


「じゃあ、なぜ、うんと言わないのかしら」


 少し苛立っているようだ。


 断わられるとは思いもしなかったんだろう。


「だって、自分に自信があって、はっきりした性格より……」


 一ノ倉さんは教室から少し出た所に隠れていた俺に言うのだ。


「自分に自信の無い、おどおどした折乃君の方が好みだもの。ね、折乃君」


 その一ノ倉さんの笑みを浮かべた表情はまさにドSな女王様のそれだった。


「あ、あははは……」

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