その2
放課後がメインになります。
3.そしてそれは突然に
あの後病院に行ったのだが、あの傷にも関わらず骨折や細菌の侵入などはなく、軽い打撲と擦り傷とのことだった(納得がいかないのだが)。新品の黒の学ランと黒のスラックスは穴が空いていたり血や泥で汚れていたりとしばらくは着れそうにないので、もう一つの制服を当分は着ることになる。
城内西高は冬服が男女それぞれ2種類ある珍しい高校である。男子は黒の学ランに黒のスラックスと緑のブレザーに薄茶色のスラックスで、女子は紺色に白リボンのセーラー服に紺色のジャンパースカートと緑のブレザーに薄茶色のタータンチェックのスカートである。
さて、今日からは熾烈な部活戦争が始まる。どこの学校・部活も新入部員を1人でも多く得るために、2・3年は精力的に俺ら1年に声をかける。文武両道がコンセプトの西高は部活に入ることを強く勧めており、加入率は94%と進学校にしては高めの数値であろう。
俺はというと、特にやりたいこともなく部活戦争で燃える先輩方とは対照的に教室で徒らに時間を過ごしていた。教室には俺と野辺山がいた。
「あれ、野辺山は部活見学に行かないのか?」
「俺は部活に入るつもりはないからね。」
「え?お前が部活に入らないだと?」
「あぁ。」
「中学時代の県中体連決勝で科学技術大学附属中に14対1で勝った中学の当時のエースは誰だったか。」
「あれはあれ、これはこれだよ。」
「まさかだとは思うが、西高のレベルが低いからとかいう理由じゃなかろうな?」
「そうじゃないよ、色々な事情があるんだ。そのうちそれについて話す機会もあるだろう。」
「へぇ〜」
とお互い話題が尽き10分ほど静寂が教室内を支配したのち、野辺山が、
「今日も用事があるから先帰る。じゃあな。」
と言い忘れ物がないかを確認して教室を出て行った。特に引き留める当てもなく俺は
「おぅ、じゃあな。」と返した。
野辺山と入れ替えるような形で下堂薗が教室に入った。横には西高の制服を着た小学生と思しき可愛らしい女の子がいた。身長は140cmに満たないくらいで、華奢な体型に典型的な童顔である。下手したら小2あたりで成長が止まっているのかもしれない。ここで断っておくが、俺にはロリコン趣味など皆無なのでご安心を。俺は、
「お前の横にいるのは妹か?」
と下堂薗に訊いた。
「何言ってんの?アンタこの子知らないの?西高の生徒会長よ。」
「へ?」
俺はそれを信じるのに苦労を要した。
「入学式で生徒代表の挨拶をしたあの子よ。」
そういえば、前に座っていたやつらがやたらとデカかったせいで見えなかったんだった。
すると、生徒会長と思しき人は、
「始めまして、2年4組の北御門陽奈です。つゆりちゃんのお友達です。」
と、まだ幼さが残る声で自己紹介した。しかし、言動がハキハキとしているあたりは生徒会長であっても何らおかしい事ではないような気もした。さらに2年4組は理系のトップが集まるクラスだから2年で結構成績がいいということになる。
「こちらこそ始めまして。1年5組の……」
「ゼンよ。」
と俺が自己紹介しているところに下堂薗が割り込んで言った。
「あの、先ほどは妹と言ってすみませんでした。」
「それはよく言われることなので別に大したことはありません。」
よく言われることなのかよ。とにかくどうやらお怒りではない様子だ。よかった、一安心。
「下堂薗、生徒会長さんを連れて何の用事だ?」
「これは話すと長くなるんだけどね、同好会を作ろうと思うの。」
「同好会⁉︎」
驚きすぎて声が若干裏返った。
「今ある部活じゃ駄目なのか?」
「ダメ。ダメダメよ。」
「なぜだ?社会研究部とか面白そうな部活あるだろ。」
「あんなのじゃ駄目。やりたいことができなさそう。」
下堂薗が言う『やりたいこと』の意味を言及したいところだが、それはおいおい訊くとして話を進める。
「どんな感じのを創るんだ?」
「……」
下堂薗は何か言いたげな様子だったが、そろそろ帰りたいと思った俺は次に進めた。相当後になって思ったことだが、ここを詳しく訊いておけばよかった。
「まぁいい。それで?」
「同好会設立には部員最低5人、顧問になれる教師最低1人、明確な活動場所を確保しなきゃならないの。」
「へぇ〜、そうなのか。」
「うん。それで、担任に顧問をしてくれないかと訊いたら相手にしてくれなかった。」
「そりゃ、安易に首を縦に振るほど教師も暇じゃないからな。」
「それだから、近くのトイレに連行したの。胸触らせたり、裸になってみたり、色っぽい声出したり。いろいろ手は尽くしたわ。」
結構エグいな、おい。
「何?お前はそれで佐々木(説明していなかったが俺ら1年5組の担任で、物理教師だ。)の理性を吹っ飛ばそうとしたわけか。まぁ言っても分かっているだろうが一応言っておく。そんなことで理性が吹っ飛んだら佐々木は教師じゃないな。」
「最終的には『いたぶり尽くして』と言ったけどダメだった。」
おい、そんなことも言ったのかよ。正直想像したくないが。……本当に想像してないぞ。本当だからな
「そりゃな〜、てか横にいる会長さん放ったらかしで喋るから、ほら、会長さん若干引いてるぞ。」
「ヒナちゃん大丈夫だよね〜?」
「う、うん。」
と、会長さんは無垢な感じで首を縦に振りながら言った。
嘘つけ!と突っ込みたいところだが、ここは煮干しを食べたつもりになって気持ちを落ち着かせた。そして、こいつは1年にも関わらず一応先輩ではある会長さんにヒナちゃんと呼んで、果たして何様のつもりでいるのであろうか。
「お前は割とその手をよく使う気がするが。」
「そう、勝算はあったの。最近の教師は生徒と一線を超えた関係を持つことが増えてるらしいのよ。それに、科技中(科学技術大学附属中の略)時代で30人以上の男を落としてきたからね。」
おいおい、男を何だと思っているんだ?実験用のマウスと勘違いしているんじゃなかろうな。
「それに、佐々木は結構毛深いから男性ホルモンが溢れてそうだから勝ち確だとは思ったんだけどね〜。上手くいかなかった。」
と下堂薗は笑いながら俺に言った。こうして見ると田舎県の美少女図鑑の表紙を飾っても何らおかしくはないが、喋るとこれが崩壊するのは残念極まりない。
「じゃあ、俺帰る。」
「あたしも。一緒に帰らない?ついでにヒナちゃんも。」
「私は生徒会の仕事が……」
「じゃあゼン、一緒に帰るわよ。」
さっき訊いてきて、まだうんともすんとも言ってないぞ。というか、さっきはわざわざ生徒会長さんを連れて話すようなことはあったのか、俺は知りたい。
その後自転車の俺と歩きの下堂薗と学校近くのテレビ局まで一緒に帰ったが、お互いほぼ無言で夕日をバックに橙色に輝く歩道を歩く青春的な場面を入学して1週間くらいで体験していたことにいささか驚きを感じていた。
そういえば、下堂薗も野辺山に似たようなエキセントリックなことを言っていたような……。確か天候を自由に操れるとかだったような……。そのとき脳みその中からトンカチで打たれたような頭痛がしたからな。きっと何かの聞き間違いだろう。
4.コードネームXEN1230
「……コードSDZ57、応答を願う。」
「はっ。」
「今日のXEN1230の行動記録は。」
「特にありません。」
「それは本当か?」
「ええ。」
「そうか。では、引き続きXEN1230の監視をするように。何度も言うがあいつ周辺には何億柱もの神がいる。とうとうホームにもアクセスできなくなった。神力が最近強くなりつつあるからより注意して監視をするように。間違っても神力では酔うな。」
「了解しました。」
「コードNVY414聞こえるか?」
「ええ。」
「今日のXEN1230の行動は。」
「特にありません。しかし、最近神力が上がってきています。そのせいで干渉ができません。ルーム15に最新の力場解除プログラムを組み込みましたが、全く効かなくなっています。」
「そうか。ここからでも神力の強さが感じ取れる。これはえらいことに……」
「ええ。おそらく。」
「引き続き監視を頼む。神力には気を付けろよ。」
「はっ。」
所々文章がおかしいですがそこは目を瞑って頂ければ幸いです。