その1
現実主義者のゼンはとある田舎に住む男子高校生である。現実主義者ゆえに、真と証明された物理法則を信じ高校入学時点で高校物理はあらかたマスターしたらしい。それに伴い、数学も高校範囲は一応理解できている。そんなゼンは…だったのである。
1.割とよくあるベタな冒頭(ですみません)
ピピピピピピピピピピピピ
ったく、うっせぇなぁ。まぁ目覚ましはうるさくないとただの時計か。ん、何時だ?6時か。その割に日が高いような気もするが…まぁいいや。あと1時間くらい寝ていよう。
「あんた遅刻するわよ!今日学校行かんとね?」
と母が。もう一度時計見ると、8時1分。デジタル時計紛らわしすぎるだろ!
遅刻を回避するには呑気に朝飯を食う暇など無い。入学2日目で遅刻とか勘弁してくれと心の中で叫びながら、過去最速タイで身支度・準備をする俺であった。
荷物をまとめ、学校で朝食をとるために冷蔵庫から適当にパンを取り出し、これから時間との戦いが始まる。
こういう時に限って向かい風だ。ヴァスコ=ダ=ガマもこうしてインドを発見し、マゼラン一行もこうして世界一周を成し遂げたのかもしれない。これは俺の前途多難な高校生活を暗示しているのか?
やっと家と学校の中間地点にあたる交差点に辿り着く。田んぼとクリークが繰り返す景色からは抜け出し、疎らにマンションが建つ住宅地へと入る。その頃には風が少し収まり、競輪選手も顔負けの速さで交差点へ到達する。
そのとき、前日の雨でぬかるんだ泥を回避しようとブレーキをかけたが時既に遅し、ぬかるみで滑って転んだ。と同時に、パンの袋が開いていたらしく、パンを全部ぶちまけてしまった。3秒ルールを適用しようと思ったが、右腕と右膝をひどく擦りむいた痛みで動かせず、パンは諦めざるを得なかった。立ち上がろうとして上を見ると、
「ん?水玉模様の…」
どうやら女子高生と思しき人のパンツのようだ。俺は水色地に白の水玉模様の入ったそれをまじまじと見てしまい、とうとう持ち主と目が合った。
「キャッ、この変態‼︎マジキモい、最低!」
と俺を罵倒し、さらに俺の顔をローファーのヒールの角で踏ん付け、それと同時に青に変わった信号で自転車をいそいそと走らせ姿を消した。
「全く、今日の俺は付いていねぇな。でもさっきの子めちゃめちゃ可愛かった。パンをぶちまけてまでパンツを見る価値ありだな、パンだけに。これで笑点に出ようなんかちゃんちゃらおかしい話だ。パンツは一枚でも座布団は全部持って行かれるな、な〜んてな。てか痛え、膝も腕も顔も血がすげぇな。ローファーのヒールは起伏に富んだ俺の顔を踏ん付けるための護身用か?可愛いから許そうなんざ、この俺がするとでも?ご冗談もいいところだ。」
などとぼやきながら、右半身の痛みを我慢しつつ、なんとか残り半分を超安全運転且つ超特急運行でギリギリ校門を通過した。
荷物をまとめ昇降口へ急ぐと、あろうことか、側溝に左足がはまった。もちろん側溝には前日の雨によるものとされる泥が残っており、左足首から下はもれなく泥で黒くなった。
こんなのでくよくよしている場合じゃない。入室完了の時間まであと2分。それに遅れれば遅刻だ。急げ、俺。
ガラガラガラ
「ふう。間に合ったか。」
と安堵すると同時に入室完了のチャイムが鳴った。
「あれ?ゼンって5組じゃなかったっけ?」
と中学時代の同級生で友人の神玄十郎がいるということは…
やはり、1年7組の教室だった。
クソッ‼︎なんて朝だ!
2.憂鬱な1日
結局遅刻で出鼻をくじいてしまった俺だったが、収監されている1年5組には幸運にも小学校1年の時からずっとクラスが一緒だった野辺山がおり、初対面の人間が苦手な俺にとっては嬉しくもあった。昼休みのことである。
「よっ、ゼン。顔どうしたよ?誰かもわからんくらい絆創膏だのガーゼだの湿布だの貼ってよ。」
「チャリで転んだんだよ。腕とか膝だって結構やられたんだからな。」
「ふ〜ん。お前は中学のときから付いてねぇ奴だもんな。ところで、前から分かってたものの、この学校の女子は全部顔が腐ってる‼︎」
と溜息混じりに野辺山が言う。
「そりゃぁ、この県内トップ校の城内西高に女子の顔求めていく奴はアホだろうよ。そんなこと言うならお前の頭じゃ勿体無いかもしらんが、堀内北高にでも行って、いい女捕まえりゃいいやんけ。ていうか、ここの女子はお前が言うほどブス多くないぞ。」
と言いながら女子の顔を初めてチェックすると、どこかで見たことある顔が。
「おいゼン、下堂薗つゆりにでも気があんのか?まぁ、パンツ見たから顔とパンツが一致して余計ワクワクして…てか?まぁ確かに顔はクレオパトラもびっくりかもしらんし付き合いたいと思うが、あいつと付き合うのは…。俺、あいつと同じ塾で付き合ったこともあるから分かることなんだがな。」
朝のアレで詳しい特徴が分からなかったものの肌は白く透き通っており、艶のある黒髪がそのまま重力に従うかのように背中まで伸びている。モデルをしていると言っても何ら問題ではないほどの美しいスタイル。西高にもこんな美少女は居るのかとつくづく思う限りだ。へぇ〜、下堂薗つゆりさんっていうのか…ていうか
「何でお前が朝、下堂薗さんのパンツ見たこと知ってんだよ!」
「何でだろうね、適当に言ってみた。あはは」
野辺山には俺の脳内を読み取る能力でもあるのか、俺に起きたこと、考えなどを寸分のズレなく言い当てるキモい奴である。
しかしながら、顔は女子共が口を揃えるほど目鼻立ちが良く、身長は180cmと高く、入試は全教科満点で堂々の主席合格。さらに中学時代は生徒会長、サッカー部のエースとして活躍した輝かしい過去をお持ちの、でも憎めない奴だ。俺はあいつと行動を共にすることが多く、俺に彼女が出来ないのはそのせいだと思うのは無理もなかろう。
あと、度々俺のことを「ゼン」と呼ぶやつが居るがそれは本名ではなく俺のあだ名だ。物心ついたときからその呼び名だったから命名者は不明である。たまには本名で呼んでほしいものだ。
キーンコーンカーンコーン
終礼という名の、天使の鐘の音。やっと学校が終わったのか、とホッとした。クラスの大半は終礼後5分以内にそそくさと帰ってしまい、残ったのは俺、野辺山、下堂薗の3人。
「アンタ、ゼンというらしいな。」
と下堂薗が俺に。本当は本名ではないので否定すべきだが何らかの圧力を感じ肯定せざるを得なかった。
「あ、あぁそうだが…朝の件は本当にすみませんでした‼︎あれは本当は不可抗力で見てしまい…」
下堂薗は俺の謝罪を最後まで聞かずして、あろうことか、おもむろに俺の右手を取りその自己主張の激しい胸の右側を掴ませた。
「うわぁぁ‼︎」
いや〜大きくて柔らかかったです。マジ最高!
なんてこんな状況で言えるか?てか野辺山は?さてはあいつ、そそくさと帰りやがったな。
「本当はこっちがいいでしょ?」
「な、ななな何のことかな?寝言は寝て言おうね。」
「何言ってんの?私だってパンツ見られて恥ずかしいから恥ずかしさを消すために胸触らせてあげてるじゃん。」
はひぃ?普通の女子なら半泣きでキレまくって、フェルマーの最終定理よりも難しいこの気まずい場の空気の処理をいやいやながらさせられる羽目になるであろう。しかしそこは下堂薗は謎対応によって場の空気は変わることがなかったのだから、助かった。そして、触らせてくださりありがとうございます!心の底からマジ感謝っす!
「野辺山が言ってたわ。『ゼンという俺の大親友が欲求不満だからなんとかしてほしい』と。」
「やはりあいつにデマを吹き込まれたか。いやぁ、俺の大大、大親友の野辺山君は虚言癖を持っておりましてですね〜、話せば少し長くなるのですがね〜」
「何言ってんの?」
何でだよ!英語で言えってのか、んあぁ?フランス語か?それともドイツ語か?そこでアラビア語とか言ったらお前ん家に核爆弾でも落とすぞ。
「な〜んてね。信じた?それともまだ足りない?」
そりゃなぁ。てか、お前の胸の感触がまだ生々しく残って当分消えそうに無いんだか。と思いながらも、歓喜。俺だって健康な男子高校生だ。女の胸触って喜ばない奴が何処にいる。
そういえば、よろしくと一言も言ってない気がするのだが、男子なら憧れるあれやこれやがよろしくの挨拶の代わりだということにしておこう。
そこへ、帰ったとばかり思っていた野辺山が教室へ。
と同時に下堂薗は俺を籠絡しようとしているのか、耳元に艶っぽい声で「またね」と言い、ノリノリで教室を出て行った。
それを見計らって野辺山が、
「お前ら、楽しそうだったな。」
「全くだ。」
「それはどっちの意味でだ?」
「ご想像にお任せする。」
「まぁとにかく下堂薗は帰って行ったし、俺の隠し事を1つお前に言おうじゃないか。」
「信じなくていい、ただ聞いてくれ。反論は後で受け付ける。
単刀直入に言う。俺は『完全非誘導型読心術者』、つまり人の心をタネや仕掛けを使わずに読み取る能力を持ってるんだ。メンタリストは人の心を読み取れる。だがゼンも知ってるように、それには必ず裏がある。俺はそれをせずとも人の心が読み取れるんだ。」
と野辺山は突飛なことを言いやがった。
「それがあるなら最強なんじゃないのか?」
「そうかもしれんな。だが、それは一定時間以上の対話や付き合いを経てその人の心が読み取れるんだ。全員に例外なく読み取れるわけじゃない。」
「そういえば、それは中学のときからちょくちょく聞かされてるが、そんなもの存在するとでも?第一何で入学式の次の日の放課後に言うんだ?リアクションのしようが無いだろうよ。それに俺は元来、オカルティックな話題は好きじゃないんだ。」
俺は時々野辺山のこういうところで腹を立てるのである。前述の通り、俺はオカルティックな話題には全く興味がない。
UFOとか地球外生命体とかの存在で火花を散らすような議論をしているところを見るととても馬鹿馬鹿しく思える。他に幽霊やタイムトラベラー、地底人の存在、超能力、占い、怪奇現象、SF世界さえも嫌っていた。
その代わり、真と証明された物理法則はもれなく信じている。証拠に、高校物理はあらかた中学のときに仕上げたし、西高には物理特待生として物理の一芸入試で入ったのだ。
中学時代はオカルト信者が多く、俺はそいつらのことを指差して馬鹿にしていた。野辺山を除いては。
俺はふと疑問に思った。
「仮にお前がその…なんちゃら術者とやらで人の心が読めるならこの世界に未解決事件なんてもんはないはずだが?」
「今の俺の能力じゃ、今親しくしている若しくは過去親しくしていた人間の心理しか読み取れないんだ。仮に全世界の普遍的な人類の心理を読み取れたとしても、『非物理的且つ未解明科学技術使用に基づく国際的禁止要項』に反するからどちらにせよできない。」
「ふーん。で結局何が言いたい?」
「ゼン、お前は何か隠し事をしているはずだ。」
「前後がつながってないから、9割方何を言いたいのか全くわからん。」
「ゆくゆくは知ることになる。嫌でもな。俺は用事思い出したから帰る。じゃあな、また明日。」
と言い手を振った。俺もそれに答えるように手を振り返した。というより、そうするしかない。
あいつが言ったことを信じることは今の俺にはできない。しかし、これは世界が変化するほんの序章にすぎなかったようだ。なんてね。そがんと知っわけなかろうもん。
初めまして。太郎田じゅんせーと申します。私がこの作品を描こうと思った理由は、もっといろいろな人が地方に目を向けてほしいと思ったからです。この作品は私の住んでいる県をモデルにしました。私は田舎に住んでいます。詳しい場所は後ほど言います。実を言うと、私でも自分の住んでいる県の魅力がいまいち分かりません。ですがこの作品が売れ、私の県が聖地になれば何よりの喜びです。またこの作品は私のデビュー作で、元来国語が苦手ですので、日本語のミスがまだまだ多いです。その辺りは目を瞑って頂ければ幸いです。