第90話 従魔の規則
セレナはしばらくすると、慌てた様子で冒険者ギルドの外に出てきた。
「なんで、こんなに、連れてきてるんですか!?」
「?駄目なのか?」
「多過ぎですよ!なんですか?この国滅ぼしにきたんですか!?」
「いや、理由も無いし、そんな事しないけど。」
「あっても辞めてください!」
「それで、従魔の輪はどこだ?」
セレナは、大きく溜息をついていた。
「…幸い、在庫はありますので、しばらく待っていてください。」
流石に落ち着いたようだ。
周りの人も落ち着いてくれればいいんだが。
すると、セレナと入れ替わるようにシスティアが出てくる。
「これは…」
従魔達を見て、呆然としている。
「システィア?大丈夫か?」
流石にまずかったか?
従魔にした以上、他の冒険者に狩られるのは困るので一度に連れてきてしまった。
落ち着いて考えると…
(まぁ、大丈夫だよな。セレナが言ったんだし。)
「…全てタケルの従魔なのか?」
「ああ。流石に多かったか?」
「多過ぎだ…従魔の輪は纏めて買うから足りるとは思うが…」
そう言いながらも額から汗を流している。
「どうした?」
「いや…これほど多くの下級竜に見られることなどなかったのでな…」
なるほど。
従魔達は俺と話しているシスティアに興味を持ったらしい。
「ギルド長も運ぶの手伝ってください。」
セレナが従魔の輪を運びながら言う。
「…ああ。」
余程怖かったのか、システィアはギルド内に入るまで従魔達から目を逸らすことはなかった。
ギルド職員数人が何往復もして、従魔の輪を運び出していた。
手伝おうかと申し出たのだが、冒険者ギルドの関係者しか入ってはいけない、と断られてしまった。
「…このくらいで、足りるでしょうか?」
セレナも運び出すので疲れたようだ。
そこには従魔の輪のやまが出来ていた。
「いや、そもそも何個必要なのか…」
従魔の輪の山を見る。
「あっ、足りるな。」
従魔の数と比べようとするとわかった。
(そういえば、《比較》って作ってあったな。)
まだまだ従魔を増やすつもりなので、かなり役に立つだろう。
「本当ですか?…では、まず、従魔の規則について説明しますね。」
説明はこうだ。
第1条、従魔が起こした犯罪は、《従魔契約》した人、又は従魔を連れていた人の犯罪となる。
第2条、従魔は常に従魔の輪を着けていなくてはならない。
第3条、従魔の輪は、従魔の首か前脚に装着しなければならない。ただし、首などのない魔物については、その魔物によって装着の仕方を設ける。
第4条、従魔の輪を装着していなかった場合、他の冒険者に討伐されたとしても報復してはならない。
第5条、国内での従魔による飛行を禁ず。
第6条、上記5条は契約者の所有する土地においては適応されない。
第7条、従魔を故意に殺害・虐待してはならない。これは他人の従魔だけでなく、自身の従魔にも適用される。
第8条、従魔の同意を得ない解剖・解体を禁ず。
第9条、従魔の譲渡は、契約者・従魔の同意を得て、初めて可能となる。また、契約者の死亡時以外、同意を得ない譲渡を禁ず。
第10条、契約者・従魔は互いに助け合い、自身を高めること。
(最後のは規則じゃない気がするが…)
「これは、昔に作られた『従魔ノ法』に補足を入れたものです。タケルさんは、従魔が多いので特に規則は気をつけてください。」
「ああ。じゃあ、従魔の輪の着け方を教えてくれるか?」
「はい。従魔の輪を手に持ち、この部分を首や前脚などに当ててください。」
セレナの説明通りに、無色の宝石のようなものが付いた部分を下級竜の首に当てる。
すると、宝石部分以外の金属部分が液体のようになり、下級竜の首を覆った。
宝石のようなものは赤く染まっている。
「はい。大丈夫ですね。では、続けてください。」
従魔達を数列に並ばせ首につけていく。
並ばせたおかげか、そこまで時間はかからなかった。
「下級竜154匹に帝狼23匹に地龍、全部で178個ですか。」
因みにセレナは地龍を初めて見たと先程まで騒いでいた。
「いくらだ?」
「1つ金貨1枚です。よって光貨1枚、紋貨7枚、金貨8枚になります。」
「森熊の代金で足りるか?」
「はい。問題ありません。従魔の輪の代金を引いた代金をお渡ししますか?」
「いや、余りも従魔の輪を売ってくれ。」
「畏まりました。では、従魔の輪24個と銀貨3枚になります。」
「あんまり買えないな。光貨1枚渡すから、それに従魔の輪を100個追加してくれ。」
「…はい。畏まりました。追加の100個になります。」
追加分を受け取り、《空間魔法》でしまう。
「よし。じゃあ、セレナ、また来るな。」
「はい。…お待ちしております。」
《転移魔法》と《拡大》によって庭へと戻った。
「ふぅ…」
「セレナ、溜息ついてる場合じゃないよ?」
「え?」
「ギルド長が呼んでたわよ。」
「…」
セレナは、これからは迂闊な言動に気をつけようと深く反省したのだった。