第88話 従魔契約(5)
ウルを撫でた後、《転移魔法》と《拡大》を使い、家に転移する。
元々は、ヘルプの言っていた擬態蝶や葉鳥などと《従魔契約》する予定だったが、ヘルプの「旧森人族領には、下級竜と帝狼以外に群れを作る魔物はいません。一体ずつになりますがよろしいですか?」という言葉で断念した。
下級竜の時と同じようにルティに念話で説明する。
「ルティ、今回は地龍と帝狼を連れてきたぞ。」
「えっ!?地龍?地龍って聞こえたわよ!?」
「ああ。地龍だ。」
「えぇ…まぁ、ご主人様だものね。…わかったわ。レイラ達にも説明しておくわね。」
「ああ。頼む。」
ルティへの説明を終え、下級竜の群れと帝狼の群れを引き合わせる。
(従魔同士仲良くしろよ?)
(あぁ。わかったね?)
婆さん下級竜は他の下級竜に確認している。
(ウルも頼むな?)
(うん!)
ウルは左右に大きく尻尾を振っている。
本当にわかってるよな?
(まぁ、私達は不干渉だったしねぇ…)
(そうなのか?)
(相手にするとお互い危ないしねぇ…)
(あっ、そういえば、こっちはランな。地龍だ。)
(はぁ…長生きもしてみるものだねぇ…)
地龍であるランに対し、婆さん下級竜は頭を下げる。
それに倣って他の下級竜も頭を下げた。
(私も主様の従魔です。従魔同士で上下関係はいらないよ?)
(…わかりました。よろしくねぇ…)
(はい!)
ランと婆さん下級竜は打ち解けたようだ。
因みにウルは俺に撫でられて丸まっている。
(じゃあ、ランは《土壌変化》で小さな山を作ってくれるか?下級竜達はランを手伝ってあげてくれ。)
(わかったよ!よろしくね!)
ランは下級竜を連れて山を作り始めた。
(たけるお兄ちゃん!ウルは?)
(ウル達か…)
何かすることはあっただろうか?
(たけるお兄ちゃん…ウルは役に立たない…?)
振られていた尻尾は、ウルの心情を表すかのように垂れ下がっている。
(何かないか?帝狼だから、えっと…鼻がいいか?なら…)
本当に鼻がいいのかは知らないが、おそらくいいだろう。
(じゃあ、ウル達は木の実を拾ってきてくれるか?)
(木の実?)
(そう、木の実。でも、食べちゃ駄目だぞ?ここに植えるんだ。だから、ウル達がしてくれないと、ウル達もそうだし、他の従魔達も困っちゃうんだ。)
(ウルにできる?)
(ああ、もちろんだ。頼めるか?)
(うん!がんばる!)
再び尻尾が大きく振られる。
垂れ下がったままだとこっちも嫌だしな。
(じゃあ、また旧森人族領へ行ってから、森熊のいる森に行くか。)
(えっ!?)
何故かウルが怖がっていた。
(ウル?どうかした?)
(やっぱり怖いから嫌…)
急に駄々をこね始める。
(何が怖い?)
(なんか…怖いスライムがいるって…食べられちゃうの…)
(食べられちゃう?)
帝狼を食べるスライム?
「おそらく寄生スライムではないでしょうか。以前、緑狼に寄生していましたから。」
(あー、なるほど。)
納得した俺は、ウルのおそらく頰である場所を両手で包み、耳を撫でながら言う。
(ウル、大丈夫。いざって時は俺が守るから。)
(たけるお兄ちゃんが…?)
(ああ。そうだ。俺じゃ信用できないか?)
(そんなことない!たけるお兄ちゃんはすっごく強いもん!)
(ありがとう。なら、ウルも来てくれる?)
(うぅ…たけるお兄ちゃんが守ってくれる…?)
(ああ。もちろん。)
(絶対?)
(絶対だよ。)
(そっかぁ…えへへ…)
ウルの尻尾が高速で揺れた。
(じゃあ、行くぞ!)
(うん!たけるお兄ちゃん!)
そう言ったところで、他にも帝狼達がいたのを思い出した。
こちらを微笑ましそうに見ている気がした。
なんとなく恥ずかしくなり、即座に《転移魔法》で、再び旧森人族領へ戻った。
どんどん従魔を増やしましょう!
次もウルのように可愛い子がいいですね。