第87話 従魔契約(4)
ランと共にしばらく歩くと、食事中の帝狼を発見した。
茂みから覗くようにして観察する。
緑色のものの山に群がっている。
「葉を食べてるのか?」
こちらの狼は雑食なのだろうか?
「葉鳥だよ。昼間は光合成してて、動かないから肉食の魔物とか動物によく餌にされてるよ。」
「昼間動けないとか餌として生まれたって言われても驚かないな。」
「ちなみに夜は普通に動くよ。ホー、ホー、って鳴きながら飛んでるね。」
「梟みたいだな。」
「昔は梟の魔物とも言われてたよ。」
(というか、魔物がいる中生き残ってる普通の梟とか凄すぎるだろ。)
暫く帝狼の食事を見ていると、葉鳥を食べ終わったようだ。
葉鳥のものであっただろう骨が散乱している。
移動しようとし始めたので、茂みから出る。
当然、帝狼達は気づき、歯を剥き出しにする。
威嚇するように声を上げていたが、徐々に小さくなっていって、帝狼達は寝転がった。
そして腹をこちらに向け、じっとしている。
「…えっ?」
「これは…ねぇ。」
ランも苦笑いしつつこちらを見てくる。
「服従の姿勢ですね。すぐに《従魔契約》できます。」
ヘルプの声を信じ、リーダーであろう帝狼に《従魔契約》を使うと、すぐに成功した。
(その…よろしくお願いします…)
(え?あっ、はい。こちらこそ…)
歯を剥き出しにして威嚇していたのに、気弱そうな少女の声が聞こえ驚いてしまった。
(えっと、よろしくな?)
近づきつつ話しかけるが、怖がっているのか腰が引けているが、《従魔契約》したからか逃げようとはしない。
そのため、手が届くところまで近づくことができた。
(あっ…えっと…そのぅ…)
(怖がらなくて大丈夫。《従魔契約》したんだから、傷つけたりしないぞ。)
子供に話しかけるようにしながら手を伸ばす。
おそらく犬に接するようにしたから手を伸ばすのが良いだろう。
手を伸ばすと、帝狼は俺の顔を見上げた後、舌を伸ばし俺の手を舐めた。
そのまま舐め続けていたので、犬にするように顎の下を撫でると、垂れ下がっていた尻尾が左右に揺れていた。
(やっぱりここは気持ちいい?)
(はい…気持ちいいです。)
(続けていい?)
聞いてはみたが、尻尾の揺れが大きくなったので続ける。
引けていた腰は元に戻り、俺の方へと近づいてきていた。
本当に犬みたいだな。
顎の下だけでなく、全身を撫でていると気持ちよかったのかこちらに飛びついてくる。
危害を加えようとしているわけではないので、そのまま戯れる。
顔も舐められてベタベタになっていた。
視線を感じ、見ると不機嫌そうな顔のランがいた。
ランの方を向き、話しかける。
「どうかしたのか?ランも撫でたかったのか?」
「私も撫でられたいよ…じゃなくて!主様はゆっくりしていていいの!?」
「ああ、そうだな。」
(君の群れの帝狼全員と《従魔契約》したいから、連れてきてくれる?)
(はい!わかりました!)
尻尾をぶんぶん振りながら駆けていった。
「…随分懐かれましたね。」
帝狼が走っていったのを見てか、ヘルプが話しかけてくる。
(ん?ああ。犬みたいで可愛いよな。)
「あなたの話し方も優しかったですしね。」
(人見知りの子供みたいだったからな。)
「羨ましいです。私にも心を開いてくれていいんですよ。」
(心は開いてると思うぞ。というか、心を読んでるだろ?)
「そういうことではありません。私にも先程のような話し方にしてくれませんか?」
(ヘルプは子供っぽくないからな。)
「そうですか…」
ヘルプが落ち込んだ気がする。
「あっ、戻ってきた。」
ランのその声で帝狼の走っていった方を見る。
十数匹の帝狼がやってきた。
「帝狼などは小さな群れが多く作られています。
さらに《従魔契約》をするのならば、案内します。」
(いや。帝狼はもういい。)
《従魔契約》をした帝狼はそのまま俺の元にまで走ってくると、褒めて、とでもいうかのように尻尾を振り、見上げてくる。
(ありがとう。助かったよ。)
(はいぃ…)
気持ち良さそうな声を出しながら俺の下で丸まった。
「《従魔契約》ですが、下級竜を転移させた時につくった《拡大》で一度に行うことが可能です。」
(そうなのか?それは助かるな。数が多いと面倒だしな。)
ヘルプの指摘通り、《従魔契約》と《拡大》を使い、一度に終える。
(よし。できたな。)
(あの…)
(どうかした?)
話しかけてきたのは最初に《従魔契約》した帝狼だ。
(タケルさんって呼んでいいですか?)
《従魔契約》をすると魔物側には俺の名前が知られるらしい。
(ああ。無理しないで好きにに呼んでくれていいよ。)
(じゃあ…たけるお兄ちゃん…)
俺は、妹コンでもないし、狼の妹は当然いないが、この呼ばれ方は嫌いじゃない。
(可愛いやつだなぁ…口調も無理しなくていいからな?)
(うん。わかった!)
さらに年齢が幼くなった気もするが可愛いので気にしない。
(たけるお兄ちゃん、私に名前をちょうだい?)
(そうだな…)
「ポチがいいのでは?犬のようですし。」
ヘルプが何か言っているが無視する。
(狼だから…ウルはどう?)
(!うん!それにする!)
(そっか。喜んでくれて嬉しいよ。)
そのままウルを撫で続ける。
「私と大差ないですよ…」
ヘルプが何かを呟いていた。
読んでくださりありがとうございます。
よろしければ、他の小説も書き始めたので読んでくださると嬉しいです。