第75話 夢
見渡す限り白い空間が広がっている。
そして、目の前には、最近ではあまり見ることのなくなった黒髪を持つ少女が座っている。
「ここはどこだ!?」
明らかに俺の部屋ではない。
だとすれば、俺を誘拐したと言うことになる。
(でも、どうやって?登録してない奴は、転移部屋も、そもそもあの家で転移魔法は使えない。)
目の前の少女を警戒していると、少女が声を発する。
「私は、あなたの味方。敵じゃない。」
外見とは逆に、大人びた、冷たい声だった。
「今度会いに行く。」
そう言うと、少女は俺から目線を外し離れていってしまう。
「待て!お前は誰だ?」
そう言うと、少女は無表情のまま振り向き、手を軽く振る。
「またね。」
誰かに肩を揺さぶられている。
(誰だ…?)
ゆっくりと目を開けると、レイラの顔が至近距離で映る。
「おはようございます、ご主人様。朝ですよ。」
「ん、ああ。おはよう、レイラ。」
「ぐっすり眠っていましたね。」
「…そうだな。」
「はい。ごはんにしますか?」
「…ああ。」
(さっきのは夢か?…なんだったんだ。)
疑問は晴れないが、考えても埒があかない。
「?ご主人様?」
レイラが小首を傾げている。
「今いく。」
レイラと共に2階に降りる。
「あっ、ご主人様、今日は遅かったのね。」
「タケル、おはよ〜。」
ルティは椅子に座り、リリファはソファに寝そべりながら言ってくる。
「ああ。おはよう。」
「ええ。おはよう、ご主人様。朝食を食べるわよ。」
「あたしもお腹すいた〜。」
「ルティもリリファも待っててくれたのか?先に食べてくれて良かったんだぞ。」
「いいのよ。どうせなら一緒に食べたいわ。」
レイラはその間に朝食を運んで来てくれる。
「ありがとう、レイラ。じゃあ、早速食べるか。」
「「「「いただきます。」」」」
朝食を食べながら、昨夜は何を作ったのか確認するのを忘れていた。
(ヘルプ、昨夜は結局、どんなものを作ったんだ?)
「…」
(ヘルプ?)
「…『呪術』、『変化』、『限界突破』、『念動』、『蘇生』の5つです。」
(なんか、怒ってるのか?)
「何もありませんが?」
(本当か?)
「…決して夢の事や私には挨拶をしてくださった事がない事など些細な事ですから、お気になさらず。」
(…ツンデレ?)
「…」
よくわからないが、さらに怒らせた気がする。
(えっと…おはよう。)
「…はい。おはようございます。」
(なんて言うか…挨拶って今更じゃないか?)
「…それでも円満な関係を続けていきたいなら挨拶は必要です。」
(ああ、わかったよ。確かに当たり前のことだしな。それはそれとして、夢の事って、あの女の子のことか?)
「はい。」
(あの子は誰なんだ?)
「…そのうちわかります。」
(…そうか。)
なんか教えてはくれないようだ。
(えっと、じゃあ、昨夜に作ってもらった奴だけど、説明してくれるか?)
「言葉通りだと思いますが、『呪術』、『蘇生』にだけ補足します。まず、『呪術』は本来、スキルでも魔法でもありません。」
(スキルでも魔法でもないってどう言うことだ?)
「言うなれば自然現象でしょうか?特定の条件が満たされた場合に発動するものです。そのため、『呪術』を使用する際には条件を満たす必要があります。次に『蘇生』ですが、蘇生させる相手が死亡した時間が長くなるほど記憶、ステータスが失われます。そのため、『蘇生』は対象が死亡した直後に使用するのをお勧めします。ちなみに禁呪ですので、使用が露見すると排斥されますが。」
(…まぁ、生き返らせるんだから仕方がないな。まぁ、できれば使いたくないけどな。)
そんなことを話していると、家の呼び鈴が鳴った。