第70話 畑(2)
数日空いてすみません。
転移魔法で戻り、家に入ろうとしたところでふと気づく。
(呼び鈴がない…)
内装はホテルをイメージしたせいか、玄関に呼び鈴を作るのを忘れていた。
(作らないと困るよな。)
玄関の扉は、両開きで木製のものだ。
個人的なものかもしれないが、この扉ならインターホンよりも呼び鈴の方が合っている気がする。
(でも、普通の呼び鈴だと、上の階にいるレイラ達は気づかないよな…上の階に音を届かせるための方法もあるだろうけど、俺は知らないし…単に音を大きくしたら近所迷惑なだけだしな…)
「魔力を使えばできないこともありませんよ?」
(家と同じ風にか?そういえば前から思ってたんだが、地中の魔力は無くならないのか?)
「そんなことになったら、普段の生活にも支障が出ます。」
(そうなのか?)
「寝ている時に魔力が回復するためには、地中の魔力は不可欠です。魔力は体内で生成されるものですが、地中にあることが前提で、なくなったのなら魔力は回復できません。」
(…とりあえず無くならないならいいか。じゃあ手伝ってくれるか?)
「はい。」
(《創造》)
ヘルプにイメージを手伝ってもらいつつ作っていく。
見た目は呼び鈴だが、その音は壁を伝い、同時に壁の中にスピーカーのようなものを作り、どこの部屋にいても、同じ大きさの音が鳴るようにする。
ついでに、声でも呼べるように呼び鈴にマイクのような機能もつけておく。
(よし。できてるな。)
呼び鈴を鳴す。
だが、少し待ってもレイラは来ない。
(あれ?失敗したか?)
呼び鈴を何度か鳴らし、待ってみるが、出てくる気配がない。
「あれ?レイラ、聞こえてるか?玄関まで来てくれ?。」
言葉で呼ぶと、すぐにレイラ達が出て来た。
「あっ!ご主人様ぁ…」
何故かレイラは涙目になり、飛びついてきた。
「えっ!?どうかしたか?」
「いきなり音が…」
「…」
(なぁ、もしかして呼び鈴って普通ないものなのか?)
「城や教会ならばありますが、民家であれば珍しいかと。」
(先に言えよ…)
「これは普通の家ではないでしょう?」
(まぁ…確かに?)
普通の家にしては大きすぎる。
「ご主人様…大丈夫なんですか…?」
「ああ。大丈夫だ。今の音は誰かが来たって合図なんだ。」
「本当ですか…?」
「本当だ。驚かせてごめんな。これからは先に言うようにするから。」
「はい…こちらこそごめんなさい。」
余程驚いたのか抱きついたまま離れようとしない。
仕方がないのでレイラの背中に手をやり、軽く叩いてやる。
しばらくの間そうしていると、視線が向けられていることに気づく。
目を向けるとルティが頰を膨らませていた。
「そういえばルティは驚かないんだな。」
「私の家にも呼び鈴はあったわ。」
「それならレイラに教えれば良かったんじゃ…」
「教えたわ。聞こえなかったみたいだけど…」
(どれだけ慌てていたんだ…?)
「それで、ご主人様?なんで呼び鈴なんて鳴らしたの?」
「ああ、食材を受け取って欲しくてな。リリファが早く畑を作りたいみたいだから。」
「畑を作るのなんて初めて聞いた気がするわね…まぁ、わかったわ。」
そう言うとルティは食材を受け取り、レイラを連れて戻っていった。
「ねぇ、タケル、早く植えよう!」
「元気だな…」
リリファと共に種と球根を植えていく。
「ねぇ、レイラ?さっき途中からただ喜んでいたわね?」
「ルティにはバレちゃったか。えへへ…背中ぽんぽんされちゃった…」
「…ずるいわ。」