第56話 家(2)
夕食を済ませ、部屋へ戻る。
「買った土地は明日見に行こう。えーっと、あー、門からは結構離れているな。まぁ、広い土地ならしょうがないか。」
「それで、ご主人様?どういうことなの?」
ルティが問い、レイラが続く。
「そうですよ!」
「ん?…土地だけ買ったことか?」
(まぁ、後で説明するって言ったからな。)
「そうです。家はどうするんですか?大きい家を建てるにはその分お金がかかるんですよ!?土地が大きい分、建設費も大金になって…」
「いや、普通に《創造》で建てるだけだぞ?」
「…そんなこともできるんですか?」
「できるらしい。」
「らしい?まぁ、いいですけど…なんか、結構悩んだのに、一言で終わらせられたのに言いたいことはあるんですけど、それは置いておきます。でも、また家具とか買わなきゃいけないんじゃないですか?」
「そうだな。取り敢えずベッドはないと寝る場所がないからな。後は、水道…水道って、どうなってるんだ?」
「えーっと、確か、特殊な石を使うと聞いたことがあるような気がします。」
「それって普通に買えるのか?」
「どうなんでしょう?私は見たことないですが…」
「ご主人様のスキルで作れないの?」
「どういうものかわからないしな…」
「お任せください。」
ヘルプの声が聞こえたかと思うと、頭の中にイメージが浮かび上がってくる。
(これがその石なのか?)
「はい。冷水石です。そして…」
別の石のイメージが浮かび上がってくる。
「こちらが温水石です。魔力を送ることで名前通りの水が出てきます。」
(…なんというか、不思議な感覚だな。2つの石の細部まで覚えてるんだが。)
「お気になさらず。試しに作ってみてはいかがでしょうか?」
(そうだな。《創造》)
掌サイズで作ってみる。
「お!出来たな。」
「「…」」
「ん?二人とも、どうかしたのか?」
冷水石と温水石を作ると、二人は顔を見合わせていた。
「あの、ご主人様なら家具とか作れるんじゃないですか?」
「…そうだな。」
(さっきみたいにやればできるな。頼めるか?)
「もちろんです。お任せください。」
(ああ。頼む。)
ヘルプから了承を得て、二人にどんな家具が必要かを言ってもらう。
「まぁ、さっきご主人様も言ったけど、ベッドは欲しいわよね。」
「ごはんを食べるテーブルと椅子が欲しいです。あと、台所は家具に入りますか?」
「台所は、家の一部として作るけど、何か特別に欲しいものとかがあるのか?」
「はい。ご主人様はなんでも作れるんですよね?」
「いや、なんでもってわけじゃ…ないと、思うぞ?」
言葉の途中で自信がなくなったのは、ヘルプの補助があるなら出来てしまう気がしたからだ。
「でしたら、穴は開けて置いて欲しいんです。」
「穴?」
「はい。実は、昨日の包丁を見に行った時なんですけど、新商品でえーっと、むしき?というものが売っていたんです。それを使った料理もして見たくて。だめでしょうか?」
「蒸し器?」
(あれ?蒸し器って穴なんて必要あったか?)
「こちらの世界では、『蒸す』という調理法は最近になり、考え出されたものですので、あなたの世界のようなものではないかと。」
(そうだったのか。じゃあ、えーっと…)
「レイラ、俺のいた世界にもあったから、それを作っておくな?」
「本当ですか!?ご主人様の世界の…」
レイラは、違う世界の調理器具ということもあってか、恍惚とした表情を浮かべている。
「あの…ご主人様?…いいの?」
レイラを眺めていたが、不意にルティが不安げに尋ねてきた。」
「ん?何がだ?」
「…ご主人様は普段、元の世界のことは話さないから。あまり思い出したくないのかなって…」
「…」
(そういえば、会ったばかりの時にしか話してなかったか?いや、普段も言ってたような気がするけど、自分からは言わないってことか?)
少しの間黙っていたせいで、ルティの不安げな様子が深くなっていた。
「あっ、そんなことないぞ?たまたま話さなかっただけだから。」
「…本当よね?私には気を遣わなくていいのよ?」
「…どうかしたのか?大丈夫だぞ?」
頭に手を置き、軽く撫でる。
「…なんでもないわ。」
撫でられるのが恥ずかしいのか、少し顔を赤くしながら答えた。
「…ん?ルティ?顔が赤いけど、どうかしたの?」
「な、なんでもないわ。」
(レイラが調理器具に夢中で助かったわ…)