第3話 勇者召喚(後半)
ヒロイン1人目が登場。(今後もヒロインは何人か登場させるつもりです。)
勇者くんが何のためらいもなく腕輪を受け取りに行った。それに続いて他の生徒達も受け取りに動き始めたので、俺もそれについていく。王女と騎士が腕輪を数個ずつ持ち、分担して配っている。一列に並び、それを受け取っていく。
やはり王女は人気のようで、男子の大半と女子の約半数が並んでいた。俺は並ぶのが面倒だったため、騎士の方へ歩いて行く。騎士の方に並んでいる人は少ないため、すぐに腕輪を騎士から受け取ることができた。
(これってたぶんアレだよな?隷属とかそういう…確かによくあるけどさ…こういう時はとりあえず逃げるのが吉だよな。でも、この人数で誰にも気付かれずに逃げるのは難しいな。どうやって逃げ出そうか…)
「左右どちらでもいいので、つけておいてください。その腕輪をつけることでこの国の民に『勇者』として認識されますので、正しくつけられているか後ほど確認させていただきます。」
そういうと王女は大きな魔法陣の方へ歩いて行った。さっきまで俺たちが寝ていた場所だ。
何をするきだ?
もう勇者の召喚は済んだはずだ。
王女が何かを呟き始めると、大きな魔法陣が輝き始めた。
(俺たちもあそこに召喚されたんだよな?まさか更に勇者を紹介するのか!?流石に地球からさらに呼び寄せたら、集団失踪とかになって大問題に…まてよ。そういえば、俺たちってどういう扱いになってるんだ?以前にも召喚しているなら、もっと大々的な問題になっているだろうし…)
そんなことを考えていると、突然後ろから爆発音が鳴り響く。
「ッ!!!」
思わず耳を抑え、しゃがみこむ。
何があったのだろうか?
魔法陣の方に振り向くと、そこには手を前にかざしながら驚いた顔をしている少女と、口を開けて呆然としている少女達、そして、大きく抉れた地面があった。
手をかざしている少女は少し茶色が混じっているような長い銀髪を持ち、髪からは先の尖った耳がとびだしている。
(本物のエルフか!?流石異世界!そしてなにより、綺麗な子だ。)
思わず見惚れていると、こちらへ薄い緑色をした双眸がこちらへ向けられた。
(見過ぎたか!?)
少女から目を背けたところで気がついた。
(今なら全員があの爆発に気を取られていて、逃げ出せるんじゃないか?)
周りを見渡すと、爆発に巻き込まれたのか数名の騎士が倒れ、王女もそちらへ目を向けている。
(今だ!)
全力で王女達のいる反対側へ駆け出した。
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「はぁ…はぁ…ん。」
後ろを振り返るが、騎士達は追いかけてはいないようだ。そのことに安堵し、樹木を背にして座り込む。
風の音や鳥の鳴き声のようなものが聞こえるが、きっと鳥じゃないのだろう。異世界だし。
「お疲れ様。それで、どうしていきなり走り出したの?」
「あぁ、憶測でしかないけど、この腕輪には…」
(ん?)
「誰だ!?」
「きゃっ!」
勢い良く振り返るとそこには先ほどの少女が尻もちをついていた。
「っ!ごめん!いきなり声がしたから驚いて…」
(というかいつからいたんだ?全く気がつかなかったぞ?)
「こっちこそごめんなさい。いきなり声かけたら驚くよね。」
「じゃあ、お互い悪かったってことでいいな?」
「うん!」
明るい感じの子だ。
「それで?腕輪がどうしたの?」
「あぁ、テンプレ通りだとこの腕輪をつけると強制的に隷属させられると思う」
「テンプレ?隷属?」
「意味を知らないのか?」
「うん。わたしのいた世界にはない言葉だね。」
「なるほどな、テンプレっていうのは…」
そう言ったところで少し不思議に思った。
「うん?どうしたの?」
「今更だけど、なんで言葉通じてるんだ?あと、どうして俺が別の世界の人間だってわかったんだ?」
「あぁ!それはね、わたしのスキルが関係してるんだよ。」
「どんなスキルか聞いてもいいか?」
「うん、『言語共有』っていうの。」
「それがお前のユニークスキルか?」
「ユニークスキル?これは私達の種族なら全員が持ってるスキルだよ。これがないと精霊さん達とお話しできないからね。あと、お前って言われるの、嫌なの。わたしの名前はフェルミーナ。フェルって呼んでくれると嬉しいな。」
「俺の名前は峯岸武流だ。フェルミーナは名字、家名はないのか?」
「フェルって呼んで?」
「そんなことよりーー」
「ファルって呼んで?」
話が進まない…
「出会って数分の人をあだ名で呼ぶのはちょっと…」
「むー。いいじゃん、そのくらい。みんなはそう呼んでくれたもん」
「というか、その『みんな』を置いてきていいのか?」
「…今更戻れないよね。」
暗い表情で呟くように言った。
「…そうだな。で、家名はないのか?」
「うん。わたしのいた世界は、偉い人しか家名をもてないんだけど…もしかしてタケルって偉い人?」
「そう見えるのか?」
「うーん?服とか高そうに見えるけど、偉くは見えないかな。」
「…それって貶してるのか?」
「違うよ。すっごく優しそうに見える。」
「あぁ、うん。」
(恥ずかしいことを平気でいうやつだな。)
「というか、フェルミーナはいくつなんだ?」
「女性に年齢聞くの?」
「そっちの世界でも女性に年齢を聞くのは失礼なのか?それと、エルフは長寿っていうからな。見た目とどのくらい離れてるのか気になって。」
「そっちの世界『でも』ってことはタケルの世界でも失礼なんでしょ?どの世界でも一緒だよ!」
「なるほどな。なら、聞かないほうがいいか?」
「うんうん、別にいいよー?」
(…このやり取りなんだったんだ?)
そう思ったが、話か進まなくなりそうなので改めて聞き直した。
「それで?フェルミーナ何歳なんだ?」
「んー…フェルって呼んでくれるなら教えてあげる。」
「はぁ…じゃあフェル、何歳なんだ?」
「意外にすんなりいってくれたね。わたしは14歳だよ。タケルは?」
「俺は1つ上だな。15歳。」
「えっ?」
「?どうかしたか?」
「えっと…年上?」
「そういってるだろ?」
「冗談じゃなくて?」
「しつこい。」
何がそんなに不思議なんだ?
「ごめん。えっと敬語とか使ったほうがいい?」
「今更だろ。そのままでいい。」
「ありがと。」
「それで、見た目と年齢にあんまり差はないんだな?」
「それはたまたまかな。私達は13〜15歳の間に成長が止まって死ぬまで外見は変わらないらしいよ。あと、わたしはもう成長はとまってるよ。」
(なるほどな。ということは、何十年後もフェルはこのままと。)
フェルは俺の肩ほどまでしか身長はない。俺の身長が160センチにあと少しといったところを考えるとかなり小さい。
「それで?フェル達の寿命はどのくらいなんだ?」
「うん。タケルの想像とは少し違うかな。エルフの寿命は人と同じくらい。100前後ってところだね。でも、確かに以前は600歳とかまで生きてたらしいよ。でも、どんどん寿命が短くなってきてるんだって。」
「なるほどな…っと、そろそろ移動し始めるか。」
そういって少し歩いたあと、フェルへ振り返って、
「一緒に来るか?」
「いいの?」
「あぁ、魔法を使えるフェルがいたほうが安全だからな。召喚された時、使ってただろ?」
「ありがと。その言い方だと、タケルは使えないの?」
「ユニークスキルだけだな。」
「それがあれば十分だよ。」
そういって、歩き始めた。
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歩きながらも会話は続く。
「へぇー、珍しいね」
「いや、俺のいた世界には魔法は存在してないんだよ。」
「魔法のない世界か…大変そうだね。」
「ってことは、やっぱりフェルのいた世界には魔法があるんだよな。」
「うん。学校で魔法の練習してたらいきなり召喚させられて、そのまま魔法撃っちゃったんだ。」
「学校があるのか?」
「うん。3歳から15歳までは学校に通うようになってるんだよ。魔法は13歳から15歳の間に習うんだよ。それ以外は文字とか計算とか。他にも…」
そんな会話をしつつ、フェルと歩みを進めた。
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