第22話 奴隷(3)
「「え?」」
ルティとレイラの声が重なる。
部屋に何とも微妙な空気が満ちる。
それを壊したのはルティだった。
「え…なんで!?私ちゃんと隠して…」
(その反応は…隠す気あるのか…?)
「《鑑定》のスキルを持ってるからな。」
(実際はスキルじゃないが。)
「嘘よ!前に《鑑定》スキル持ちが奴隷を見にきたけどバレなかったもの!」
「…」
(…もしかしてヘルプの《鑑定》ってすごい?)
思わずヘルプに聞いてしまう。
「ヘルプ機能ですので。あなたの役に立たなければ
意味がありません。」
(…なるほど。とりあえずヘルプはすごいんだな。)
改めて実感し、ルティに返事をしていないことを思い出した。
「あー、俺のは特別なんだよ。」
「…今の間はなんなのよ…」
問い詰めてくるかと思ったが思わず声に出ただけのようで、それ以上は聞いてこなかった。
「で、本当なのか?」
「ええ。私は元魔王の娘よ。」
「ふーん…で、なんで奴隷なんかに?」
「少し前にお父様が私を奴隷にしたの。」
「実の娘を奴隷に?どういうことだ?」
「お父様も急いで説明していたから、そんなに詳しくはわからないけど、たくさんの人が裏切ったらしいの。それで私が危ないからって周りの目を誤魔化すために奴隷として私を逃したの。」
「そもそも魔王ってどうやって決めるんだ?」
「毎年後継者候補を決める大会があって、それを優勝した人が後継者候補になるの。」
「候補ってことは確定じゃないのか?」
「当たり前よ。毎年魔王が変わるわけないじゃない。」
「まぁ、当然だな。じゃあ、どうして毎年やるんだ?」
「単純に候補を増やすためよ。魔王が変わるのは魔王が死んじゃった時だけ。魔王が寿命で死ぬのは滅多にないの。大抵は誰かに殺されて、新しい魔王が即位するの。候補者が少ないと魔王が死んじゃった時に候補者が全員死んじゃってるかもしれないでしょ?」
「なるほどな。一番強い魔族が殺されるのに、他の魔族が生きている可能性は低いか…」
「そういうことよ。それで、お父様の前の魔王が死んじゃったとき、お父様の他にも何人か候補者が残ってたの。そういう場合は残ってる候補者で戦うんだけど、その中で一番強かったのがお父様だったの。だから、魔王になったんだけど…候補者の中で、お父様の次に強かった人たちが…裏切った…らしくて… 」
話しているうちにルティは涙を流していた。
「私…お父様を置いて…逃げてきちゃって…」
しゃくりあげながらも話し続けようとする。
「あー…もういいぞ。ごめんな。そんな辛いことだと知らなくてな…」
「…ごめんなさい…」
そう言いながらも涙を流し続けている。
つい気まずくなってルティの頭を撫でる。
するとルティは俺の胸に飛び込んできた。
「っ!?」
反射的に離そうとしたが、ルティの様子を見て動きを止めた。
《鑑定》でみたから、年は本当に14なんだろう。
まだまだ子どもだ。
(ルティと父親は仲が良かったんだろう。親が自分のために死んだかもしれなかったら、誰でも泣くよな…)
そう考え頭を撫で続ける。
「ごめんなさい、ご主人様。」
数分後、そう言ってルティは離れた。
「気にするな。もう大丈夫か?」
「ええ。…ご主人様。」
「ん?なんだ?」
「ありがとう!」
そう言ったルティの顔は目の端が赤かったものの、
年相応の笑顔だった。
その笑顔を見て心臓が大きく跳ねる。
(…こんな時なのにどうなんだ…)
そう考えながらも話を続ける。
「それで今後はどうするんだ?」
(甘いかもしれないが、もし本人が望むなら…)
合理的な判断ではないがそれもいいと思う。
「え?決まってるじゃない。ご主人様に尽くすわよ。」
「…いいのか?」
「いいに決まってるじゃない。今放り出されても困るわよ。…一緒にいたいし…」
「そうか。」
最後の言葉は聞かなかったことにした。
「あの…私…」
「「っ!?」」
俺とルティは少し飛び上がってしまう。
「ああ、なんだ、レイラ?」
「私も…尽くしますから!」
「…ああ、よろしくな。」
「はい!」
なんだかよくわからないがレイラも元気になったようだ。
「それで、ご主人様?」
レイラが話しかけてくる。
「私たちは何をすればいいんでしょう?」
「私も教えてもらってなかったわ。」
それに続けてにルティも言ってきた。
「あー家事とかか?でも、1人に任せるのはどうかと思うし、みんなでやろうな。あとは特にないな。」
「「え?」」
「え?」
「あの…ご主人様?それだけですか?」
レイラが聞いてくる。
「え?他にあるか?」
「こう言ったらなんだけど、なんで私たちを買ったの?」
ルティが心底不思議そうな雰囲気で聞いてくる。
「まぁ、一番の理由は…」
ルティとレイラは真剣に聞いているようだ。
「…寂しかったから?」
言いながらも少し恥ずかしく感じる。
ルティとレイラは目を合わせた。
「「私、ずっと一緒にいますから!」」
2人に同時に詰め寄られながら言われる。
「…ありがとな。じゃあ、そろそろ夕食食べに行くか。」
2人を連れて食堂へ向かった。
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