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ただただ、幸せに…  作者: 緋月夜夏
ムニシヤ王国編
117/117

第116話 デート ヘルプ

「あなた、朝ですよ。起きて下さい。」


 ヘルプの声で目が覚める。


「おはようございます。今日も良い天気ですね。」

(…ああ。眩しいな。)

「ですから、私ともデートをしましょう。」

(…は?ヘルプと?)

「はい。私とです。他の方とは終えたのですから構いませんよね。」

(…ヘルプとデート?)

「はい。」

(何を言ってるんだ?)

「そこまでおかしな事ですか?」

(おかしいだろ。そもそもヘルプとデートはできないだろ。)

「実際にはあなたが1人で行動することになりますね。」

(…それってデートか?)

「認識が大切です。デートと当事者が認識すればそれはデートです。」


 まぁ、それでいいならいいか。


(それで行きたいところとかあるのか?)

「何処へでも構いません。依頼を受けても、店を巡り続けても、ただこのまま話をしているだけでも。ただ、私の為に時間を割いてくれるのなら構いません。」

(本当になんでもいいんだな…俺からしたらすごい困るんだが。)

「そうですか。では、森林浴にしましょう。」

(いきなりだな。)

「あなたもお疲れですからね。1日中癒されてはいかがでしょう。」

(ヘルプがいいならそうするか。)

「ネックレスは先に買ってくださいね。」

(昨日、明日には閉めるって言ってたな。)

「はい。あなたの準備が終わり次第向かいましょう。」


 リビングに向かい、レイラが作った朝食を食べる。


「ご主人様は今日はどうされるんですか?」

「今日も出かけてくるよ。」

「昼食はどうしますか?」

「俺の分は必要ないから、みんなで食べててくれ。」

「わかりました。」


 朝食を食べ終え、準備も終えると、早速いつもの店へ向かう。


「あれ?お客さん。今日も来たの?」

「ああ。ちょっとな。今日はお一人で?」

「まぁ、そうだな。」

「そうですか。」


(ヘルプ、どれかいいのあるか?)

「はい。左の棚の2段目。左端から4番目のものにしましょう。」

(2段目の左から4番目…この白いやつか?)

「はい。パールです。」

(パールって、真珠か?)

「はい。真珠です。天然物ですから、これにしましょう。」

(わかった。)


「これを2つくれるか?」

「速いですね。はい。えっと、ああ…こちら少々高くなっておりますが大丈夫ですか?紋貨3枚になります。」

「ああ。大丈夫だ。はい。」


 代金を手渡し、ネックレスを受け取る。立ち去ろうとしたところで店員に声を掛けられる。


「ここを贔屓にしてもらってありがとうございました。」

「そうだな。ここ最近は毎日世話になってたな。」

「私は普段テレサ王国で店を構えておりますので、もし寄ることがあったら是非ご贔屓に。そちらでしたら多少勉強させていただけるので。」

「機会があったらな。」

「はい。是非に。」


 店から離れ、路地に入る。


(森林浴ってどこにするんだ?)

「そうですね。私に任せてください。」


 ヘルプの言葉と共に周りの景色が変わっていた。


(ここに来たことあったか?)

「いえ、ありませんよ。」

(まぁ、いいか。というか、今更だけど、森林浴って何するんだ?)

「とりあえず、その木株に腰掛けてはどうですか。」

(ああ。)

「心配せずとも浄化しておいたので大丈夫ですよ。」

(浄化?新しいやつか。)

「はい。他にもありますから今日の夜にでも確認してください。」

(ああ。そういえば、ヘルプのネックレスってどうすればいいんだ?」

「あなたが掛けておいてください。」

(わかった。)

「そういえば、何故全員ネックレスにしたのですか?」

(ん?理由なんて無いけど。)

「いっそ1つにまとめてもいいかもしれませんね。沢山あっては邪魔でしょう。」

(邪魔っていうか、まぁそうだな。1つにしてもいいかもしれない。もちろん他のみんなにも確認してからだが。)

「私は構いません。」

(わかった。)

「…」


 会話が止まり、周りの音が自然と耳に入ってくる。風で葉が揺れる音、鳥の鳴き声、川のせせらぎの音。普段意識しない音に穏やかな気分になる。


「…突然ですが、あなたに1つお願いがあります。」

「ん?なんだ?」

「今まで伝えていませんでしたが、あなたをこの世界に召喚したのはメルニア王国の第2王女、ウィチア・ファイルムという人物ですが、現在、現メルニア王の屋敷に幽閉されています。」

「幽閉?」

「はい。そして、ここからは私の願いなのですが、その第2王女、元ですが、救ってあげてはくれませんか?」

「救う?俺が?」

「はい。」

「…どうしてだ?俺が救う義理はあるのか?」

「いえ、ありません。ですから、これは私の望みです。」

「理由を聞かせてくれるか?」

「理由、ですか。…あなたに影響されてしまいました。」

「俺に?」

「はい。あなたの優しさに。おかげで、その元第2王女のことを不憫に感じてしまいました。」

「不憫に?」

「彼女はあなたが出会った人の中で、かなり上位に位置するほど、正直で、優しい子です。」

「優しい?」

「今からこの子のことを説明します。」



 ヘルプから聞いた第2王女の過去は王女とは思えないものだった。親からは見放され、騎士からも見下され、友人から裏切られる。扱いも王女にする扱いではない。そんな中で、親であるメルニア王に認められようと努力し、訓練後の騎士に声を掛け、裏切られた友人を赦す。

 優しいというよりは甘いと感じた。

 そして、何も知らされないまま召喚を行い、現在は死亡したということになり幽閉されているという。


「そんなことになっていたのか…」

「はい。ですが、私から願ってしまいましたが、最終的な判断はあなたに任せます。」

「俺に?」

「はい。召喚で被害を被ったのはあなたですから。」

「…」

「頭の片隅にでも置いておいてくれれば、構いません。幽閉といっても餓死するほどの扱いではありません。殺されるという可能性も現在は低いでしょう。気が向いたらでいいので考えておいてください。」

「ああ。…なぁ、ヘルプ。」

「はい。」

「ちょうど召喚の話が出て、ふと思ったことがあるんだ。それを聞いてもいいか?

「…はい。どうしましたか?」


 周りには人もいないので、声に出して言う。




「もしかして、俺ってもう元の世界に帰れるんじゃないか?」




「…はい。帰れます。あなたが望めば。」

「やっぱりか。」

「…」


 暫く無言の時間が続いた。


「なぁ、ヘルプ。」

「はい。」

「俺、元の世界に戻るために頑張ってきたつもりだったんだ。」

「はい。」

「両親とか、世話になった人とかもいるからさ。」

「はい。」

「それに、みんなも連れて行けるんだろ?」

「はい。」

「だよな。だったら、もう帰ってもいいんはずだよな。」

「…はい。」

「…でも、帰りたく無いって気持ちがあるんだ。」

「はい。」

「帰るべき世界は向こうなのに、こっちが楽しくて帰りたく無いって気持ちがあるんだ。」

「はい。」

「行き来できるとしても、一度向こうに帰ったら、こっちに戻ってこようとはしないかもしれない。かといって、ずっとここにいるのかと言われてもそれは違うと思う。」

「はい。」

「これって、どうなんだ?」

「…」

「やっぱり、悪いことか?」

「…」

「…」

「…さあ、どうでしょうね。」

「…」

「私にはわかりませんが、あなたに1つだけ言えるとしたら、」

「…」

「結論を急いで欲しくありません。」

「…」

「時間はあります。ゆっくり、ゆっくり考えてください。」

「でも、それって結局、後回しにしてるだけで解決しないってことだろ?」

「そうですね。ですが、それでいいんですよ。」

「…でも、」

「大丈夫です。私も、あの子達もあなたの為に尽力することに躊躇わないでしょう。あなたが悩んでいるのなら、私達も同じく悩み、あなたが困っているのなら、全力であなたが困る原因を取り除こうとするでしょう。そうやって、あなたの為に時間を作ります。そして、あなたの結論を待ちますよ。」

「…」

「ですから、今は忘れましょう。折角の森林浴です。」

「…ああ。そうだな。今日はヘルプとのデートなのに落ち込んでたら駄目だな。」

「そうですね。」


 目を瞑り、再び耳を澄ませ、自然の音に包まれる。最初から悩んでなどいなかったかのように、心は落ち着いていった。

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