第114話 デート リリファ
遅くなって申し訳ありません。
目を覚まし、2階に降りると、レイラが朝食を作っていた。
「おはよう、レイラ。」
「おはようございます。」
「何か手伝うことあるか?」
「あっ、じゃあお皿を取ってくれますか?ちょっと手が離せなくて。」
「この大きさでいいのか?」
「はい。ありがとうございます。」
レイラがその皿に朝食を盛り付ける。
「ありがとうございます。あれ?そういえばご主人様だけですか?」
「ん?ああ。」
「そうですか。なら、リリファさんを起こして来ます。お皿を並べて置いてもらえますか?」
「ああ。」
「おはよ〜。」
「あっ、おはようございます。」
レイラが起こしに行こうとしたところでリリファがやって来た。
「おはよう。…なんか元気なくないか?」
「いや〜、その、ちょっとね。」
「まぁ、いいか。食べたら早速出かけるんだろ?」
「…うん。」
「なら、早速食べよう。」
話している間に、レイラと料理を並べ終えた。
リリファと俺はすぐに食べ始める。
朝食を食べ終えると、早速外に出たのだが、リリファが何も話さない。
(さっきも元気がなかったからな。)
「無理しなくてもいいんだぞ?」
「無理は、してないんだけど…その、タケルにこういうこというのもどうかと思うんだけど…眠い。」
「…なんというか、いつも通りだな。」
「いや、いつも通りではないんだよ?どこに行くか考えてて…」
「ああ、なるほど。で、どこに行くんだ?」
「その、ごめん。思いつかなかった。」
「そうか。なら、今から決めるか。リリファと行く場所ねぇ…」
(無難に屋台のある通りに行けばいいか?)
「リリファ、…おい。」
「はっ!寝てない、寝てないよ?」
「立ったまま寝てたぞ…少し寝てから行くか。そうしないと、楽しめるものも楽しめないだろ。」
「その、ごめんね?」
リリファの目が潤んでいた。
「気にするな。眠気は仕方がないし…そうだ。」
「ん?どうかしたの?」
「いや、いいことを思いついてな。」
リリファの手を掴み、転移する。
「ここって、山?」
「ああ。ラン達が作った山だ。ちょうど草原も作ってくれたみたいだし、ちょうどいいだろ?」
「うん…寝転がったら気持ち良さそう…」
「あそこに木があるから移動するぞ。」
眠気が覚めたら意味がないので、転移を使う。
ランの趣味で草原の中に1本だけ植えられた木の下は、木漏れ日の差す程度で、眩しくはない。
「…それで、タケルはあたしをここで寝かせるの?」
「ああ。少ししてみたい事があったんだ。」
俺は胡座をかくようにして座る。
「タケル?」
「ん?正座の方が良かったか?」
「いや、どういう事?」
「膝枕?」
「…それって膝枕なの?というか、普通女の子が男の子するものじゃない?」
「試してみたかったんだ。」
「…そう。変なの。まぁ、ありがたく使わせてもらうけど…」
リリファは俺の足の受けに頭を乗せる。
仰向けになるような体勢だ。
「…どうだ?」
「…う〜ん。」
気に入らなかったらしい。
まあ、男女の違いで柔らかさも違うだろうからな。
リリファは位置をずらしていたが、良い位置がなかったらしい。
次は頭を横に向けた。
「あっ、これなら、いいかも…」
耳かきをするような体勢だ。
「今度はどうだ?」
「うん…今度は…眠れそう…」
呟くように言って、すぐに眠ってしまった。
よほど眠かったらしい。
(さて、俺はどうするか…)
リリファが起きたらどこに行くのがいいだろう?
(そういえばリリファには武器を買ってなかったな。)
結局リリファも選んでいないし。
デートに行くのはどうかとも思うが、候補には入れておこう。
(ネックレスは絶対として…魔物を倒しに行くとか?…デートっぽくないな。やっぱり屋台を見て回る方がいいか。)
そんなことを考えながら、リリファを見る。
安らかな寝顔だ。
髪を梳くように撫でる。
(気持ちいいな…癖になりそうだ。)
サラサラとした髪は指の間をすり抜けるかのように落ちて行く。
しばらく撫で、今度は頰を指で軽く突いた。
(やっぱり俺とは違うな。)
女顔と言われることもあったが、肌はまるで別物だ。
(柔らかい…)
何度か頰をつついていると、くすぐったかったのか、リリファの手が頰をつつく手を軽く掴んだ。
子供みたいだな。
頰をつつく手を止め、おとなしく掴まれたままにしておく。
もう片方の手で再び髪を撫でていると、こちらまで眠くなってきた。
(少しならいいか…)
「ぅ…」
目を覚ますとタケルの顔が目の前にあった。
(そういえば、あのまま寝ちゃったんだっけ…)
「って、え!?」
寝ている間にタケルの手を握っていたみたい。
握り方がまるで赤ちゃんのようだ。
(恥ずかしい…)
同い年の男の子にこんな風に甘えるなんて…
「タケル、ごめ…って、寝てる?」
あたしが慌てているのに動く様子がない。
(とりあえず…起きる?)
起き上がろうとすると、頭にも手が置かれていることに気づいた。
(どうしよう…恥ずかしいけど、このままでいいかな…?)
タケルの顔を見つめる。
(まだ起きないよね?何かいたずらとかしちゃおっかな…)
そんなことを考えていると、タケルの顔が迫ってきた。
(えっ!ちょっと、タケル?)
このまま触れてしまうかもしれない。
恥ずかしさのあまり、あたしは目を閉じた。
目を覚ますと、リリファの顔が目の前にあった。
「お、おはよう…」
リリファの顔が真っ赤になっていた。
寝ている間に体が前に傾いていたらしい。
「ああ、おはよう。よく眠れたか?」
「う、うん。そ、そろそろ移動しない?」
「そうだな。次はどこに行こうか。」
「そんなに時間もないし、屋台に行こう?」
「…そうだな。」
結構長い間寝ていたらしい。
陽も傾いてきている。
すぐに屋台へ向かった。
転移していつもの屋台へ向かう。
リリファはすぐに商品を見定め始めた。
「いらっしゃい、今日も来たんだね。」
「はい。まぁ、今日で最後かもしれないが。」
「ここも明日には閉じちゃうからちょうどよかったね。」
「そうなのか?」
「別の場所に移ろうかと思ってね。」
「そうか。頑張ってくれ。」
「ありがとう。それより、あの子がこっち見てるよ。」
店員の目線の先にはリリファがいた。
「タケル、何話してたの?」
「…ちょっとな。それよりいいものは見つかったか?」
「あたしにはどれがいいとかわからないから、タケルに決めて欲しいな。」
「そう言われてもな。リリファの好きな色のものでいいんじゃないか?」
「あたしの好きな色…う〜ん、特にないよ。」
「そうか…何か気になるものはないのか?」
「ない、かな?」
「なら、他の場所に行くか?ここ以外にもあるかもしれない。」
(この店で買わなきゃいけないわけでもないしな。)
「気に入ったのはなかった?」
「そうだな。別の場所で買うことにするよ。」
「別の場所か…ちょっと待っててね。」
店員はそう言うと、商品の台になっているところから何かを取り出した。
「この中ならどう?そこにはなかったも思うけど。」
「どうして出してなかったんだ?」
「こっちのは貴族とか常連客用なんだよ。まぁ、あなたも常連客みたいなものでしょ。」
リリファに気を使ってなのか、後半の部分は声を潜めて言った。
「どうだ、リリファ?気に入ったのあるか?」
「えっと…これかな。」
リリファが選んだのは青緑色の宝石がついたネックレスだった。
試しにリリファの首の位置に合わせてみる。
「いいと思うぞ。似合ってる。」
「本当?なら、これにするよ。」
リリファの選んだネックレスを2つ持ち、店員に渡す。
「水紅石のネックレスだね。2つで紋貨6枚だけど大丈夫?」
「大丈夫だ。」
代金を渡し、商品を受け取って屋台から離れる。
「そろそろ帰らなきゃだね。」
「…そうだな。」
「そうだ、タケル。畑に転移してくれる?」
「なんでだ?」
「ちょっとね。」
「まぁ、いいけどな。」
転移魔法を使い、庭先に転移した。
転移すると、リリファがこちらを振り向いた。
「タケル、今日はごめんね。」
「何がだ?」
「ほら、あたしが長い時間寝ちゃったから。」
「それなら、俺も寝て悪かった。」
「あたしの方が先に寝たからだし、いいよ。でも、また、デートしようね。」
「ああ。そうだな。」
(なんだかんだ言って、リリファが寝ている間も楽しかったからな。)
「次は行く場所も考えておくし、早めに寝るから。」
「ああ。楽しみにしてるよ。」
「ありがとう。じゃあ、ネックレス、着けてくれる?」
「ああ。」
リリファの首にネックレスをかける。
「私からもね。」
首にネックレスをかけられる。
「ありがとうね。」
「こちらこそ。」
「タケルには沢山わがまま聞いてもらってるよね。」
「別に構わないぞ。それに、リリファも畑を頑張ってもらってるからな。あっ、そういえば、リリファも赤魔柑食べるか?」
「みんなに人気だったよね。うん、今はいいや。今度は一緒に畑仕事するときに食べようよ。」
「わかった。」
「タケル、改めてありがとうね。私達をここに住まわせてくれて。」
「今更だな。それに、感謝も必要ないぞ。俺もリリファと居たいからな。だから、わがままだってなんでも何個でも言ってくれ。できる限りは叶えたい。」
「そっか。なら、早速わがままを叶えてもらうね。」
そう言うや否やリリファの手が首に回り、唇を押し付けられる。
いきなりで驚いたが、俺からもリリファを抱きしめる。
「…タケル…」
リリファが呟いたかと思うと、唇の間から何かが口内に入り込んできた。
「ん!?」
驚きで目を開けると、リリファが目を潤ませこちらを見ていた。
「んっ…」
リリファの唇が離れる。
「リリファ、今の…」
俺の言葉はリリファの言葉に遮られた。
「ありがとう、タケル。大好きだよ。」
再び軽く唇を触れ合わせ、リリファは家の中へ入っていった。