第112話 デート ソリビア
投稿が遅れてしまいすみません。
今回はソリビアとのデートです。
朝、ベッドから起き上がり、部屋から出ようと扉を開ける。
「タケル殿。」
「うわっ!?」
目の前にいきなり現れたソリビアに驚いた。
「お、おはよう。ソリビア。」
「おはようございます。」
「扉の前で待ってたのか。何か用か?」
「…今日は私とのデートのはずだが。」
「ああ。それが関係あるのか?」
「…早く朝食を食べるぞ。」
ソリビアに手を引かれ転移部屋から2階に降りる。
いつも通りレイラとスメノスがいる。
「おはようございます、ご主人様。」
「…おはよう。」
「おはよう、2人とも。」
「ソリビアさんもおはようございます。」
「おはようございます。」
レイラから朝食を受け取る。
「そういえば。」
対面に座っているソリビアに話しかける。
「なんだ?」
「ソリビアの普段の口調は普通なのに、どうして挨拶の時は丁寧になるんだ?」
「…意識していなかったな。癖だろうか。」
「騎士団の時も挨拶は丁寧だったのか?」
「当然、目上の人には挨拶も丁寧だが、それは口調にも言えることだな。こんな中途半端ではなかったはずだ。」
「まぁ、別に困るわけじゃないからいいんだけどな。」
再び朝食を口に運ぶ。
「ち、ちなみにだが。」
「ん?」
「タケル殿は普段の口調と丁寧な口調のどちらが良いと思うだろうか。」
「普段の口調と丁寧な口調か…」
(普段の口調の方が堅苦しくなくていいよな。でも、試しに…)
「丁寧な口調だな。」
「わかりました。これからはこのような口調で生活していきたいと思います。」
(この口調…ヘルプみたいだな。)
「複数の相違点があります。全て挙げていきましょうか?」
(そこまで同じのが嫌なのか。)
「ソリビア、冗談だ。普段の口調の方がいい。」
「…そうか。私もこちらの方が好みだ。」
朝食を食べ終え、家を出る。
「さて、ソリビア、いきたい場所はあるか?」
「ああ。行き先は決めているんだ。付いてきてくれ。」
そのままソリビアは歩き出してしまう。
(忘れているのか?)
いや、しなければいけないわけではないし、ただ恥ずかしいだけかもしれないが。
こちらからソリビアの手を握る。
ソリビアは顔を赤くし、目を見開いてこちらに振り返る。
「駄目だったか?」
「いや、駄目ではない。私も繫ごうかとも思ったからな。だが、恥ずかしさに負けてしまった。」
「なら、離すか?」
手を握る力を緩めると、ソリビアの手が離さないとばかりに手に力を込め、そのまま歩き出す。
「せ、せっかくなんだ。このままでいい。」
「そうか。なら、このまま行くか。それで、行き先ってどこなんだ?」
「ま、まぁ、とりあえず着いてきてくれ。」
どもったが、何かやましいことでもあるのだろうか?
「ここが目的地だ。」
ソリビアに連れられて、屋敷の目の前に来た。
「ここは、なんの屋敷だ?」
「その、私の家だ。」
「え?」
「その…父には伝えておこうと思ってな。」
「え、何をだ?」
「私が騎士団を脱退したこと、タケル殿の屋敷に住むこと、そして、私がタケル殿に好意を抱いていることだ。」
(直接言われると、恥ずかしいな。)
「その、最初の2つはともかく最後のは必要ないんじゃないか?」
「いや、私にとっては最後こそ、1番父に伝えたいことだ。」
「そ、そうか。」
「中に入ろう。」
ソリビアに連れられて屋敷の中へ入る。
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
(おぉ、執事だ。)
「ああ。ただいま。お父様はいるか?」
「はい。ですが、現在は執務の最中でして。」
「そうか。なら、執務室だな。大事な用なんだ。」
その言葉に執事がこちらを見る。
「…左様でございますか。」
「ああ。すまない、タケル殿。客室で待っていてくれるか。」
「それは構わないが、場所が…」
「私におまかせくださいませ。」
「ああ。頼んだぞ。」
ソリビアは廊下を歩いて行ってしまった。
「こちらになります。」
執事に連れられて、客室にやってくる。
「どうぞ。紅茶でよろしかったですかな。」
「大丈夫です。」
一口飲み、気になっていたことを質問する。
「どうして俺達が来るってわかったんだ?」
「お嬢様が呼び鈴を鳴らされましたから。」
「そうだったのか?全然気がつかなかった。」
会話が途切れる。
無言の中で後ろに人がいるというのが落ち着かない。
何度も紅茶を口に運び、無くなると執事が注いでくれる。
暫くして、扉が開いた。
「あらあら、可愛い子ね〜」
現れた女性は口元を手で隠しながら笑う。
「えっと、どちら様ですか?」
「あらあら、ごめんなさい。私ったら、思わず興奮してしまったわ。」
その女性は1つ咳払いをし、言葉を続けた。
「私はソリビアの母です。娘がお世話になっています。」
「ソリビアの…?こちらこそお世話になっています。」
確かに言われてみればソリビアと同じ金髪をしているし、目元なども似ている。
だが、母親というにはとても若く見える。
ソリビアの姉と言われても違和感がない。
気がつくと、こちらを見つめていた。
「…何か?」
「いえ、ところで貴方の名前は何というのでしょうか?」
「あっ、失礼しました。タケルです。」
最初に伝えるべきだった。
「タケルさん…ところで、おいくつなのでしょう?」
「現在は15です。」
「15歳ですか。あの子とは6歳差。問題ないですね。」
1人納得したように頷いている。
「えっと…?」
「娘をよろしくお願いいたします。」
「はい?」
話が急過ぎて理解できない。
「あの子が自分で選んだのなら問題はありません。そうだ、少し待っていてください。あの子の昔の姿を記録した魔法具を持ってきますね。」
そう言うと、部屋から出て行ってしまった。
(…ソリビアの母親は賑やかな人だな。そういえば、ソリビアはまだ来ないのか?何か問題でもあったのだろうか?)
部屋に向かうだけにしては遅い気がする。
(まぁ、俺には待つことしか出来ないからな。)
「もう暫くお待ちください。」
背後から聞こえてきた声に驚く。
(忘れてた…)
誤魔化すように紅茶を飲む。
(ソリビア、できるだけ早く来てくれ…)
再び扉が開く。
「すまない。待たせたな。」
そこには着替えたソリビアと1人の男性がいた。
ソリビアの父親だろう。
「…ソリビアが世話になっているようだな。」
「こちらこそお世話になっています。」
ソリビアは俺の隣に、ソリビアの父親はその対面に座った。
「それで?結婚を認めろという話だったか?」
「は?」
「ですから、何度も違うと言いました。」
「だが、その男の家に住むのだろう?」
「そうですが?」
「…」
一度無言になり、こちらを見る。
「もう少し年の近い者を選んだらどうなんだ。」
「なっ!?お父様とお母様は7歳差です!私達よりも差が大きいでしょう!」
「7歳差と言っても私の方が年上だろう。何より私が結婚したのはトリネが21歳の時だ。」
「それならば良いではないですか!私ももう21です。」
(トリネってさっきのソリビアの母親の名前か?と言うよりも、何故結婚する前提で話してるんだ?)
2人が言い争っていると、扉が開いた。
「タケルさん、持って来ましたよ。」
「「お母様(トリネ)!?」」
「お二人とも何を言いあっていたの?」
ソリビアの母親が俺の対面に座りながら尋ねる。
「いえ、それよりもお母様?何故タケル殿のことを?」
「先程少しお話しして、これを持って来るために席を外したのよ。」
「それ、は…駄目です、お母様!」
「良いじゃない。昔のことも知っておいてもらった方が長続きすると思うわよ。」
「トリネ、待つんだ。」
ソリビアの父親が止めた。
「お前からも言ってやってくれ。ソリビアがこんなに若い男と…」
「やっとソルちゃんにも良い人ができたのよ?」
「良い人なら他にも見つかるだろう。この前だってソリビアと婚約を申し込んでくる者もいたではないか。」
「お父様、その話はお断りしたはずですが?」
「一度も会わずに答えを急ぐべきではない。贈り物も貰っているのに。」
「私宛の物は送り返すように頼みましたよね?」
「先方に失礼ではないか。贈り物の中にも、洋服や香水などもあったのだから、ありがたく貰っておけば良いではないか。」
「それこそ、見ず知らずの人からの贈り物など怖くて使えない。」
また2人で言い争いを始めてしまった。
「魔法具は止められてしまったし、私達も話しましょうか。」
「…え、ええ。」
マイペースな人だ。
「あっ、私のことはトリネでいいわよ。」
「はい。トリネさん。」
「あっ、お義母さんでもいいわよ。」
「それは、その…」
お義母さんと呼ぶと言うことは結婚すると言うことで…
顔が熱くなってきた。
その様子を見てか、トリネさんは微笑んでいる。
顔の熱が引いた頃にトリネさんが質問してきた。
「ところで、タケルさんはソルちゃんと何処で会ったの?」
「ソリビアは、王子の命令で俺を尋ねてきたんですよ。」
「まぁ!もしかして、正式に王位継承権を剥奪された?」
「えっ!そうなんですか?」
初耳だった。
「ええ。前から問題も起こしていたようだし、当然かもしれないわね。…これを言ったのはまずかったかしら?」
冗談めかして笑う。
「この前、騎士団から連絡があってね、ソルちゃんの騎士団の団員さんは別の騎士団に移動することになったらしいの。ソルちゃんは優秀だったみたいで3つの騎士団からお誘いが来たのよ?」
「そうだったんですか。」
「お返事は待って貰っていたけど、もう必要ないわね。」
「…良いんですか?」
意味が伝わらなかったようで、首を傾げられる。
「騎士として生きる方が良いのではないですか?」
「うふふ、まだこう言うところはやっぱり子供なのね。年齢の割に落ち着いていたから、安心したわ。」
「それは、どういう?」
「女の子にとって一番良い生き方は愛する人とずっと一緒にいることよ。」
「ですけど、俺は冒険者です。自分でも冒険者の中ではかなり稼いでいる方だとは思っていますが、騎士の方が安定した生活を送れるのではないですか?」
「そうね。確かにそうかもしれないわ。安定した生き方のほうが安心だもの。」
「それなら。」
「でも、感情はどうにもならないわ。どれだけ稼ぎが少なくても、愛してしまったなら関係ないわ。」
「…」
(…そうか。)
「ごめんなさいね。説教みたいになってしまって。」
「いえ。とてもためになりました。」
「そう。それなら良かったわ。」
未だに2人は言い争いを続けている。
「タケルさんは冒険者って言ってたわよね?」
「はい。」
「なら、ソルちゃんも役に立てるわね。騎士だったのだからどんどん使ってあげてね。」
「はい。」
「私は冒険者と言うものに詳しくないけれど、魔物を倒してくださっているのよね?タケルさんは今まで1人だったのかしら?」
「いえ、他にも何人か。」
「全員女性なのかしら?」
「ええ。まぁ。」
「あら、タケルさんも男の子なのね。もしかしてソルちゃん以外にもタケルさんを好きな方がいるのかしら。」
「…っ。」
最近の一人一人の告白を思い出し照れてしまう。
「…うふふ。じゃあ、頑張って稼いで、全員をお嫁さんにするのね。賑やかで楽しそうね。」
(さっきから物凄く恥ずかしいんだが…)
「ソルちゃんをよろしくね。騎士だったから誤解されやすいかもしれないけど、女の子らしいところもちゃんとあるから安心してね。」
「はい。俺とソリビアは会って間もないですから、これから知っていこうと思います。」
「そう。そう言ってもらえれば安心ね。あっ、どうぞ食べて。美味しいわよ。」
いつの間にかテーブルに置かれていたお菓子を頂く。
「美味しいですね。」
「そうよね。私もお気に入りなのよ。」
「タケル殿。」
不意にソリビアに名前を呼ばれた。
「どうかしたか?」
「その、すまないがお金を出してくれないか?」
「は?」
「いきなりで済まないがその…」
ソリビアはソリビアの父親の方に視線を移す。
「ソリビアよりも強いのだろう?そして冒険者をしているなら金も持っているはずだ。大した額を持っていないなら、当然ソリビアは任せられない。」
「と、言うわけなんだ。だから、すまない。」
「いや、そのくらいなら。」
《空間魔法》からお金を取り出す。
「あっ。」
出している途中に金貨や銀貨をそのまま受け取っていたことに気づいてしまった。
止めることもできず、数千枚の硬貨がテーブルの上に置かれた。
一部は勢いでテーブルから落ちてしまっていた。
「こ、これは…」
ソリビアの父親は目を丸くしている。
トリネさんは、落ちた硬貨を拾っていた。
「あら、これは光貨ね。」
「なっ!?」
ソリビアの父親が勢い良くトリネさんの方を向いた。
「冒険者がこれほどの額を…?」
「タケルさんは15歳なのよね?いつから貯めていたの?」
「タケル殿はこのくらいなら1日で稼いでしまう。」
「なっ!?これを1日でだと!?」
何故ソリビアは呆れたように言った?
「凄いのね、タケルさん。私もこんな将来有望な息子を持てるなんて嬉しいわ。」
「私はまだ認めていないぞ!この2人が結託して私達を騙している可能性もある。」
「もう、いつまで駄々こねてるのよ。」
そう言うとトリネさんは立ち上がり、ソリビアの父親の腕を引っ張った。
「お、おい!」
「タケルさん、今日はありがとう。会えて嬉しかったわ。またいつでも尋ねてらっしゃい。それと、ソルちゃん、他の子に負けないように頑張るのよ?」
「…は、はい!お母様!」
トリネさんは微笑みながら頷き、ソリビアの父親を連れて出ていった。
扉が閉まった後、先程の返事の意味を理解し、ソリビアは顔を赤くしていた。
「タケル殿、今日はありがとう。」
「いや、確かに驚いたが、トリネさんとの話は楽しかったからな。」
「そういえばお母様と仲良くなっていたな。…ま、まさか、お母様のことを…?」
「いや、飛躍しすぎだろ!」
「そ、そうだな。すまない。」
再び手を繋ぐ。
「さて、デートの続きを、って言ってももうそろそろ時間だな。」
「私が時間を使ってしまったから…」
「気にするな。今日はソリビアとの時間だったからな。」
「そうだな。タケル殿とのことをお母様が認めてくれて、嬉しく…あっ!」
「いきなりどうした?」
「私、ネックレス買ってもらってないし、も赤魔柑も食べてない…」
「そんなことか。」
「そんなことじゃない!大切なことだ。」
「わ、わかったから。少しくらいなら遅れても平気だろ。」
《転移魔法》を使い、ネックレスを売っている屋台の近くの路地に移動する。
「ほら、行くぞ。」
「ああ。」
屋台へ行くと昨日と同じ店員だった。
「昨日の…あっ、いらっしゃい。」
俺のことを覚えているようだったが、隣にいるソリビアを見て言葉を止めたようだ。
「ソリビア、どれか良いのはあるか?」
「私はネックレスの価値はわからないからな。直感で…これだな。」
ソリビアが選んだのは緑色の石が付いたネックレスだ。
色の濃淡がとても綺麗に見える。
「はい。2つで金貨6枚ね。」
代金を払い、その場を後にした。
路地から転移し、家まで歩く。
「ソリビアには申し訳ないけど、このまま食べるか?」
歩きながらだから少し行儀が悪いかもしれないが。
「ああ。このまま食べよう。」
赤魔柑を取り出し、ソリビアに渡す。
「これは、いいな。」
「美味しかったなら、良かった。」
「ああ。それもあるが、2人で歩きながらと言うことがだ。休日に男女がこのようなことをしていて行儀が悪いと思っていたが…」
また一口赤魔柑を食べる。
「なるほど。これほど幸せな気持ちになるのか。」
(聞いているこちらが恥ずかしい。)
ソリビアの頰も赤く染まっているが。
「次は食べさせ合いもしてみたいが、それは次の機会だな。良いだろうか?」
「ああ。もちろんだ。」
「そうか。」
家に着くまでに赤魔柑を食べ終えることができた。
玄関の前でソリビアが膝を曲げて、腰を低くした。
そして、俺の手の甲にソリビアの唇が触れた。
「そ、ソリビア!?」
「これは、忠誠の証だ。そして、」
ソリビアが立ち上がり、俺の背中に手を回す。
突然のことに驚いたが俺もソリビアの背中に手を回す。
ソリビアの顔を見上げた瞬間、ソリビアの顔は迫ってきており、唇にも柔らかい感触が触れた。
「これが、愛の証だ。」
そう言って微笑んだソリビアの顔に大人らしさを感じ顔が赤くなる。
「今日はありがとう。とても楽しかった。」
そう言ってソリビアは家に入っていった。
その姿を見送り、俺は暫くの間、顔の火照りが止むのを待っていた。
楽しんでいただけたでしょうか?
ソリビアの母親との会話が多かったですかね。
次回はリリファの視点になります。