第111話 デート報告 ルティ
ソリビア視点です。
タケル殿とルティ殿が帰宅した。
ルティ殿の顔を伺うに、満足のいくデートだったようだ。
明日は私の番だったな。
デートは初めてだが、緊張しないようにしなければ。
慌てると素の口調に…
(ん?というより、もう素の口調でも良い?)
私はもう王国に仕えている訳ではない。
タケル殿の許しを得たら口調を治すことにしよう。
(治すというよりは『戻す』だけどね。)
私は騎士になってからもう3年は経つ。
それほど経てば口調も乱れることは少なくなった。
(まだ慌てると戻っちゃうけど。)
いや、タケル殿と会ってからは多い気がするが、今まではこれほど多くなかったのだ。
(怖かったな…初めて魔物と戦った時の比じゃなかった。思わず漏らーー)
言い訳と思い出すことを止めよう。
傷口を抉るだけだ。
(でも、初めて会った時から…)
タケル殿は王子からの命令だというのに従おうとはしなかった。
3年間も騎士をしていれば、今回の件に似た案件も多々あった。
だが、タケル殿のように命令を覆したような方はいなかった。
抵抗をしようとする者自体が少数であったし、最初は抵抗していても、数人の騎士でもう一度尋ねるだけで、抵抗をやめた。
今回は魔物が多くいたため、私の所属している騎士団総員で向かった。
それでもタケル殿は従おうとはしなかった。
その時に私はなんて凄い人なんだろうと思った。
私は親の命令にすら逆らえず、騎士になり、嫌々ながらも続ける以外の選択肢を諦めていたというのに、王子の命令に逆らえる人間がいるのかと。
騎士団総員で向かっている時も、私はタケル殿に会えると胸が高鳴っていた。
この感情が恋慕であるのか、尊敬であるのかはまだわからない。
なにぶん初めての経験なのだ。
誰かに恋い焦がれた経験も、深い尊敬を抱いた経験もないのだ。
だから、明日、確かめようと思う。
(…でも、初めてのデートだし、楽しまなきゃ。)
深く考えていたが、確かめるのはいつでもできる。
だが、初デートは一度きりなのだ。
(明日はどんな服を着て行こうかな…)
「…ソリビア?」
「えっ!?…なんだろうか?」
(また口調が戻っちゃった…)
「いや、なんかぼーっとして食べてなかったからな。どうかしたのか?」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ。」
「そうか。」
そう言ってタケル殿は夕食を食べ始めた。
私はタケル殿の顔を眺める。
今更だが、こうしてタケル殿の顔をまじまじと見たのは初めての事だ。
本人は15歳と言っていたが、もう少し若く見える。
こんなに若い子とデートなどしていいのだろうか?
私も騎士団の中では童顔と言われからかわれていたが、そこまでではないだろう。
(タケルくんからしたら私なんておばさんじゃない…)
今更ながらに歳の差で悩んでしまう。
(いや、ランちゃんとスメノスちゃんの方が年上なんだっけ?)
ラン殿とスメノス殿の方を見る。
実年齢はともかく、少なくとも私より年上には見えない。
(若いというより幼いって顔…)
もしかしてタケル殿は年上は許容範囲外なのだろうか?
(6歳差は、厳しいかなぁ…)
他人から見たらさらに差があるように見えるだろう。
(いや、まだ好きなのかわからないし。尊敬してるだけかもだし。)
今日もまたタケル殿を除いた全員で入浴する。
ルティ殿もネックレスを掛けている。
(いいなぁ…私なんて剣とか防具しか貰ったことないよ…)
貰ったとは言っても父からだが。
(そういえば、タケルくん、王様から何にも貰ってない。忘れてる?)
いや、私以外でだが。
「ルティはたくさん服を買って貰ったんだ。」
「ええ。レイラも買って貰ってたでしょ?」
「私は一着だけにして、またデートしても貰うつもりだから。」
「なるほど。そういう考えもあったわね。」
「あたしはどうしようかな?どっちもいいよね。」
服か。
私は服には困っていない。
「ルティ、綺麗な黄色だね。とっても似合ってると思うよ!」
「ありがとう。ランの青色の宝石も似合ってるわ。」
ネックレスは貰いたいものだ。
(いや、年上として私が買うべき?)
「…黄水晶。意味は、初恋。」
「合ってるわね。」
ルティ殿も安心したように頰を緩ませる。
(私は大丈夫?変な意味のものを選ばないように。いや、まずはタケルくんの世界にもあるものを選びたい。)
(明日はどこへ行こう?タケルくんに任せるのも年上としてどう?年上とか考えないべき?)
私はそのことを夜遅くまで悩むことになった。
ソリビアがくん付け、ちゃん付けをしているのは誤変換ではありません。
次回はソリビアとのデートになります。