第110話 デート ルティ
ルティとのデートです。
朝起きてすぐに冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドの中には職員しかいないようだ。
「タケルさん。」
受付にいたセレナが話し掛けてくる。
「おはよう。」
「はい。おはようございます。ミアから聞いていますよ。」
今はミアがいないようだ。
「今回は、転移スライムが46体、穴蛇が84体、実亀が67体でした。合計で金貨616枚と銀貨4859枚になります。今回はいつにも増して多くないですか?」
「全員で倒してきたからな。」
「全員ですか?いや、ランクが…いえ、タケルさんと一緒にいる方ですからね。」
セレナが呆れたように溜め息をついた。
「今回の代金はどうしますか?」
「そのままくれるか?」
「はい。では、どうぞ。」
代金を受け取って、冒険者ギルドを出る。
人目につかない場所に来てから、《転移魔法》で家に戻った。
「あっ、お帰りなさい。」
部屋に戻るとルティが起きていた。
「もしかして行く時に起こしたか?」
「違うわ。今日はデートだもの。早起きもするわよ。」
(そういえば昨日は早くに寝ていたな。)
楽しみにしていてくれたならこちらとしても嬉しい。
「朝食を食べたら、すぐに行きたいわ。」
「そうだな。どこか行きたい場所はあるか?」
「それは、ごめんなさい。何も思いつかなかったわ。」
「それなら、歩きながら考えればいいか。」
「そうね。もしご主人様に行きたい場所があるなら、そこに行きたいわ。」
「俺はこの世界の事はほとんど知らないからな…」
転移部屋で下の階に下りると、レイラとスメノスがいた。
「あっ、ご主人様おはようございます。」
「おはよう。スメノスもおはよう。」
「…おはよう。」
「レイラ、朝食はできてる?」
「うん、出来てるよ。」
(レイラのその口調を他の人に使っていいと思うけどな。)
レイラは、ルティと話すときだけは丁寧語ではなくなる。
それだけ気を許しているって事だな。
「…たける。」
気がつくとスメノスの声が横から聞こえた。
見ると先程までスメノスが座っていた椅子は空席になっている。
「どうかしたか?」
「…少し。」
スメノスが膝の上に座った。
「スメノス?」
「…うん。これも、いい。」
スメノスは俺の手を前で交差させるように動かした。
ちょうど後ろから抱きしめるような形だ。
スメノスは俺よりは小さいが、膝の上に座られるとスメノスの頭が俺の視界を遮ってしまう。
というか、俺はこの状態で何をすればいいんだ?
仕方がないのでそのまま動かないようにする。
(それにしても…軽いな。)
スメノスの体重のせいなのか俺のステータスのせいなのかはわからないが、そこまで重いと感じない。
軽いとは言ってもやはり感触は伝わる。
「あっ!スメノスさん、何してるんですか!?」
「え?何してるのよ!」
レイラとルティがこちらに気がついたようだ。
俺からは見えないが。
「…満足。」
スメノスが呟き、元の椅子へ戻っていった。
頑張ったな、俺の理性。
「そろそろ朝食を食べないか?」
「そ、そうね。」
朝食を机に運んだ。
朝食を食べ終え、一先ず家を出る。
「さて、どこに行こうか?」
「えっ、えーっと…」
まだ決まっていないようだ。
「とりあえず屋台がある方に行くか?」
「そ、そうね。」
こちらから手を差し出すと、ルティも握り返してくれる。
(やっぱり慣れないな。)
この数日で何度か経験したが、慣れるものではないようだ。
暫く歩いていると、ルティがネックレスを気にしていることに気がつく。
「ルティともお揃いで買おうな。」
「え、ええ。そうしてくれると嬉しいわ。でも…」
声が尻すぼみに小さくなっていった。
「どうかしたか?」
「その、ご主人様は迷惑じゃないのかしら?いくつも首に掛けてたら邪魔に思ったりしないかしら?もしそうなら私はーー」
「そんなことないぞ。」
ルティの言葉を遮るように言った。
「これは1つ1つが思い出として残るからな。俺にとって大切なものだ。だから、幾つになっても邪魔に思ったりはしない。」
ルティの目を見て、ゆっくりと安心させるように言う。
「…そう。なら、私も欲しいわ。大切な思い出になるもの。」
「ああ。結構色の種類もあったから、結構迷うかもしれないな。」
「そうね。でも、迷っている間もきっと幸せよ。」
屋台に着くと、早速ルティがネックレスを手に取って眺め始めた。
ここに来るまでにルティが1番最初に買って貰いたいと言ったため、まずここに立ち寄ることにした。
「ご主人様、これは私に似合うかしら?」
「ああ。似合ってるぞ。と言うよりもルティにはどれも似合う気がするな。」
「それじゃあ決まらないわ。」
ルティは楽しそうに宝石を見ている。
「うーん、そうね。」
今度は俺で試し始めた。
「ご主人様は黒髪だから…これなんてどうかしら。」
ルティが持っているのは黄色の宝石が付いたネックレスだ。
「似合うか?」
「ええ。とっても似合うと思うわ。」
「そうか。なら、これにするか。」
2つのネックレスを店員に渡す。
「雷明石だね。代金は2つで金貨6枚になります。」
代金を渡す。
「今日も頑張ってくださいね、彼氏さん。」
店員は俺のことを覚えていたようだ。
恥ずかしくなり、少し足早にその場を去る。
ルティは不思議そうにしていたが、手を繋いだままなのでしっかりついてきていた。
「ご主人様?」
「どうかしたか?」
「これを、つけてくれないかしら。」
目の前に差し出されたのは先程買ったネックレスだ。
手のひらからネックレスを受け取り、ルティの首にかける。
「嬉しいわ。ご主人様も少し屈んでくれるかしら。」
ルティに言われた通り少し屈むと、首にネックレスが掛けられる。
「ありがとな。」
「ええ。」
お互いに照れながら、屋台を見て回る。
食べ歩きになるが、やはり屋台で食べるものは美味しく感じた。
「次は服を見に行くか?」
「ええ。」
服を売っている店に入る。
「やっぱりルティはドレスとかがいいのか?」
「え?そんなことないわよ。動きづらいだけじゃない。」
「まぁ、そうか?」
「そうよ。裾の広がりによっては歩幅を制限されるもの。」
ルティは商品を手に取り確かめている。
この世界にはスカートのようなものは少ない。
若い人間は男女問わず魔物を倒しているから、露出を多くする必要はない。
それでも存在しているのは飲食店などで客寄せに使えるからだろう。
ルティは2着の服を持ち、見比べている。
ここには糸や針なども売っていたため、買っておく。
「ねぇ、ご主人様。どっちが私に似合うかしら。」
ルティの方へ戻ると、すぐに尋ねられた。
手に持っているのは白色と水色のセーターだと思う。
服の種類には詳しくないからな。
「どっちも似合うと思うぞ?」
個人的に白色は好きな色だ。
だが、服は本人が好きなものを着るべきだと思う。
「そうね。こっちにしようかしら。」
ルティが選んだのは白色の方だった。
「そうか。似合うと思うぞ。」
「ええ。ご主人様はずっとこっちを見ていたもの。」
「そう、なのか?」
無意識だった。
「ご主人様は服を買わないのかしら?」
「俺か?俺は服装にそこまで拘りがないからな。」
「拘りがないなら、私が選んでもいいかしら?」
「ああ。いいぞ。」
「なら、こっちよ。」
ルティに連れられ女性服売り場から男性服売り場へ移動する。
途中で見えた女性用下着で少し顔に熱を持ってしまった。
「ご主人様、顔が赤いわよ?」
「すまん。気にしないでくれ。」
「そう。これはどうかしら?」
ルティに何度も着せ替えさせられながら、2人の服をいくつか購入した。
「結構長くいたみたいだな。」
「そうね。」
「楽しかったか?」
「ええ。もちろんよ。」
手を繋ぎながら家へ向かって歩く。
「あっ!」
家までの帰り道、ルティが突然声をあげた。
「どうかしたか?」
「赤魔柑を食べてない…」
「そんなに楽しみにしてたのか?」
「ええ。」
「なら、今食べるか?」
「いいかしら?」
「ああ。」
「…そこに腰掛けましょう。」
周りにベンチなどがないため、自然の段差に座る。
ルティに赤魔柑を渡すと、こちらまで喜びが伝わってくるようだった。
「美味しいわね…」
ルティが呟く。
「期待に添えたか?」
「期待以上よ。」
「それなら良かった。」
「楽しみにしてたみたいだからな。」
「だから、その、ありがとう。」
言葉と同時に頰に柔らかいものが触れる。
「わ、私からは、恥ずかしいわ。だから、その…」
言葉が消え、ルティが顔を赤くしながら目を閉じる。
俺はルティの肩に手を置き、唇を触れ合わせた。