第108話 デート ラン
遅くなってすみません。
朝食を食べ終え、最初にやってきたのは、ランが住んでいた旧森人族領だった。
ここへ来たのは、ランからの提案で、何をするのかも聞かされていない。
「やっぱり魔物は増えるんだな。」
帝狼や下級竜の姿が伺える。
「主様、こっちだよ!」
ランに手を引かれ、ランが以前暮らしていた洞窟の中を進む。
俺とランは《夜目》が使えるので進むのは問題ない。
所々に骨が散らばっている。
だが、なぜか人間のものらしきものはない。
「なぁ、ランは人間は食べなかったのか?」
「人間なんて食べないよ?」
「そうなのか?魔物って人間を食べるイメージが強いんだが。」
「人間は防具をつけてるから食べにくいし、あと、味の差が激しいんだよ。」
「味なんて一緒じゃないのか?」
食べたことはないからわからないが。
「魔物は魔力で味を感じるんだよ。私は人型になれるから、人間と同じように味が感じられるけど、人型になれなかった子供の頃から食べなかったから、そのままずっと食べてないよ。」
「へぇ、そうなのか。」
「だから、主様は魔物にとっては、とっても美味しく感じるはずだよ。」
「…食べるなよ?」
「食べないよ。私、従魔だよ?…別の意味でなら、食べたいけど。」
「…やめろよ?」
「え?大丈夫だよ?人型の時はほとんど人間と変わらないから。」
「いや、そういうことでもなくて。」
「あっ!大丈夫!私、初めてだし、病気もないよ!」
「そういう問題でもない!」
羞恥心とか無いのか?
だから、恥ずかしげもなく言えるってことか?
「私、主様ならいつでも、あっ、あれがそうだよ。」
洞窟の奥に着いたらしい。
そこには、様々なものが山積みにされていた。
「冒険者から剥ぎ取っておいたんだよ。」
「人間は食べないんじゃなかったのか?」
「食べてないよ?人間は外に出しておけばいつの間にか無くなってるから。」
「それって他の魔物に食べられてるよな!?」
「他の魔物は食べるかも?」
「…」
「で、でも、ほら、私は返り討ちにしただけだから。えっと、自業自得だよ!」
「まぁ、それなら仕方ないような?」
(仕方ない、よな?)
「あれは主様にあげるというか、私は主様の従魔だから主様のものだよ。」
山積みにされている防具や武器。
指輪や硬貨などもある。
「なんのためにこんなに集めてたんだ?」
「売るためだよ?」
「えっ?」
「えっ?」
「…誰に?」
「人間にだよ。」
「…地龍が?」
「流石に地龍のままでは買ってくれないよ。」
「えっと…」
この言い方だと…
「もしかして、ランは俺と《従魔契約》する前から人型になれたのか?」
「なれたよ?」
「そうだったのか…」
(人型になれる地龍…?)
…逆に考えたら竜人族じゃないか?
「なぁ、ランは地龍なんだよな?」
「そうだよ?」
「竜人族じゃないよな?」
「違うよ。」
「なら、良かった。」
人間と《従魔契約》してたなんて問題になるだろうからな。
「ところで、話は戻るけど、何のために防具とかを売ってたんだ?」
「人間の料理は美味しいから、それを食べるためだよ。」
「人型になれば違和感ないからな。」
「初めて行った時は、普通に座っちゃって椅子が壊れちゃったんだよ。」
「あぁ、体重はそのままなんだよな。」
「私が重いわけじゃないよ!地龍だから仕方がないだけだよ。」
「わかってるよ。」
そもそもの体の大きさが違うんだから。
「あの時は周りの人が一斉に笑い出して、恥ずかしかったよ…」
「確かにーー」
えっ?
「恥ずかしい?」
「うん。恥ずかしかったよ?」
「ランには羞恥心とかあるのか?」
「あるよ!?私を何だと思ってるの!?」
だったらさっきは何で恥ずかしくないんだよ!と言いたかったが、さっきの言葉に怒ったのか、そっぽを向いていたので口を噤んだ。
「機嫌を直してくれ。」
「…」
「ランにも羞恥心はあるよな。」
「…」
「俺が悪かったから。」
機嫌を宥めようとするものの、そんな経験がないためうまくいかない。
埒があかないので、直接聞いてみることにした。
「なぁ、どうしたら機嫌が直る?」
(もう少し言い方があるのではないですか?)
「私も、スメノスとレイラみたいなの欲しい。」
「…ネックレスのことか?」
「そう。」
「わかった。じゃあ、行くぞ。」
《転移魔法》を使い、少し屋台から離れた場所に移動して、屋台へ向かう。
「好きなのを選んでくれ。」
「…主様が選んで。」
「え?」
スメノスやレイラと同じようにランが選ぶのかと思っていた。
「選んでくれないなら機嫌は悪いままだよ。」
「わかった。好きな色はあるか?」
「全部主様に任せるよ。」
ヒントは無しか。
ランが好きそうな色…
黄土色とか?
安直すぎるか。
その理屈だと黒髪の人が全員黒色が好きなことになる。
でも、ヒントもないからな…
ひとまず黄土色の宝石が付いたものを探す。
(…ないな。)
薄い黄色の宝石が付いたものはあるが、黄土色のものはない。
(これも悪いものじゃないが…)
ランのイメージとは少し違う気がする。
(何色が好きなんだ?)
ランの方を向くと、こちらを見ていたのか一瞬目が合うがすぐに逸らされてしまった。
(やっぱりヒントは無しだよな…)
「何かお探しですか?」
俺が悩んでいるのを見かねたのか店員が話しかけてきた。
「実はーー」
説明しようとしたところでランの方から視線を感じる。
(駄目ってことか?)
「大丈夫です。」
「そうですか?…あぁ、なるほど。」
店員の視線がランに向けられる。
「恋人への贈り物に人気なのは…」
店員が少し候補を絞ってくれた。
ランも何も言わないため、セーフらしい。
(さて、どれがいい?)
数が少なくなったとはいえ、十数種類ある。
(この中なら…これだな。)
時間はかかってしまったが、決めることができた。
「ラン、これでいいか?」
「主様が選んだならなんでもいいよ!」
「じゃあ、これを2つで。」
「はい。お揃いですか?」
「ああ。」
「若々しくていいですねぇ。」
そこまで歳が離れているようにも見えないが。
「2つで金貨9枚になります。」
「これでいいか?」
金貨も紋貨もなくなってしまったので、光貨を渡す。
「はい。代金の紋貨9枚と金貨1枚になります。」
「ああ。」
お釣りを受け取る。
「そうそう、私は小物、というよりも大きい宝石も売ってるからお釣りを渡せたけど、他の屋台では光貨は受け取って貰えないかもしれないから気をつけて。頑張ってくださいね、彼氏さん。」
「ああ。ご親切に。」
誤解をされているが、気にしない事にした。
「じゃあ、主様。つけて?」
「ああ。」
ランの首にネックレスを掛ける。
今回選んだネックレスは青色の宝石が付いたものだ。
濃いめの青色だったから値段が高めだったのだろうか。
(まぁ、地球に比べればかなり安いが。)
「主様にも掛けるよ。」
ランが俺の手からもう1つのネックレスを取り、俺の首に掛けてくれる。
「似合うか?」
「とっても似合うよ。」
「そうか。ランも似合ってるぞ。」
「当然だよ。主様が選んでくれたんだよ?」
「そうか。ランが喜んでくれてるならいい。」
「主様、そろそろ帰らないとだよ。」
「そうだな。ごめんな、俺が長い時間悩んでたせいで。」
「全然大丈夫だよ!私はこれを貰えただけで十分だよ。」
ネックレスに片手で触れながら言った。
「そうか?…あっ、そういえば。…これ、食べるか?」
「?何これ?」
「赤魔柑だ。」
「主様の?」
「水は俺があげたな。」
「ありがとう!」
そうは言うものの、食べようとはしない。
「食べないのか?」
「勿体無いよ…」
ランは名残惜しいのか赤魔柑を撫でている。
「ランが欲しいならまた育てるから安心して食べてくれ。」
「本当?…頂きます。」
ランは赤魔柑を齧った。
「これ、すっごく美味しい!」
そのまま全部食べ終え、暫く余韻に浸っていたようだが、我に返って恥ずかしそうにしていた。
「じゃあ、今から買いに行くか。」
頰は紅いままだったが、手を繋いで頷いた。
以前に赤魔柑の種を買った屋台で、種を買い占めるとそれが入った袋を大事そうに抱えていた。
「主様、ありがとう。」
「ランが喜んでくれるからな。」
「…なら、もう1つお願いするよ?」
「いいぞ。今日はランとのデートだからな。」
「じゃあ…」
ランが目が瞑る。
「…ああ。」
周りに人がいる事に気付き、恥ずかしくなったが、ランが望んでいる事だ。
俺はランと唇を重ねた。
すると、すぐにランの方から離れた。
「ラン?」
「あはは、結構、恥ずかしいね。」
「…そうだな。」
「でも、もう一回、して欲しい。」
再び唇を重ねる。
「帰るか。」
「うん。」
キスをした際に手は離れてしまったが、種の入った袋越しに繋がれていた。
部屋に戻り、ベッドに横になる。
(明日はルティとだな。)
「あなた。」
(どうかしたのか?)
「お金、増やしておかなくていいのですか?」
(そういえば金貨も無くなってたな。)
転移スライムとか冒険者ギルドに持って行ってなかったな。
(よし。行くか。)
《転移魔法》でギルドの近くに移動し、冒険者ギルドの中へ入る。
「あっ、タケルさん。久しぶりですね。」
すぐにミアが声を掛けてくる。
「買い取りってできるか?」
「あー、その…最近はいらっしゃらなかったので…」
(仕方ないか。)
「明日の朝に取りに来てもいいか?」
「えっ…あっ。はい。わかりました…」
転移スライム、穴熊、実亀の素材を置いて、家に戻った。