第100話 眷属
前回で100話目でした。
何故か、感動しました。
ソリビアに今後使って貰う部屋を教えたところで、後はリリファに任せ、冒険者ギルドへ転移する。
「あっ、タケルさん。」
セレナがこちらに気づいたようなので、近づいて行く。
「本日の依頼の分ですよね?」
「ああ。出していいか?」
セレナが頷いたのを見て、空間魔法から出す。
「はい。いつも通りですね。代金は今、お受け取りになりますか?」
「頼む。」
「承りました。」
セレナは他の職員とともに魔物の部位を運んで行く。
「タケルさん!」
待っているとミアが声を掛けてくる。
「どうかしたか?」
「最近セレナの方ばっかりでは無いですか?」
「偶々列が短かったからな。」
「他意は無いんですか?」
「?何がだ?」
「それならいいんです。」
そういうと別の冒険者が受付にやって来てその対応に移った。
(なんだったんだ?)
「タケルさん、終わりましたよ。」
セレナが戻って来た。
「転移スライム36体、穴蛇64体、実亀21体です。依頼は転移スライムが5体、穴蛇は10体、実亀は2体ずつですので、23個完了となります。転移スライムの魔石は金貨2枚、穴蛇の魔石は金貨1枚と銀貨6枚、毒袋が金貨1枚、皮が金貨1枚、実亀の魔石が金貨2枚と銀貨5枚、爪が銀貨5枚、甲羅が金貨2枚となりますが、甲羅のうち14個が割れているため金貨1枚と銀貨8枚となります。よって金貨334枚と銀貨1861枚になります。このままお受け取りになりますか?」
「ああ。そのままでいい。」
「畏まりました。…こちらが代金になります。」
硬貨を受け取り、冒険者ギルドを後にする。
転移して帰ってくると、夕飯は既に出来ているようだ。
テーブルに全員が座っている。
「ただいま。」
「おかえりー。何しに行ってたの?」
「依頼の代金を受け取って来たんだ。」
行く前に押し付けて行ったからな。
「あー。そういえば行ってなかったわね。」
「そうか。仲良くなれたか?」
「はい。仲良くなりました。」
「そうか。」
仲良くなってくれるなら何よりだ。
「じゃあ、早速食べるか。」
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
(ん?)
「ソリビアは知ってたのか?」
「先程、レイラ殿に教えて頂いた。」
「へぇー、って、殿?」
「…おかしいだろうか?」
「いや、まぁ…珍しくはあるな。」
「あたしが呼び捨てでいいって言っても聞かないし。」
「私にとってはそれが普通なのだが…っと、タケル殿。」
「ん?どうかしたのか、ソリビア?」
「此度の件、本当に申し訳なかった。そして、救って頂いた事、心より感謝する。」
ソリビアが頭を下げた。
「ああ。いいぞ。過ぎたことだしな。それにソリビアが自分の意思でやったわけではないみたいだしな。」
「いや、私の意思だ。王子の命令であっても、実行したのは私だ。」
ソリビアが再び頭を下げる。
「私の事は奴隷、レイラ殿やルティ殿ではなく、世間一般の奴隷の扱いで構わない。」
「いや、そんなことしなくていい。」
逆に迷惑だ。
「そんなことより何かの役に立ってもらった方が何倍も嬉しい。」
「だが…」
「わかった。じゃあ、今から俺がすることを受け入れてくれ。」
「う、受け入れる?何をだ?」
見るからに狼狽している。
まぁ、主語がなかったからか。
「いいから。」
「いいって…どういう?受け入れる…はっ!」
(もしかして気がついたのか?)
俺が《眷属化》を使えると言った覚えはないが…
「も、もしかしてそういうことか!?」
「…」
「そんな…こんなところで…人前だぞ?」
ソリビアは頬を赤く染め、両手で左右から挟んでいる。
(うん。勘違いしてるな、これ。)
《眷属化》に恥ずかしがる事はない。
何と勘違いしてるかというと…
ソリビアは目を閉じているが、睫毛が震えている。
(そんなこと人前でするか!)
どう考えてもそんな流れではなかったはずだ。
「《眷属化》。」
以前にレイラとルティにした時のような感覚があった。
《眷属化》が完了したのだろう。
「へ?」
理解できていないソリビアが目を瞬かせる。
「…《眷属化》は終わったぞ。」
「《眷属化》?」
「ああ。なんだと思ってたんだ?」
「…っ!?きゃぁぁぁ?!」
一瞬で顔が紅潮し、顔を隠していた。
ルティとレイラはそんな様子に微笑んでいる。
その様子を見て俺も頰が緩む。
(年齢が逆転してるな、たぶん。後でソリビアに歳を聞いておくか。)
「…ねぇ、タケル?」
リリファの声に振り向く。
「どう…した?」
顔は笑っているのだが、目が笑っていない。
「あたし、《眷属化》なんてされてない。」
「…そうだな。」
「あたしの方が付き合いは長いのに。」
「…」
(あれ?もしかして怒ってる?)
レイラの方に目を向けるが、我関せずという感じで夕飯を食べている。
他も同じ感じだ。
「今日会ったばっかりのソリビアちゃんには《眷属化》を使うのに、私には一言もそんなことより言ってくれなかった。」
「それは、リリファは奴隷とかっていうわけじゃないし。」
「そうだね。」
「その…ずっと一緒って訳じゃないから…」
「タケル、あたしと《妖精契約》したよね?」
「《妖精契約》?」
(したか?)
「冒険者ギルドでしていましたね。」
ヘルプの言葉で思い出した。
リリファが冒険者達に囲まれた後、俺と契約すると言って、緑色の粒が流れてきたんだったな。
「ああ。したな。」
「あれって、妖精族にとっては大切なものなんだ。」
「そう…なのか?」
「そう。契約者が生きている限り、破棄される事はないの。これからずっとタケルといるんだよ?」
「…怒ってるのか?」
「そうだね。私はずっとタケルといるのに、私だけ《眷属化》してくれないんだもんね。」
「…ごめんなさい。」
素直に謝っておく。
「…」
「…」
「《眷属化》して。」
「ああ。《眷属化》。」
リリファも《眷属化》する。
機嫌が悪い程度まで落ち着いたようだ。
そしてリリファはソリビア達と再び話し始めた。
(そんなに《眷属化》して欲しかったのか?)
「そうなのでしょう。『繋がり』ですから。」
(でも、《妖精契約》で十分じゃないか?)
「『繋がり』が1つでなければいけない事はありません。」
(よくわからないな…)
ヘルプと話していると服の袖を引っ張られる。
(ん?)
見ると、スメノスが椅子から立ち上がり、俺の横まで来ていた。
「どうかしたのか?」
「…私、だけ、してない。」
「いや、スメノスは神だし…」
「…《眷属化》。」
「いや、だから…」
「《眷属化》。」
「…」
「《眷属化》。」
「分かった。《眷属化》。」
スメノスに押し切られ、《眷属化》すると、座っていた椅子に戻って行った。
(スメノスもヘルプの言う『繋がり』が欲しかったのか?何のために?)
そんなことを考えながら、夕飯を食べ続けた。