第99話 訪問者(7)
突然のことにソリビアは目を見開いていた。
同時に俺も驚いていた。
「スメノス来てたのか?」
「…うん。追いかけて、来た。」
その手には大鎌が握られている。
シャゲアペルとは真逆の黒の刃。
両方ともスメノスが作ったとあって色以外は変わらないように見える。
「黒もかっこいいな。」
「…うん。でも、白も。」
「確かにな。」
白と黒の刃に挟まれたソリビアはーー
目の端いっぱいに涙を溜めていた。
「「え?」」
俺とスメノスの声が重なる。
その間に溜まっていた涙は頰を伝う。
そしてそのままへたり込み、
「うわぁぁぁぁん!!」
大声を上げて泣き始めた。
そして独特の匂いがーー
(気にしないようにしよう。)
俺の為にも、ソリビアの為にも。
「私だっでぇ、ごんなごと!じたくないもん!」
涙と鼻水を流しながら言う。
「あのひどが!そう゛じろっていう゛がらぁ〜…」
「あー、うん。わかったから落ち着け。」
ソリビアが顔を拭い、こちらに振り向く。
「その、すまない。取り乱した。」
「ああ。」
「だが、私には止めることは…」
「あっ、それなら大丈夫だぞ?」
「へ?」
「スメノスに頼んでおいたからな。」
見ると新しい騎士達がやって来た。
ソリビア達を拘束する。
軽くではあるだろうがロープで縛られている。
ソリビア達は抵抗しなかったため、すぐに済んだ。
そして引き上げて行く途中。
「タケル様、ですね。」
「そうだが?」
「貴方も王城に来ていただけますか?」
「は?何故だ?」
「王がお呼びです。」
「本気ですか。」
騎士達と共に王城まで歩く。
当然かもしれないが会話はない。
そして特別なこともなく王城に着いた。
ただ、ソリビアがこちらをチラチラ見てくるのが気になってはいたが。
扉を開け中へ入る。
流石は王城というべきかかなりの大きさだ。
(かなりの大きさだな。)
高さはともかく、土地の面積ならいい勝負かもしれない。
これを《創造》のスキルもなしに作ったとなると当然尊敬する。
長い廊下を歩き、騎士がひときわ豪華な扉を開ける。
促された通り中へ入る。
そこには煌びやかな椅子に座った男と、片頰を腫らし、ロープで縛られている少年がいた。
騎士達が片膝をつく。
咄嗟のことに反応が遅れた。
(あれ?俺もしたほうがいいか?)
俺も片膝をつけようと思ったら、静止の声がかかった。
「あー、良い。楽にしておれ。」
椅子に座っている方の男が言った。
少年の方はこちらを睨んでいる。
(まぁ、きっとあいつが王子だろうな。)
「タケル殿で間違いないだろうか?」
「ああ。」
(あっ、敬語の方が良かったか?)
「そうか…私の息子が、申し訳ない。」
椅子から立ち上がり深々と頭を下げてくる。
敬語かどうかはあまり気にしていないようだ。
「なっ!父上!このような者に…」
「黙っていろ!」
「…」
口を挟んだ王子は、王様の一喝で口を噤んだ。
「本当に、申し訳ない。」
何も言わないとこのまま頭を下げているつもりなのだろうか?
なかなか頭をあげない。
「あー、今後、こんな事がないようにしてくれ。」
「…本当に申し訳ない。感謝する。」
(こっちにも被害はなかったし、これで一件落着…)
「だが、当然、私も謝罪だけで済ますつもりはない。」
「…」
「よって、何か、謝罪の印として贈らせて欲しい。何か望むものはないだろうか?」
「…こほん。」
ソリビアがこちらを向いて咳をしている。
「そうだな…何か良さそうな魔法具とかあるか?」
「それならば宝物庫にあるはずだ。」
「こほん、こほん。」
「宝物庫なんてあるのか?」
「実質倉庫だがね。」
「こほん!こほん!こほん!」
「ソリビア、うるさい。」
「ぐすっ…」
何故涙目でこちらを睨んでくる。
「じゃあ、宝物庫から何かもらって行くな。」
「…ん、ああ…いや、連れて行くか?」
王様から謎の返事が返って来た。
ソリビアは目を輝かせて喜んでいる。
「…別に必要ないが…?」
「っ!」
「その者は、狐獣人だ。何かと役に立つだろう。」
「獣人?」
見た目には狐らしい耳も尻尾も無い。
(そういうものなのか?)
「…別にいらな…」
「っ!っ!」
…わかった、わかったからこっちを睨むな。
「はぁ…なら、こいつをもらって行くな。」
「本人も望んでいるようだ。魔法具が必要なら案内もしてもらってくれ。では…本当に済まなかった。」
王様は最後に再び謝罪をして、縛られた王子を引きずっていった。
「じゃあ、その、帰るか。」
「ああ!」
また、仲間が増えたようだ。
魔法具を貰うのは後日でもいいだろう。
「ソリビア=メルテスだ。宮廷騎士をしていた。よろしく頼む。」
家に帰ると、ソリビアが早速自己紹介をしていた。
「…なにがあったんですか?」
「押し付けられた?」
「ぐすっ…」
「すぐに涙目になるな。騎士なんだろ?」
「かわいい人だね。」
「そうね。」
リリファの言葉にルティが同調する。
「主様が連れて来たなら大丈夫だよ。」
「そうですね。」
(ヘルプも何も言わなかったしな。)
ソリビアを家に入れるときに止められなかった。
「スメノスも大丈夫か?」
「…うん。」
「じゃあ、部屋を案内するからついて来てくれ。」
部屋を案内する。
ソリビアは終始、目を輝かせていた。
新キャラは口調が難しいですね。