第10話 決意
短いです
「…。」
(疲れてるのに眠れない…まぁ、理由ははっきりしてるけど。)
横目でフェルを見る。
目を覚ます気配はない。
幸せそうな寝顔だ。
「はぁ…」
つい、ため息が出てしまう。
(明日も魔物を倒さないと宿にも止まらないし…これからもずっと…)
そう考え、今日のことを思い出すと今更ながら震えてしまう。
いきなり召喚され、想像でしかないが奴隷にされそうになり、魔物に会い、そしてそれを殺した。
(もう、戻れないのか…?)
何より気がかりなのは両親のことだ。
俺のことを探しているのだろうか?
俺はいわゆるオタクだった。
親から貰った金は、ラノベやらアニメ関連のグッズに使い込んでいたし、それのせいでクラスメイトからは直接的ないじめこそなかったものの、それが当然であるかのように無視されていた。
だが、両親だけは違った。
俺がオタクなことはもちろん知っていた。
勉強も運動も大してできるわけでもなく、決して自慢できるような息子ではなかった。
それでも、両親はずっと変わらなかった。
あたりまえに、普通に接してくれた。
それが、どれほど嬉しかったか。
よくある主人公のように自分を支えてくれる幼馴染などいない。
馬鹿なことをし合ったり、相談しあったりする親友だっていない。
両親だけが心の支えだった。
そんな両親が自分を探してくれるかもしれないと思うと、嬉しく思うのと同時に申し訳なく思った。
それならいっそ、元の世界から俺がいなくなった時点で、俺が元々存在していなかったことになっていてくれればと心から思った。
それならば、両親は心配せずに済むのだから。
そんなことを色々考えていると腹が立ってきた。
俺は普通の人間だ。
正義感が強いわけでもない。
元々凄い力を持っていたわけでもない。
天才的な頭脳があるわけでもない。
異世界に転移されるのにもっと相応しい人は他にいたはずなのだ。
それなのに俺は転移させられた。
強制的にこの世界に巻き込まれた。
今日、初めてユニークスキルを使った時、フェルがいなかったら倒れたまま他の魔物に見つかって殺されてた可能性だってあったのだ。
この世界は元の世界に比べて危険すぎる。
簡単に人の命が失われる世界なのだ。
その思考は、存在するのかもわからない神や俺たちを召喚した王女を恨むには充分だった。
(せっかく異世界にきて、反則級の力だって手に入ったんだ。これほどの力を与えられるのなんて神様くらいだろう。そしてきっとその神様のせいで巻き込まれたんだ。神様…神のせいで。何としてでも、何をしてでも元の世界へ帰る。絶対に。)
「やってやる。」
そう、決意した。
(とりあえずは金とレベルだな。)
そう考えつつも、襲ってきた睡魔に抵抗する気はなかった。
(明日からも絶対に生き続けてみせる。)
元の世界に帰ろうとしていることが、目標として、結果的に生きていくための新たな支えとなっていく。
タケルはまだその事に気がつかなかった。