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歩く度、歩く度、ズルズルと裾が落ちる。ついでに肩も微妙に落ちている気がする。
(これは、ちょっと勘弁して欲しい)
扉へ向かうために部屋の中をほんのちょっと歩いただけでこれだ。本当に勘弁して欲しい。
こんな服装で人前に出る事は、できない。どう考えても誰かに見せられる様な格好じゃない。
(無理、絶対に無理!)
百歩譲って家族ならともかく、初対面の男性には絶対に見せられない。かと言って、これ以上どうにか出来る問題でもないことは、鈴音もわかっていた。
「腹をくくるしか、ないって事か……」
理解はしていても、納得はしていない。
他にどうにか出来る物はないかと、部屋を見渡した。
眠っていた寝台と、サイドテーブルの様な小さなチェスト。それ以外は特に何もない、シンプルな部屋。装飾は一様に中華風なのに、着ている服は日本の着物の様なもの。
何度見渡しても、使えるような物は一切なかった。
(身体を隠すだけならシーツでもできそうだけど……そうじゃないんだよね)
鈴音の目的は、とりあえず服装を整えること。身体を隠すことではないから、シーツは使い物にならないのだ。
しばらく部屋と服を交互に睨みつけて、ため息と共に覚悟を決めた。
「……行かなくちゃ」
人を待たせているのだ。これ以上、時間は掛けられないと腹をくくった。
ズルズルと引きずりながら、それでも最後の抵抗と誰にも見られない様に扉をゆっくりと開ける。
太めの柱が左右に並ぶだけの、静かな廊下。人の気配や物音はしない。
(右見て、左見て……よし、誰もいな……)
首だけを出して確認した鈴音が、ほっと息をつき身体を出そうとする。
「着替えられたか?」
「きゃんっ!」
だが、タイミングよく玄武が柱の影から現れる。驚いて思わず口からこぼれてしまった鈴音の声が、廊下に反響した。
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