6
用意されていた服は、どことなく着物に近いものだった。
(そういえば、あの人が着ていた服も着物っぽかったな……もう着物でいいや)
上半身が裸だったのではっきりと見た訳ではないが、袖を抜いて腰でとめていたから、おそらく着方は大差ない。はず。
上の衣は真っ白な羽織の様なもの。下は袴と形状がまったく変わらない。ただし、サイズが大きすぎる。羽織ってみなくても明らかに大きい。
「これ、もしかしなくても、あの人の……?」
普段自分が着ている巫女服の2倍はあるだろう。形自体が大差ない分、大きさの違いがとても目立つ。
滑らかで引っかかりのない肌触りは、使われている布がとても上質である事を示している。
「本当に、とんでもない事に巻き込まれたみたいね」
高級なのが分かっているから、どうしても素直に袖を通す気になれず、意味もなく表面を撫でる。
(悩んだ所で、考えた所で。現状が変わるわけじゃないのだけど)
今、色々考え始めたらどうしようもなくなってしまいそうで、鈴音は考えることを中止する。
「高級そうで怖いとか今は言ってられない、うん」
自分に言い聞かせるように呟くと、手に取っていた服に見てため息をついた。
(怖いなぁ……)
怖気づく心に気が付かない振りをして、巫女服を着るときと同じ手順で着込んでいく。
(やっぱり大きい)
襟元をどんなに締めても、大きな袖の開きはどうしようもならない。袴の裾も長くて、まるで子供が大人の着物を着ているようだ。
「流石にこの格好で出ていくのは、ちょっと……」
紐で袖を結んで、裾のギリギリまで内側に折り込む。
綺麗な着物だからこそ、余計に情けなさが漂う。着られているとか、もはやそういう問題ではない。
あまりにもみっともないであろう姿を予想して、何度めかわからない、深い溜め息が漏れていった。
閲覧ありがとうございました。