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玄武さまと黒の花嫁  作者: 夜兎
1章 白蛇が導く
5/21

4

 肌を打つ乾いた音と、じんっと熱を持った手の痛みに、鈴音は一瞬で我に返った。



「あ……ごめんなさ……」



 嫌なことをされた訳ではない。なのに手を上げてしまったことに、かなりのショックを受けていた。



(咄嗟の事とは言え、こんな事……)



 オロオロと瞳を彷徨わせて動揺を露わにする鈴音に、男は静香に声を掛けた。叩かれた事など微塵も気にしていない、といった様子で。



「手を痛めてはいないか?」



 壊れ物を触るかのような手つきで、優しく手を包まれる。その手はとても大きく骨ばっている、たくましい男の人の手だ。



「どうして……叩いたのは、私なのに……」

「そんな小さな手で叩かれた所で、私には痛くも痒くもないさ。それより、こんな硬い肌を叩いた君の手が心配だ」



 包んでいた手をそっと広げられて、手のひらを撫でられる。羽で擽られているようなむず痒い感触に、思わず首をすくめた。



「あぁ、ほら。赤くなってしまっている……痛いだろう?」



 男は手のひらで遊ばせていた指先をとめた。手首を掴まれて、両手のひらを空に向けさせたかと思うと、自らの両手をその上に重ねた。



「………………」



 小さく、鈴音の知らない言葉が呟かれる。確かに言葉としては認識出来るのに、決して意味はわからない。日本語とも、英語ともいえない、聞いたことのない言葉。



(なのに……とても心地いい……)



 耳障りがいいのは男の声なのか、それとも言葉なのか。はっきりしたことは鈴音にはわからない。ただ、ずっと聞いていたくなる。

 ぼんやりと声に耳を傾けていると、そう時間も経たないうちに男の手が離れた。同時に言葉も止まる。



「これでいい。もう痛くないだろう」

「あ、本当だ……痛く、ない」



 促されるままに手のひらを見て、驚き目を開く。

 叩いたことにより赤くなっていたにも関わらず、今の手のひらは赤みなど残っていない。ヒリヒリとした痛みも気がつけば無くなっていた。

 


「あなたが直してくださったんですか?」



 頭が追いつかないながら、それでもお礼は言わなければいけないを男を見上げる。

 未だに動揺が瞳ににじみ出ているものの、真剣にこちらを見る小さな少女に、男はゆったりと目を細めた。



「直した、と言うほどの事はしていない。痛みを引かせただけだ」



 男にとっては、なんてことないことなのだろう。いちいち深く考えていたら話が進まなくなってしまうと、鈴音は頭を切り替えた。



「それでも直して頂いたのには変わりありません。ありがとうございます。……それで、あの」

「どうしてここにいるか、だろう?」

「……はい。それと、貴方は一体……?」



 ある程度鈴音の質問がわかっていたのか、男は鈴音が全てを言い終える前に言葉を引き取る。

 心の内まで見透かされてしまうような視線を浴びながらも、鈴音は視線を逸らすことはない。その様子に、男は心底面白いと言わんばかりに笑った。



「ここは四神しじんが暮らす、君から見た神の世界。私の名は玄武げんぶ、北を司る一柱ひとばしらだ」

「かみ、さま……?」



閲覧ありがとうございました。

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