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微かに聞こえる風の音だけが、夜闇に響く。
ぐっすりと眠りについていた筈の鈴音は、何かの気配を感じ意識を浮上させた。
「なぁに?」
寝ぼけ眼で気配を感じた場所ーー窓際を見る。
よく目を凝らすと、閉じられているカーテンに薄く影が映っていた。
(一体なに……? ひと、ではないよね)
動くことなくじっとしている小さな影。人間よりは確実に小さく、トカゲやヤモリに比べれば大きい。
疑問に思いながらゆっくりカーテンを開くと、窓を覗きこむようにしている白蛇がいた。
「ひるまの……?」
開けてと言わんばかりに頭を窓にぶつけていたので、白蛇が入り込めるくらいの隙間を開ける。開いた途端、躊躇うことなく室内へ滑り込んできた。
「どうしたの、しろへびさん」
寝起きだからか呂律が回っていない、舌足らずの言葉が響く。本人は気がついていないが、実際の所頭もあまり回っていない。
そんな鈴音を気にすることなく、白蛇は腕に絡みつく。
するすると肩近くまで上がってきたおかげで、目線の位置がぴったりあわさる。
(ほんとにどうしたんだろう)
首を傾げた鈴音に、白蛇がニンマリと笑った。それは決して比喩などではない。文字通り目を細めて笑ってみせたのだ。
『助けてくれたお礼に、いい所に連れて行ってあげる』
「何!?」
ようやく自分の置かれている奇妙な状況に気がつくものの、時既に遅し。
無邪気な幼い声が頭に響いたかと思うと、部屋がぐにゃりと曲がった。ずっと見ていると、気持ち悪くなるような曲がり方。
思わず後ずさるも、腕に絡みついている状態なので距離を置くことは出来無い。むしろ今いる空間の異様さを認識するだけだった。
白い、白い、純白の世界。その世界に混ざりこんでいくように、黒が見え隠れしていく。混ざるような動きをしているのに色は分かれたまま。
下げた筈の足はいつの間にか元の位置に戻り、重力など感じられないくらいふわふわとする。
(気持ちわるい……)
混ざっていく世界。混ざりきらない白と黒。
自分が何処にいるのかさえ分からなくて、頭のなかが混乱する。
『大丈夫。きっと気にいるよ、みんな! 貴方なら、ふさわしいから』
少女の言葉を理解することなく、鈴音の意識は闇へ飲み込まれていった。
ーーーーーー
バシャっと重い何かが水に落ちる音がした。
何事かと男は泉に向かう。
「っ……!?」
ぐっしょりと濡れ、水に浸かる自分の色をまとった少女に、男の喉が思わずといった様子でなった。
「彼女は……一体……」
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