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前話のあとがきにも書きましたが、女性の妊娠、出産についてなど、デリケートなお話になっています。
なるべく明言を避け、濁して表現しましたが、ご不快に感じる方がいらっしゃるかもしれません。
心当たりのある方、これらのワードに不快感を覚える方はご注意下さい。
「初代四神は、高位の神によって直接創り出された関係で、非常に従順であった。今の私から見れば、自我がなかったと言っても過言ではないだろう」
高位の神の言う通りに女性を保護し、言われた通りの説明をした。
意図的に連れて来られた事を知らない女性は、元の世界に帰れない事をひどく嘆いたものの、この世界で暮らす事を受け入れた。
しかし、悲劇が起こる。
四神は名の通り、玄武・白虎・青龍・朱雀の四柱で構成されている。代替わりをするには、四柱の血を引く、四人の子供が必要。だが男四人に対し、母体となる女性はたった一人。
それでも、子供の父親となる神が一柱ならば四人産むことも出来たかもしれない。だが必要なのは各々の血を引く子供だ。父親は四人とも別。
女性は、四人の男性と交わらなくてはならない。
色々と深く考えない女性であれば。
四神が、感情という名の自我を持ち合わせていれば。
神々が子供を急かさなければ。
もっと時間があれば。
こうであればよかったと、考えつくことは沢山あるが……今となっては過去を変えることは出来ない。
いち早く女性を花嫁とし、次代を産むことを神々に命令された四神は、、女性の意思を無視した。
命令に忠実に。女性の意思を考えることなく、行動に移してしまった。
一度に四人もの男の花嫁とされた女性は当然気持ちを整理出来るはずもなく。
受け入れられないと、落ち着く時間が欲しいと頼んだ願いは四神には届くことなく。
強制的に四神の子供を産まされた女性は――――壊れてしまった。
四人目の子供を産んだ時、彼女は寝台から出ることはなくなった。
一日の大半を寝台で過ごす。
自分が腹を痛めて産んだ子供の事は頭にあったらしく、普通と変わらない愛情を注いだという。
しかし、夫となった四神の事は壊れてもなお拒絶し続けた。一度視界に入れば、体力の続くまで暴れる。それでも留まる様であれば、自傷行為に走った。
最後の最後まで、子供たちには良き母であり続け、夫達には憎しみを抱いたまま拒絶を続けた。
*****
「ようやく神々が異変に気がついた時には遅く……彼女は憎しみの中、自分で命を絶っていた。ある程度子供が成長した後だった」
玄武の口から語られた話は壮絶で。
もしかしたら自分の身に降りかかる事かもしれないと、身体が震えた。
「玄武さまが私に目隠しをしたのは……私が同じような目に遭うからですか?」
「それは違う。神々は悲劇を繰り返さない様に、花嫁を四神の数に合わせて連れてくるようにしたからだ」
「では、どうして」
鈴音が同じ状況に陥っているなら、玄武が隠したがった意味も納得が言ったのだが、それは違うと言う。間髪入れず否定されたのが、確かな証拠だ。
「神々は、初代の一件を参考に事前にどの神の花嫁にするかを決めて、こちらの世界へ迷い込ませた。運命の相手と称してな。……今までの四神の記憶から、君は……鈴音は。私の花嫁では、ない。それでも、手放したくなかった……君をこの世界で見つけたのは、この私だ」
「………………」
「泉で眠る君の姿を見た時、ようやく、私だけの花嫁が現れたと思った。だが違った……孤独を埋めてくれる存在が現れたと思ったのだが……違ったのだ……!」
悲痛な玄武の叫び。それは、彼がどれだけ孤独に時を過ごしてきたかを物語っている様だった。
「君が運命の相手と出逢えば、あっという間に恋に落ちるだろう。そういう風に出来ているのだ、花嫁というのは。……君がいなくなるのは耐えられない、私が見つけた、私だけの鈴音だ」
本人からすれば死活問題なのだろうが、鈴音にとってはいい迷惑である。
鈴音から見れば、玄武は昔に囚われているとしか思えない。彼は初代こそ感情も自我もない、神々に従順な存在だと言い張っているが、玄武も大概神々に従順だ。神々に植え付けられた、潜在意識なのかもしれない。




